22話―やっぱり狼は嫌い
火山の前に来た。現在時刻は大体6時。もう夕方だ。
だが、まだ山には登らない。登ったところでまた奇襲を受ける。
なので、まずはあいつらを片付ける。
みんなで魔方陣を地面に大量に書く作業もようやく終わった。
「じゃあ、始めるぞ。準備は良いな?」
「いつでも大丈夫だよ!」
「我らもいつでも」
「よし、いくぞ」
この火山の人狼は隠密性がバケモノだ。正面から行けば後ろから殺される。
なら───あっちから来てもらえば良い。
「『挑発』!」
この魔法は文字通り挑発する。
具体的には、魔物の魔力の流れを乱して怒らせる。妨害電波みたいなものだ。発生元も分かるようにしてある。
この魔法は前に森のラージスラッグを駆逐する時に作ったものだ。待ち構えて一気に殲滅する。すごく効率が良かった。
今回は、それを山頂を除く火山全域に放った。多分人狼以外も来るが、良い機会だしそいつらも倒そう。ムルクスの冒険者の仕事がなくなるかもしれないが、御愁傷様ということで。
火山の木々から鳥が飛んでいった。………そろそろだな。
魔法を発射する準備をしよう。
「展開───」
魔方陣とは、詠唱と同じく必須ではない。
イメージを固める上で、やりやすいからあるだけだ。
使い方の一つ目は、『瞬間移動』や『召喚』などの難しい魔法を使用するために用いる。
二つ目は、罠として。もしくは待ち伏せに。
魔方陣から大量の炎が出る。俺の周りにもたくさん出る。その数、ざっと三十発。
それらすべてを、俺が得意な高火力の魔法に変化させる。
全て用意し終わったところで、丁度良く来てくれた。
「ウルァァアアア!!」
「来たよ!レイ!」
「ああ『火炎砲弾───」
狼共の爪が、正面、上空、あらゆる方向から迫ってくる。
だけど、残念。それは届かない。
リーチとスピードと知能が足りなかったな。
「───・散弾』!」
直後、大爆発が起きて人狼が半数以上消えた。
本当に跡形もなく、骨も残らず吹き飛んだ。何体か銀人狼もいたのに。
魔方陣込みの俺の最大火力、火炎砲弾・散弾。予想以上の威力だ。
しかし、戦争くらいでしか使い処がない、ある種の欠陥魔法といえる。おそらく普段使いはしない。
魔力消費もえげつない。今ので半分くらい持ってかれた。俺で半分なんだからもう誰も使えないだろう。やっぱり欠陥魔法だ。
土埃がおさまると、予想通り特大のクレーターができていた。もはや山肌が抉れている。まあ一発でもできるんだから当然だな。
衛兵さんに「山の木、全部消し飛ばしてもいいですよね?」と聞いておいて良かった。言ってなかったら大変なことになってた。聞いた時、「はっ?」って言われたが。
後ろで固まってた副団長が、感嘆と畏怖が混じった声で
「………本当に、バケモノですな………」
「とうとう副団長まで言ってきたか。否定はしないけどさ、もう少しオブラートに包もう?」
「包んでも中から破ってくるくらいバケモノだよ」
「ならオブラートじゃなくてもいいからさ!ド直球に言われると結構傷つくから!」
中々失礼なことを言ってくる副団長たちにツッコミを入れていると、余波で吹き飛んでいた残りがヨロヨロと立ち上がっていた。
速い上にしぶといとか、つくづく嫌な魔物だ。ラージスラッグの次に人狼が嫌いになった。
まだ数十体残っているが、俺は少し休憩する。ここからはルーンと騎士団の番だ。
「行くぞ!レイ殿が開いてくれた活路だ!無駄にするなよ!」
副団長の掛け声とともに、一斉にかけていく騎士団。ルーンはとっくに行って人狼たちを殺戮している。
山の中では足場が悪かったり、見晴らしが悪かったりと不利な状況だったが、今回は逆にあっちが不利だ。
山の中じゃないし、ここは見晴らしの良い場所。奇襲なんて仕掛けようがない。幸い銀人狼は全て吹き飛んだようだし、安心して任せられる。
みんなほとんど怪我することなく順調に倒している。ルーンなんて秒速で倒している。それで返り血を一切浴びてないんだから尚更すごい。
騎士団も全く苦戦することなく、3分ほどで全滅させられた。
「ふう、終わったよー。レイー」
「ああ、ご苦労さん。まだまだ余裕そうで何よりだ」
「あれほどの大魔法を打っておいてもう動いているレイ殿には、遠く及びませんがね」
「どんな体の構造してるの?」
「お前となんら変わらんよ。それに関してはスキルのおかげって言ったろ?」
「でもどんなスキルか聞いてないじゃん」
「お前の持ってるスキルを教えてくれたら俺も教える」
「ヤダ」
即答するルーンに不満げな顔を浮かべながら、火山に登る。
眷属に苦戦したが、本命はここからなのだ。
「副団長、騎士団はまだ動ける?」
「はい、ですが炎黒狼相手には長くは保たないかもしれません」
「私はまだまだいけるよ!」
「それでいいよ、副団長。まずは戦闘力を測る。騎士団の動きはそれをしてからだ」
炎黒狼がどのくらい強いのか全く分からないが、眷属であれなのだ。油断していい相手ではない。
全員体力があるので、さほど標高の高くないこの山の頂上には二時間ほどで着けた。もうすっかり日は暮れている。
「暑いね………」
「所々溶岩が流れています。そのせいでしょう」
「我慢するしかないな」
山頂というか、山頂の平たい場所は溶岩が固まってできた岩石群という感じだ。足場が複雑なのは、有利と見ていいのだろうか。
