26話―主人公は恥ずかしいセリフを吐いてナンボ
「フンフフ~ン。たっだいま~」
「ど、どうされましたか。妙に嬉しそうですが」
ルーンの上機嫌はまだ続いている。
帰り道は俺にベッタリだった。喜んでくれるのはとても嬉しいのだが、ここまでくっつかれると恥ずかしい。
副団長にことの顛末を簡潔に説明した。
「なるほど。それは良かったですね、ルーン殿。あいつの作った剣は王都の鍛冶師よりも良い。私が保障しましょう」
「そういや同い年とか言ってたけど、あれマジ?」
「はい。私がムルクスに住んでいた時の幼馴染みです。それが何か?」
「いや………副団長っていくつ?」
「26ですが?」
マジで!?
いや老け顔にも程があるだろ。パット見四十代だぞ。
衝撃の事実に俺が少し引いていると、喜びから戻ってきたルーンが今日のことを話した。
「久しぶりに来たけど色々変わってて楽しかったよ。………あ、あと奴隷商に目をつけられてた」
「あいつらですか………。その様子だと、何事もなかったようですね。何よりです」
「やっぱり副団長も知ってたか」
聞けばムルクスの奴隷商はたった一つらしい。それもこの国で最大規模の。
人混みを利用して、良い人がいれば何も音沙汰なく連れ去るのが常套手段のようだ。最悪のナンパだな。いや、もう誘拐か。
「あいつらのせいで何人もの人々が、奴隷として売買されています。騎士団として不甲斐ないばかりです」
「それでさ、副団長。明日の夜あたりにお礼参りに行こうと思うんだけど、どう?」
「………私としてもそうしたいのですがね………」
「え、できないの?」
犯罪組織だよ?むしろ検挙しない理由が分からない。
「………はい。私たち騎士団は、正式な命令がない限り動くことができません。王族は賛成しているのですが、他の貴族たちが反対していまして………」
「ああ、奴隷を買うのは他国だけじゃないってことか」
「残念ながら。全ての貴族がそうという訳ではないですが、我が国の貴族の多くは、王に仕えているという自覚を持っていません。自らの領地における王だと思っています。ですから、汚職も奴隷売買も日常茶飯事なのです」
「よくある典型的クソ貴族だな」
ラノベに出てくる貴族って、どうしてこう揃いも揃ってクズなんだろう。
全部がそうと言う気はさらさらないが、この世界も例外ではないらしい。
にしても、それなら騎士団は動けないってことか。
「王族なら押しきれそうな気もするけど、どうなんだ?」
「我が国は数年前から議会制を導入しておりまして。近代的にするのも考えものですね」
「無駄に民主的にしやがって。いや、貴族しかいないから民主的ではないか」
王命が下ることはない。ついでに、奴隷商を潰したら貴族から目をつけられるかもしれない。
後者はどうでもいいが、前者がないと騎士団の協力を仰げない。
別に俺一人で行ってもいいけど、その場合失敗したらどうしようもなくなる。最悪、奴隷として売り飛ばされる。
どうにか大義名分を得てカチコミかけられないかな。
俺が口をへの字にして唸っていると、今までどっかに行っていたルーンが戻ってきた。どうやら剣を置いてきたらしい。
「どうしたの二人とも?難しい顔してるけど」
「いや、どうにかして奴隷商ぶっ潰せないかな、と」
「物騒なこと考えてるね………。う~ん、結構色んな人から恨み買ってるだろうから、私も何かしたいけど………」
恨み、か。
多分家族や友人、知り合いを奴隷として連れていかれたのだろう。
その人たちのためにも、早く動きたいんだが………。
ん、恨み?色んな人から恨みを買ってる、と………。へえ、なるほど。
俺の口元に笑みが浮かんだ。もう癖になってるな。
「よしルーン。明日冒険者ギルド行ってみよう。俺の予想では、面白いものがある」
「その顔、何か思い付いた?」
「ああ。成功するかは怪しいがな」
「何をするかは分かりませんが、動く場合は私に一声かけてからでお願いしますよ」
「分かってる分かってる」
さて、俺が明日冒険者ギルドに行って何をするかは、明日のお楽しみということで。
♢
翌日、冒険者ギルドに来た。
今回はフル装備。ルーンは念のためフードで顔を隠している。勇者が来たと騒がれるのを避けるためだ。
「おお、やっぱりムルクスのギルドは人が多いな」
「前に来た時よりも増えてるな………」
ざっと見た感じアクロアの倍、もしくはそれ以上。建物に至ってはアクロアのものとは比べものにならない。
さすがは王都に次ぐ大都市。スケールが違う。
(ここまで多ければ、Sランクの1人や2人いると思ったんだが、いないみたいだな………)
そういえばSランク冒険者って変人が多いって聞いたことがある。ルーンはマシな方だそうだ。かなりだな。
というか、
「ルーン、お前別に来なくても良かったんだぞ?俺がやるのは個人的に気にくわないからだし」
「そんな軽い理由なのは今知ったけど………。うん、私も同じ理由だよ。奴隷とか良くないと思うから一緒に来た」
「………分かったよ。あと、理由なんてそんなので良いと思うぞ。無理に探すよりはな」
「うん!」
なんか、ここ数日で俺に似てきた気がする。気のせいかな。
「それで、どうするの?まさか直接言いに行くつもり?」
「そんな馬鹿なマネはしないよ。なにせ、表だって行動すれば消される」
消されるというのはあくまで予測。あの組織ならやりかねないということだ。
割と派手にやってるはずなのに、世間ではそこまで危険視されていない。知ってる人も少ないほどだ。
何らかの隠蔽工作をしてないと不可能。
例えばそう、敵が行動する前に潰すとか。
………ほら、見つけた。
(ルーン。声出すなよ。あと目線も俺に向けるな)
(う、うん。でもどうしたの?)
