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23話―二人で最強

 炎黒狼(ヘルハウンド)は炎を自由自在に操る。

 それは俺の予想以上に強かった。

 ───自らで生み出していない炎さえ、操れるほど。


「………つまり、炎が利かないだけってこと?」

「そう。魔法が利かないわけじゃなくて、炎系の魔法だけが利かないんだ」


 よくよく考えてみれば、魔法をはじくなら最初の『挑発(プロボーク)』にも反応しなかったはずだ。しかし、あいつは見ての通り狂暴になっている。

 というか、魔法が全く利かないなんて神獣レベルくらいしかあり得ない。

 多分こいつは、外界にある炎まで操って無効化してただけ。吸収されたように消えたあと、今までより大きい火球になったのはそのためだ。

 では、どうやってダメージを与えればいいのか。

 簡単だ。


「あいつ、俺の水を大げさに避けただろ?」

「うん。犬なのに水苦手なんだね」

「そこだ。あいつは水を極端に嫌っている。犬のくせに」


 自分の属性をよく理解している。

 あの火の勢いでは、多少の水では蒸発しないが、さっきのように水圧を上げれば脅威になる。

 近くに行ってみて分かったが、周りが高温状態だ。生半可な量じゃ意味がない。

 そこをどうするかだが、策はある。


「よしルーン!あの狼と思う存分水遊びしよう!準備するからもうちょっと遊んでてくれ!」

「え!?まだやるの!?うう………早く準備してよ!」


 泣き言を言っているが、ルーンの顔は自信に満ち溢れている。

 元からだった気もするが、あんなに動きが軽快だったことはない。

 ………ちょっとは楽になったのかな。

 一人取り残される孤独感、自分だけ生きている申し訳なさも、全部取り払ってやることはできてない。

 けど、少しでも肩の荷が降りたなら、あいつの仲間として喜ばしいことだ。


(っと、そんなこと考えてる場合じゃないな。準備しないと)


 炎黒狼を手っ取り早く弱らせるには、大量の水を高水圧でぶっかけてやるのが一番良い。

 しかし、ここは火山。もとから気温が高く、空気中の水蒸気も少ない。凝結させてもそこまでの量にならない。せいぜいコップ一杯程度だ。

 今この場に水はない。ならば、あるところから持ってくればいい。

 ちょうど、良い場所が()にある。


「『飛翔(フライト)』」


 遥か上空まで飛び上がり───雲ギリギリで止まる。

 雲は水の塊。雨の量からして、そこに含まれる水の量は保証される。

 ここは火山だ。地上より雲に近いし、持っていく時間も短い。

 今日は運の良いことに曇り。全ての雲をかき集めてあの犬っころにぶっかけてやろうじゃないか。


(まあ、口で言うより簡単じゃないんだけどな。今日の俺、すっごく働いてるな。今度自分にご褒美をやらないと)


 下を見れば、ルーンが炎黒狼と戯れている。ダメージが通らないと分かっているから回避に回っている。

 それでいい。ルーンには最後の仕上げをしてもらう。体力は残しておいて欲しい。

 俺は俺で、がんばるとしますか。


「『念動力(サイコキネシス)』」


 まずは俺の魔法が届くギリギリの範囲にある雲を、全て一点に集める。

 雲がくっつけば中の水がくっついて雨が降るのだが、そこは魔法で落ちないようにしている。余計キツイ。

 ………これをあと2、3回繰り返す。

 少し過剰でも良い。どれほどの水で無力化できるか分からないから、ありったけの水を集める。


「うぐっ………」


 ひどい頭痛と目眩がする。

 単純に火力を出すより、こういう操作系の魔法は精神をすり減らす。

 これなんて、天候操作と変わらない大魔法だ。よく2ヶ月でここまで上達できたな、と自分でも思う。

 ただ、半分くらいはスキルのおかげだ。俺の才能は微々たるもの。


(スキルに甘んじてらんないな。だけど、まだまだ伸び代はあるってことだよな………)