火口は見えないが、所々から川のように溶岩が流れている。日本の火山じゃ絶対にあり得ない光景だが、危険極まりない。
あと、ルーンも含めみんな暑そうにしてるが、俺は平気だ。気温変化耐性なんてほぼ死にスキルが初めて役に立った。
ざっと見たところまだ炎黒狼の姿はない。見晴らしが良いわけではないが、不意討ちはもう勘弁だぞ。
「今から呼び寄せる。ルーン、準備はいいか?」
「いつでもいいよ!」
炎黒狼の力を測るのはルーンだ。騎士団では誤って死ぬ恐れがあるが、ルーンは俺と「死なない」と約束しているし、頑丈だから死ぬことはない。
一応逃げ道は確保しておき、魔法を飛ばす。
「『挑発』」
さっきよりも強めにする。魔力量が多いと、少し流れを乱したくらいじゃ反応しない事があるのだ。
最大出力で飛ばしたから、否が応でも飛び出てくるはずだ。
放って数秒で、奥の岩が吹き飛んだ。
(ようやくお出ましか………)
飛び出したあと、俺らの50mほど前方に巨大な影が着地した。
いや、影ではなかった。影のように漆黒の毛皮を纏っていただけだ。
月光に照らされ、その姿が視認できるようになると、魔力と熱気を孕んだ遠吠えを上げた。
「───WAOOOOOOOON!!!!」
………さあ、ラスボス戦だ。
♢
炎黒狼の姿はおおむね聞いていた通り。
全長は5mくらい。ラージスラッグの倍くらいある。思わずチビりそうになった。
炎を操るのも知ってたが、左目に炎が灯ってるので初見でも見破れたかもしれない。属性が分かりやすくて助かる。
踏んでいた場所が黒くなっている。デフォルトでそれなら攻撃したときに当たったら黒焦げだろう。
そして何より………
「………ルーン。最初っから全開でいくぞ。測る必要ない」
「だよね。何あの魔力量。今まで見てきた魔物の中で一番ヤバイよ」
そう。魔力量がおかしかった。
さすが狼系魔物の王。銀人狼なんて霞んで見えるほどの魔力。離れているのに波動がビンビン伝わってくる。最大出力でやっといて良かった。
知能が高いのが幸いした。怒りに任せて飛びかかってきたら反応できなかった。
留まってるうちに、こちらは動かさせてもらう。
「いくぞ!死ぬなよ!」
「レイもね!」
騎士団はもしものために待機させておく。
駆けていく俺とルーンだが、炎黒狼にまだ動きはない。
(………嫌な予感がするな)
だが、動かないなら容赦しない。正面から斬りかかろうとして、残り少しとなった時………炎黒狼がゆっくりと口を開いた。
「!!」
急激に背筋が冷え、俺はルーンの手をふん掴んで咄嗟に『飛翔』を発動する。
それとほぼ同時に、炎黒狼の口から巨大な炎の球が発射された。
「WAOOON!!」
足ギリギリだった。少しでも遅れていたら今頃消し炭だったな。
発射された火球の射程に副団長たちがいなかったのは、本当に良かったとしか言えない。
それでも、直撃した森は無惨な姿になっている。俺の魔法でもあそこまでひどくない。
「………直撃したら即死だぞ」
「慎重に一撃与えていこう」
「分かった」
ルーンの声が緊張で上ずっている。今までで一番ヤバイと言っていたが、本当のようだ。
ルーンを地上に降ろし、俺は空中にとどまる。三次元の方向から攻められればどちらかに集中されることはない。
「ふっ!」
しかし、ルーンが隙をついてどれだけ斬ろうとも、ダメージを負った様子はない。ルーンの方も手応えがないようだ。
「毛が硬い………!肌まで届かない」
「なら魔法で素っ裸にする!『火炎砲弾』!」
俺が紅蓮の弾丸を本気でを放つが───それは吸収されるように無効化された。
「なっ!?」
「GARUAAAA!!」
お返しとばかりに、俺に向かってさっきよりもデカイ火球を撃ってくる。人間と同サイズのそれを紙一重で避け、一旦距離を取る。
「どういうことだ、あれ。魔法が利かないのか?」
「物理も魔法も無理って、勝ち目ないじゃん!」
本当に魔法が利かないなら、ルーンの言う通り勝ち目がない。攻撃手段がそれ以上ないのだから。
(攻撃力の問題か?それなら本当に無理だ。あれ以上の火力は出せない。ルーンに本気出させるか………いや、失敗したら取り返しがつかなくなる)
悠長に考えてる時間はない。これを考えてる間もルーンは頑張っている。
何か手段は………待てよ。
この炎黒狼は、炎を操る。ならば───
(試してみる価値しかないよな)
急いで魔法を組み上げる。この際不馴れでも良い。とにかく急げ!
「できた。ルーン、三秒後退避!」
「分かった!」
3、2、1───
「今!」
「───『水弾』!」
「!」
水で作った弾丸が、雨のように炎黒狼に殺到する。
それに炎黒狼は、明らかに過剰に避けた。
しかし、球数だけは多くした。あの巨体では一発は当たる。
数発当たった場所から水蒸気が上がるが、初めて痛みを感じたように顔を歪めた。
「成功だ。やっぱり、あいつ属性が分かりやすい」
「どういうこと?」
余裕が生まれて、俺の元に駆け寄ってきたルーンに俺は笑みを浮かべて、
「昔っから、炎タイプには水タイプって言うだろ?」
異世界人には分からないことを例に出して、首をかしげるルーンを見て、俺はまた笑った。
ブクマ増えると本当嬉しい
あ、ちょっと投稿頻度落ちます。ブクマは着けたままでね
感想ももらえるとうれしいな~(チラッ)