(あの角のテーブルにいる奴、多分奴隷商の人間だ。そうじゃなくても明らかに危険だ)
(そうだね。雰囲気が違う)
冒険者は基本線、気楽でフリーダムな職業。
なのに、あいつはずっと眉間にしわ寄せて周囲を警戒している。
隠そうとしていないのは未熟なのか、あるいは脅しか。
(ああやってギルドで冒険者を見張っている。だから、目立った行動をすれば即おしまいだ)
(難しいね。じゃあどうやって準備するの?)
(………当てはあるけど、確証はないんだよな………)
そう言うと俺は、ルーンを引っ張って依頼状が貼ってあるボードに向かった。なるべく気配を出さずに。
(多分ここにある)
(ボードだよね?こんなところにあるの?)
ここのボードには神社のおみくじのように依頼状がひしめき合っている。人が多ければ依頼も当然増える。
しかし、ここまで多いと何かと不便だ。
───欲しい依頼が見つからないほどに。
(奴隷商は色んな人から恨みを買ってる。そうだろ?)
(うん、何度かそれで泣いてる人も見たもん)
(当然、その人たち自身じゃどうにもならない。それなら奴隷商が消えて欲しいと祈る。だが勝手に潰れることはない。ならばどうするか?)
答えは単純。
(それができる人に、つまり冒険者に頼めばいい話だ)
(あ、なるほど!………でも、素直に依頼しても奴隷商に依頼状を消されるだけじゃない?)
(そこが問題だ。だけど見てみろよ)
ボードには無数の依頼状。重なってるのも、もちろんある。
ここから一つの依頼を見つけ出すのは骨だ。
(誰かの依頼状の後ろに隠せばいい。仮に奴隷商が来ても、そんな目立つマネはできない。今も、この中に眠ってるお宝があるはずだ)
みんながみんな、奴隷商が怖くて何も行動できないということもあるかもしれない。
しかし、繰り返すがここはムルクス。この国最大の商業都市。
人が多ければ、それだけ勇敢な者も現れよう。
(よーし探すぞ!でもできるだけ目立たず、かつ正確に探すんだ!)
(結局難易度高いんだね!分かった!)
もともと冒険者は依頼状の裏をめくらない。めんどくさいから。
それをいかに自然にやるかが問題だ。
『光学迷彩』は実体を消すわけではないから使えない。人が少なければいけたのに。
………それから数十分。なんとか慎重に探したけど、見つからなかった。
(ないね………。まさか取りに来たのかな?でもそんなことしたら気付くよね………)
(………最悪、ギルドも取り込まれてるか………。いや、受付さんの様子を見る限りそれはなさそうだな)
もしギルドが奴隷商側だったら、何もかもおじゃんだ。そもそもクエストに行けない。
だが、受付さんはごく普通。少なくとも末端まで奴隷商側ということはない。
(奴隷商が冒険者に扮して依頼状を取ってるのが一番濃厚か。どうしようもないな)
(でも、それで済ませられないよ!なんとか見つけないと)
(俺もそうしたいが、時間切れだ)
テーブルの端にいる奴が、少し警戒を強めた。
そりゃ、こんなことせずともボードの前に何十分もいたら不審がる。しかもいつもは見ない顔なんだから。
これ以上は危ない。なんとかルーンを説き伏せて出口に向かった。
(じゃあどうしようもないじゃん………)
(最終手段だが、大義名分もクソもなく、個人の感情のみを理由にして正面から潰しにいくってのもある)
(もうそれでいいよ!行こう!)