 俺の魔法が今の倍上達すれば、スキルも2倍効果が上がる。

 それだけ強くなれる。スキルを与えてくれた女神に感謝しないとな。


(感謝の言葉なんて、あの女神に言いたくないがな………。そろそろか)


 雲集めを中断し、押さえるのに集中する。

 これだけ集まれば十二分だ。次の工程に移ろう。


「『冷却(クール)』!」


 雲は水の塊と言えど、水蒸気が主に形作っている。

 その水蒸気を、冷却して全て水に変える。


(うおっ!?)


 気体が全て液体に変わり、一気に重さが増して魔法を維持するのがより一層辛くなる。

 もう少しだ。もう少しで終わる。保ってくれよ俺の体。

 なんとか踏ん張って、全ての雲がただの水になった。

 膨大な量の水。津波でも起こせそうな量だ。

 これをそのまま落としたらムルクスが大変なことになる。

 だけど、この火山はドロドロの溶岩がむき出しになっている。


(山頂は溶岩で囲まれている。大部分は炎黒狼と溶岩で蒸発してくれるはず)


 多少水が落ちるくらいなら気にすることはない。あまりに多かったら自分で処理する。

 ………もう結構限界が近い。魔力ではなく集中力が。


「ルーン!準備完了だ!一回退避しろ!」

「分かった!」


 ルーンが離れたのを確認して、魔法を組み上げる。

 最後の一踏ん張りだ。これが終われば俺の仕事はほぼ終わる。

 喜べ炎黒狼。嫌になるほど水浴びさせてやるよ!



「───『雲連瀑布(クラウドカタラクト)!』

「GL───」



 空から落ちてきた大瀑布が山頂を包み込む。

 炎黒狼が短い叫びを上げそうになったが、それは届くことなく、大嫌いな水に飲み込まれた。



 ♢



 ………大分多かったっぽい。

 幸いルーンや騎士団が飲み込まれることはなかったが、相当な量の水が山から落ちていった。十二分どころか二十分だった。

 ………もう疲れたが、まだ仕事は残ってるらしい。


「これで本当に終わり。『炎熱陣(ヒートフィールド)』」


 麓に水が落ちる前に、山の周りに高熱の結界を張る。

 木は燃えないが、水は蒸発する。オーブンの結界みたいなものだ。

 だいたい蒸発したのを確認して、地上に戻………ろうとしていきなり浮力がなくなった。

 しまった!集中力を切ってしまった!


