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21話―一人ぼっちだった勇者

 あれから見張り場に戻り、ルーンを寝かしておいた。

 副団長の言った通り、ルーンは死んでいない。今も多量出血で気を失っているだけだ。

 そんな超人的な生命力に驚き…………はしなかった。

 頭では分かっていた。ルーンが絶対に死なないことなんて。


「う………うん………」

「………起きたか」


 ルーンをベッドに寝かせてから、俺はずっと横で見ている。いつ起きても───説教できるように。

 ルーンは一度胸の傷を触ってから、俺に向き直った。


「ありがと。傷、治してくれて」

「それはこっちのセリフだ。助けてくれて、ありがとう」


 俺は《癒し之神(パナケイア)》の能力で、回復魔法に上方補正が入っている。欠損でもしてなければ大抵の怪我は跡もなく治せる。

 俺の感謝に、ルーンは苦笑した。


「全然。あの場ではあれが最善だったから」

「………お前が俺を庇うのがか?」

「うん。そうしなきゃ、死んでたよ?レイ」


 迷いなくそう言いやがるルーンに、俺は激しい怒りを覚える。

 何が「最善」だ。自分の身を犠牲にするのが最善って言いたいのか。

 その感情を押さえつけている間に、ルーンはさらに付け加える。


「分かってるでしょ?私が死なないって。だから大丈夫だよ」


 その言葉を聞くと、俺はルーンの襟を掴んでいた。

 もう限界だ。こいつには説教がいる。

 震えた声で、俺はルーンに言った。



「何が大丈夫だ。ドMか、お前は」

「え………」

「ありがとう?最善?そんな言葉、聞きたくねえんだよ。分かってんのか、お前。───()()()()()()()()