(ヤケクソになってんな………)
今のところその手段を取るつもりはない。
下手したら俺が犯罪者にされる。ルーンは勇者だけど、俺は特別扱いされない。
明日もあるが、あの様子では見込みは薄い。
ため息をつきながら外に出ようとしたところ、すれ違った少女がいた。十歳近くの、顔つきが整った少女だ。
(冒険者じゃないな。依頼人か?にしては随分と小さいけど………)
なぜか、すごく深刻な顔をしている。周囲をキョロキョロしてるし、落ち着きがない。
少し気になったので、すれ違い様手に握っていた依頼状を覗き見た。
………それが目に入った瞬間、咄嗟に少女の肩を掴んだ。
「えっ?やっ、離して!」
「しっ。安心しろ。俺たちは敵じゃない」
「レイ?どうしたの?」
「お前は昨日の食堂に行っててくれ。すぐ行くから」
「う、うん。分かった」
パタパタと駆けていくルーンを確認した後、怯えている少女に向き直った。
「君、その依頼状をギルドに持っていかない方がいい」
「あ、あなた、誰ですか?奴隷商の奴らじゃ………」
「それはないから安心してくれ。ひとまず俺と一緒に来てくれ。その依頼、受けてやるから」
「え?あ、ちょっ!」
このままでは信じられそうにないので強行策に出ることにした。
すなわち、困惑する少女の手を引いて、ルーンが待っている禍々しい食堂へ走った。
………なんか、奴隷商になった気分だ。
♢
路地裏に入り、『光学迷彩』と『飛翔』を使ってダッシュした。
その途中でルーンを見つけたので回収していった。
「あなたたち、何ですか。奴隷商ですよね」
「だからそれはないって言ったろ。少なくとも敵じゃないから」
「強引に連れ去っておいて何を今さら!」
「そうだよレイ!女の子に乱暴しちゃダメだよ!」
「お前までそっちにつくな!」
まあ若干強引だったのは否定しない。でもあの場ではこうするしかなかったし………。
「ルーンも気づいてただろ?あそこ、奴隷商の奴がウジャウジャいたぞ」
「「え!?」」
「ルーンまで驚かないでくれない?」
「き、気が緩んでたから………」
「じゃ、じゃあ私を助けてくれたと………?」
「そういうことだ。言ったろ?『その依頼状をギルドに持っていかない方がいい』って。あのまま持っていったら確実に捕まってたぞ。分かったらそんな警戒するな」
そこまで言うとようやく少女の緊張が解けた。
確証があるまで、いつでも逃げられる体勢だったのは評価していいと思う。
そして、その勇敢な行動も。
彼女の持っている依頼状を取り上げて嘆息した。
「あっ………」
「『奴隷商を潰してほしい』か………。よくその歳、その体でこんなこと依頼しようと思ったな。下手すれば取っ捕まるぞ」
「それでも………私はあいつらを絶対に許したくない………」
少女は歳に似合わないほど、顔にシワを寄せた。
それは、深い怒りや憎しみによるものだろう。
「大方、奴隷商に家族か友達を連れていかれたか、そんなとこだろ」
「………うん。お姉ちゃんは、先月あいつらに連れてかれた………」
少女が経緯を話してくれた。
ざっとまとめると、唯一の親類である姉を取り戻したい、ということだ。妹がこの顔だ。姉もキレイなんだろう。だからこそ、狙われた。
そこで泣き寝入りするのではなく、ちゃんと行動に出たのだから誉めていい。
「奴隷商の根城やれ、そこまでの経路やれ、よくもまあ1人でここまで調べたな。連中がお前を見張ってたのはこれが理由か」
「すごい。ここスラム街だよ。1人でこんなところに………」
「………私はどうなってもいいの。お姉ちゃんさえ連れ戻せれば………」
姉妹愛が深いことで。
報酬も高い。おそらく全財産をつぎ込んだのだろう。とても1人で稼げる量じゃない。
この頑張りに、俺も答えてやりたい。
………だが、これだけは言っておきたい。
「お前、名前なんて言うよ?」
「………テル」
「テル。いいか。自分はどうなってもいいとか、姉さえ無事ならいいとか、そんなこと言うな。絶対にお前は生きろ。それが姉の願いなんだから」
「………」
「お前は強いよ。ほとんどの人が何もしない中、お前はその小さい体で頑張って行動に移した。誇らしく思っていい」
自分ではどうにもならないと判断し、誰かにお願いするために危険を侵して調べた。
それはこいつの強さだ。
「こっからは俺らに任せろ。お前の望み通り、奴隷商ぶっ潰して姉ちゃん連れて帰ってきてやるから!」
「………」
「だから、お前は笑顔で姉の帰りを待ってろ。その方がお前の姉ちゃんも喜ぶからさ」
そう言って、安心させるように頭を撫でると、涙を目に溜め、それを振り払うように年相応の笑顔を浮かべた。
「うん!」
それを見て、俺も笑いもう一度頭を撫でてやった。
………今まで静かにしていたルーンはというと………
「レイってそこそこの頻度で恥ずかしいセリフ言うよね。まだ一週間も経ってないのに何回聞いたか分かんないよ?」
「う、うるせえ!そんな言ってないだろ!せいぜい二回くらいだ!」
「恥ずかしがってるレイの顔ってすごく赤いよ」
「うるさい!」
やっぱりこいつは黙ってた方がいい。そう再認識した。
そんな俺たちの様子を見て、テルがクスクスと笑っていた。
皆さんメタいのは好きですか?私は大好きです!
ああいうのは気分次第でやります。要望あれば定期的にやります。
ブクマと感想、夜露死苦尾値画威死魔巣。(よろしくお願いします)