「くっ………『飛………」

「レイっ!」


 自由落下して慌てて魔法を唱えようとしたら、ルーンがジャンプして助けてくれた。すごいジャンプ力だ。

 正直ありがたい。もう魔法は使いたくない。

 ありがたい………のだが、


「レイ、大丈夫?」

「ああ。大丈夫なんだが………この運び方はちょっと恥ずかしいので、普通に抱っこしてくれると助かります………」


 今、俺はルーンにお姫様抱っこされている。

 昨日の昼間と逆になった。ルーンが恥ずかしがっていた理由が分かった。確かにこれは恥ずかしい。

 結局お姫様抱っこのまま地上に着地して下ろしてもらった。終始ニヤニヤしてたルーンが気持ち悪かった。

 一応立てる程度だが、もう魔法は使えない。集中できる気がしない。

 しかし………炎黒狼はまだ死んでない。


「GLLLL………」

「さすがにしぶとい。だけど、倒せるようにはなった」


 炎黒狼は、津波のごとき水を浴びたおかげで超ご立腹だ。

 でも全身を覆っていた毛皮は全て濡れており、ダメージも甚大。もうさっきのような防御力はないだろう。

 後は、炎黒狼の首をぶった切れるほどの攻撃をすれば倒せる。

 その仕上げは、ルーンに任せる。


「ルーン。あいつの首、獲れるか」

「………難しいと思う。あれだけ弱ってても、まだ硬いから………」


 そう、まだ足りない。

 水を浴びせたのは倒すためではなく弱らせるため。あれはサポートに過ぎない。

 ………そのあとのこと、何も考えてないはずがないだろ。


「───全力なら、どうだ?」

「っ………無理だよ、あれは………」

「推測だけど、お前の全力はまだお前もコントロールできてないんだろ?」

「………うん」


 やはりか。

 前にルーンが俺に「本気を出す気はない」と言った。

 ただ出したくないだけ、だと思ってたが、あのときのルーンは「それが一番良いから」とまで言った。

 なら、まだコントロールできず、出したら危険なものなんだろう、と思ったわけだ。

 妥当な考え方だ。それで他の人まで巻き込んだらトラウマになる。

 ………まあ、その本気を今から出してもらうんだけど。


「その本気、スキルか。少しくらいならできるだろ?」

「え?う、うん。でも、三秒くらいしか………」

「───十分だ」


 あの狼までダッシュして首を切る。それまでの時間が三秒。

 十分すぎる時間じゃないか。

 不思議そうに見るルーンに俺は笑いかけた。


「なあルーン。お前に何か一つ命令して良いって権利、俺が持ってるの覚えてる?」

「え───」


 忘れるはずないよな。

 まだ二日前なんだから。



「それ、今使うよ─────全力で、あの狼ぶっ倒してこい!」



 ルーンは呆然とした後、あきらめたように苦笑し、

 ───とても良い笑顔で頷いた。


「うん!見ててよ!私の全力!」

「ああ、期待してるよ。あ、出すのは二秒で良い。切る直前に発動して終わったらすぐ止めろ。いいな?」

「最後までカッコつかないのかな………」


 仕方ないじゃないか。シリアスはあまり得意じゃないんだ。

 そこで、今まで律儀に体力温存してくれていた炎黒狼が、痺れを切らして雄叫びを上げた。


「WAOOOOOOON!!!」


 相討ち覚悟なのか、全身から爆発するように赤い炎が沸き起こる。

 対するルーンも、すでに臨戦状態。いつ始まってもおかしくない。

 互いににらみ合い、しばらくしたところで………同時に地面を蹴った。


「GLAAAAAA!!」


 スピードは互角。

 しかし、体格の差で炎黒狼の爪の方が先に到達する。

 俺が若干焦ったところで、ルーンが高らかに叫んだ。



「《半神英雄(ヘラクレス)》!!」



 それと同時に、ルーンの全身に赤く輝く紋様が刻まれていく。身体能力を底上げするものだろう。

 外見だけでなく、中身にも変化があった。

 魔力量が跳ね上がり、炎黒狼をも上回った。俺の数倍の量だ。

 その変化は一瞬。動体視力強化がなければ見えないほど。

 そして、炎黒狼とルーンがすれ違った。


「………」


 まだ炎黒狼の首は繋がっている。だが、既にルーンは《半神英雄》を切っている。

 ルーンが失敗した………わけではないことくらい分かっている。

 俺には見えていた。

 静止して、数秒たった後、


 ドスン、と重い音をたてて、炎黒狼の首が落ちた。

 ルーンはちゃんと切っていた。爪も避け、反応できない速度で首を切った。

 凄まじい。あれを出されては俺も勝てない。