「………」


 そこまで言って、一旦襟から手を離した。

 しばらく呆然としていたルーンだが、やっと口を開いた。


「………うん。ドM………そうかもしれないね。私は」

「認めるんじゃない。何でそんなに死に急ぐんだよ。お前、あの一撃で死ぬって分かってたろ」

「殺されるけど死なないってこと、私が一番よく知ってるからね………もう、私だけ残されるのは嫌だったから」

「………」

「少し、話していい?昔のこと」

「………ああ」


 そして、ルーンは俺と会う以前の話を始めた。

 勇者故に送ることとなった、その半生を。



 ♢



 私が生まれたのは、王都の近くにある村の、ごく普通の家。

 王都の近くだったから、魔物も少なくてすごく平和だった。

 両親も、私をとっても大事に育ててくれたよ。何不自由なく暮らしてた。

 女神様の声は、たまにそれっぽいのが聞こえる程度で、自分が勇者だなんて思ってなかったし、親も知らなかった。

 きっと、このままずっと平和に暮らしてくんだと思ってた。

 ───だけど、そんなことはなかった。


「逃げて!ルーン!」

「早く!」

「お母さん!お父さん!」


 突然、本当に突然、魔物が村を襲ってきた。

 騎士団の大半がちょうど出張に行ってて、助けに来たのはだいぶ遅れていて。

 結果、両親も、友達も、他の村の人も全員死んでしまった。もちろん───私を含めて。


「これはひどいな………」

「こちらも、もう誰も………」


 騎士団の人も、みんな死亡したと決定しようとした。

 でも、そこで異変が起こった。


「う………ゴホッ、ゴホッ………あれ………?」

「お、おい!生存者がいたぞ!」

「君、名前は?」

「私………生きてるの………?」


 そこで、私はなぜか生きていた。いや、生き返ったって言った方が良いかもしれない。

 私は確実に一回死んだ。なのに、今生きている。自分だけ。みんな死んでしまったのに。

 それから1ヶ月くらい、そんな矛盾してることの意味が分からなくて、死んでしまった両親や、村のみんなに申し訳なくて、何度も泣いてたよ。

 騎士団の人も、いきなり目を覚ました私を不思議に思って、王城にいる魔導学者の人に私を調べてもらった。

 そのおかげで、私が勇者だって分かった。


「ルーン・ヴぇルミリオン。これより、そなたを勇者に任命する」

「………陛下のお力になれるよう、我が力を尽くします」


 勇者として目覚めてからは、1年くらい騎士団でお世話になって、剣術と魔法を教えてもらった。正式に任命されたのはその後。

 自分が勇者だ、って自覚は全くなかった。むしろ、私なんかがって気持ちの方が強かった。

 ………まだその時も、1人だけ生きてる自分が憎らしくて。でも、期待してくれる人も多かったから、死のうとは思えなくて。

 そこからは、今とあんまり変わらない。

 王様に命じられるまま、魔物の討伐に行って、倒して、その度に誉められて。

 王都の人も、私を見る度に話しかけてきてくれて。

 ………そんな称賛を素直に受けとれなかった。

 村が襲われて全員死んだのに、1人だけのうのうと生きてる、卑怯な私には。

 そんなだったけど、一回も仲間を作らなかった訳じゃない。

 団長の勧めで、王都のAランク冒険者と任務に行くことになったんだ。


「よろしく。勇者………じゃなくて、ルーンさん」

「う、うん………。よろしく」


 その子ちょっと変わっててさ。レイみたいに、私を勇者じゃなくて、ルーンとして扱ってくれた。私の性格、今より全然違ったから、少し戸惑っちゃったよ。

 だからすぐに打ち解けたし、いつもと違って口数も多くなったし楽しかった。

 初めて、対等に話せる関係っていうのが分かった気がしたし、勇者になれて良かったって思った。

 なのに………私は、また同じ過ちをした。


「くっ………はぁっ!」

「何で………こんな数が………」


 今日みたいに、魔物の群れの襲撃を受けた。

 そこで───また失った。失わせてしまった。

 1人で群れを蹴散らして、終わったら、あの子も死んでいた。途中で、魔物に殺されたんだ。


 ………私が死ねば良かったんだ。


 何個も命のある私が、殺されても死なない私が、1人だけ生きている卑怯な私が!

 それでも、私はまだ生きている。どうあがいても、私は死ねない。そう気付いたから。

 それから、口調も性格も変えて、明るくするようにした。団長や副団長に、暗い私を見せないように。

 仲間も作らないようにしてた。もう絶対に、誰も失いたくないから。

 でも、私は今、レイっていう仲間を持ってる。

 女神様が言ってたから、きっと大丈夫だと思って。

 ………ホント、馬鹿だよね。

 また失いそうになったから、庇って、こうやって叱られてるんだもん。

 多分、レイが死ぬより、死なない私が死んだ方が良いって思ったから、あそこで守ったんだと思う。

 結局のところ私は───何も学んでない子どもなんだよ。



 ♢



 途中から泣きながら話していたルーンだが、それも終わった。

 常人には知りえない、苦しすぎる半生。

 それは、勇者故のものだ。

 勇者が勇者足り得る、明確すぎる条件。

 それは───死なないことだ。

 いや、実際にはそれは間違っている。実際は、命が()()()()()()、ということだ。

 この世界には、肉でできた物質体と、その個人の本質たる霊体がある。

 霊体は………地球で言えば魂みたいなものだ。基本、1人につき一個しかなく、それが消えれば完全に死んだ、ということになる。

 しかし、勇者にはその霊体がなんと12個もある。しかも時間経過で復活する。

この世界では物質体が消滅しても、霊体があるならばよみがえる。それを応用した蘇生魔法なんてのもあるのだ。

 よほどのことがない限り、寿命以外で死ぬことがない。それこそが、勇者であるということの絶対条件。

 そのアドバンテージのせいで、ルーンがこんなに苦悩することになったのは、本当に皮肉だ。


「納得、できた?私がレイを庇った理由」

「………ああ、よーく分かったよ」


こいつが俺を庇った理由はこれ以上なく理解した。

こいつは、俺を失いたくないから、自分の命を何個もあるものとして軽く見ていたから、あんなことをした。

───だが、それを理解した上で、文句を言わせてもらう。


「お前、自分が卑怯だって言ったな?」

「え………う、うん」


「………馬鹿言ってんじゃねえ」


「え………」

「いいか。卑怯だとか、申し訳ないだとか、そんなの死んでいったお前の両親や、仲間に対する冒涜だ。そいつらは、みんなお前に生きて欲しいと思っている。絶対に。否定は認めない。恨むとかの感情なんて湧くはずがないんだよ」

「で、でも」

「でももヘチマもない!いいか!お前は死んだ全員の分、絶対に生きろ!何が何でも、死に物狂いで生きようとしろ!そんなこともせずに死んだら、天国でお前の両親に合わす顔がないだろうが!」

「………」

「あと、俺は死なない!少なくともお前より生きてやる!だから俺のことを守ろうとかしなくていい!俺はお前のそばを離れるつもりはないし、絶対にどこにもいかない!もっと自分の命を大事にしなさい!常識だぞこんなこと!」


ひとしきり説教を終えて、息を吐く。

いつの間にか熱が入っていた。熱血教師のようになってしまった。

目をパチクリさせていたルーンだが、なぜかいきなり噴き出した。


「ぷっ………レイ、自分がすごく恥ずかしいこと言ったって自覚ある?」

「えっ」


………自分が言ったことを振り返ってみると、確かにスッゴク恥ずかしい内容だ。

ヤバい!顔から火出そう!超恥ずかしい!