 久しぶりに全力を出して疲れたのか、ルーンはフラフラと崩れ落ちた。


「ふぅ………終わった………」

「お疲れさん。すごいな、お前の全力」

「えへへ………レイでも勝てないでしょ………」

「悔しいがな。暫定、お前は俺より強いってことでいいよ」

「なら、二人で最強だね」

「そうだな」


 最強、か………。確かにそうかもしれない。

 得意分野が違うからこそ、二人なら負ける気がしない。

 良い仲間に巡りあえて良かった。

 立てないようなので、おんぶしてやった。胸当てのせいで感触は伝わらなかった。


「………あ、そうだ」

「あいたっ!?え!?落とす?ひどくない!?」

「悪い悪い。大事なことを思い出してな」

「仲間より大事なことあるって言うの!?今の流れで!」

「悪かったって。それに、仲間のためのことだし」

「?」


 そう言って俺は、倒れる炎黒狼に近づいて、手早く合掌してからナイフを取り出した。

 そして、長くて大きい、魔力も詰まっている、鋭利な爪を切り取った。

 死体でもそこそこ硬かったので、なけなしの魔力で頑張って切り取った。

 まだ燃えるように熱い。というかほとんど燃えている。所々から炎が吹き出していた。

 それを燃え移らないように加工してある袋にしまって、再び戻った。


「何に使うの?」

「まだ内緒………って、あんまり痛くないぞ。どうした?」

「なんかムカついたから」

「全然感じないなーって、ちょっ、もう魔力回復してきたのかよ!?痛い!痛いから!」

「ルーン殿!レイ殿!ご無事ですか!?」


 戯れていた俺たちのもとに、副団長たちが戻ってきた。

 ………あれ?人数減ってない、か?気のせいだな、うん。

 妙に息を切らしている副団長だが、どうしたんだろうか。


「炎黒狼、討伐完了だ。死体は回収しといてくれ」

「決め手は私だよ!久しぶりに全力出して気持ち良かった!」

「それは良かったのですが………少し、問題がありまして………」

「どうしたの?」


 ………なんとなく分かったから、俺はもう帰っていいかな?その問題、明日でも良いんじゃないかな?

 渋面の副団長が、重々しくその問題を告げた。


「団員の何人かが───流されてしまいまして………」

「「………」」



 無事、炎黒狼の討伐は終わり、団員の捜索も吹っ切れた俺がすぐに終わらせた。

 翌日、反動で動けなかったのは言うまでもない。

 それでも、この平穏とは程遠い日々は悪くない、と感じていた。



 ♢



 やはり女神は、その一部始終を覗いている。

 いつもより変態度は抑えているが。


「良かった~。レイさん、ルーンちゃんをしっかり救ってくれましたね。悩み事が一つ消えて良かったです」


 女神も、ルーンが抱えていた苦悩は知っている。

 彼女を勇者にしてしまったことに、多少の罪悪感があったため、こうしてレイという楽にできそうな相手を見繕ってあげたのだ。


「あのままじゃ、他の中途半端な仲間をもう一回作って、今度こそ壊れちゃうところでしたよ」


 人間たちが大会を開き、勇者の仲間を決めるという愚行が成されていたら、ルーンはまた仲間を失って精神が壊れていただろう。

 それも救えたのだから、一石二鳥といえよう。


「それを抜きにしても!ルーンちゃんをどこの馬の骨とも分からない輩に任せて良いものですか!やはり仲間にはレイさんが適任です!」


 いつもの状態に戻って、一旦覗きを止める。


「もう少しムルクスに滞在するみたいですしー、そこも必見ですねー。レイさん何やら企んでるみたいだし、良いものが見れそうかも………。ん?魔物………多くないですかね?こんなにいたっけ?」


 モニターを変えると、大量の魔物が映っている。

 この女神は、スーリア王国のあらゆる場所を見渡せる。

 だからこそ、彼女の知らない場所で魔物が異常発生するのはおかしい。


「あちゃー。これはまずいかもです。え?でもまだ発生周期に来てないですし………どういうことでしょうか?」


 女神はそこで思考を中断し、レイとルーンに丸投げした。


「何はともあれ、魔物が増えてるならレイさんとルーンちゃんの出番です!お願いしますね!二人で最強!」

一章、完!

もうすぐブクマ100いきそう!やったー!

皆さんのおかげですよ本当!これからもがんばります!

こういうこと言えば良いんだよね?

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