顔を真っ赤にして顔を覆う俺に、ルーンは苦笑する。


「でも、ありがとね。今までそんなこと言ってくる人初めてだよ。やっぱり私もレイと離れたくない。だからこれからも絶対に守るよ」

「………もうこれ以上黒歴史を作る予定はないがこれだけは言っておく。お前がそう言うなら俺はお前を守る。これ以上死なせない」

「うん、約束だよ」


そう言ったルーンは今までの暗い雰囲気が嘘のように、満面の笑みを浮かべていた。

長年の悩みから解き放たれて、心が楽になったようだ。

………それはとても良かったんだけどさ。

俺の黒歴史、誰か消してくれない?





それからルーンは元気に起き上がり、軽くストレッチまでしている。リベンジマッチしに行く気満々だ。

それは結構なんだが、


「ルーン、悪いけどまだすぐに火山に登ることはできない」

「え、何で?今度は気を付けて行けば良いんじゃない?」

「あそこの人狼(ワーウルフ)の隠密性は異常だ。何か策を練らないと太刀打ちできない」


きっと眷属になってるからそこら辺のステータスが上がってるんだろう。Bランク冒険者が全滅するのも納得だ。

あいつらをどうにかするため、ひとまず副団長たちを集めて作戦会議をすることにした。


「ふむ………あれから逃れるのは困難でしょう。どうにかまとめて殲滅できないものか」

「一体一体確実に倒していくのはどう?」

「いや、数が多すぎる。それじゃ後ろに回られておしまいだ」

「そっか………うーん………」


みんな首を捻って考えるが、なかなか良い案が思い付かない。

隠密性の上に、圧倒的な数の暴力もあるんだから、それを十数人で倒すというのが無理ゲーすぎる。


(いっそ反対側から攻めるか?いや、そこも同じようなもんか)


全く案が浮かばず、みんなが苦い顔になってきた頃、とっくに思考停止していたルーンが投げやりに言ってきた。


「ねえ、レイの魔法でどうにかならない?一箇所に集めてズドーンって」

「そんな抽象的、な………」

「どうしたの?」


できるかもしれない。その方法で。

その策を選んだ場合、俺の負担がエグいことになるが、そんなこと微々たるものだ。

もっと大きな問題は、人狼共にかかっている。しっかり魔法の影響を受けてくれれば、後は楽だ。


「よし、それでいこう」

「え!?ホントに!?割と冗談のつもりで言ったんだけど」

「他に策がないしな」

「して、その策とは?」


手短に、というか作戦自体がシンプルなのですぐに説明を終わらせて、火山に向かうことにした。

俺が行こうとすると、副団長に呼び止められた。


「どうかしました?作戦にどこか不備があった?」

「いえ、そうではなく………ルーン殿のこと、誠に感謝します」

「え………」

「彼女は、いつも笑顔でしたが、その実いつもどこか寂しそうにしていました。レイ殿が、ルーン殿に何か話されたのでしょう?彼女があれほど、心の底から笑ってるのは初めてなのです。ですから、ありがとうございます」

「………本当に父親みたいだな、副団長は」

「私にとっても、ルーン殿は娘のようなものです」

「ははっ、そうだな。俺も、ルーンに特別何か言ったわけじゃないよ。ただ説教しただけだ」


何を言ったかは言うつもりはないけども。言ってもまた感謝されるだろうが、それはそれでダメージがすごい。

そして、改めて副団長兼ルーンのお義父さんは俺に頭を下げてくる。


「これからも、ルーン殿のこと、よろしくお願いいたします」

「ああ、ルーンは絶対に俺が守る。安心してくれて良いよ」


そう返事をして、俺たちはルーンのところに向かった。

シリアス回のくせにルーンちゃんの過去薄すぎたかな?まぁ主成分がギャグだし大目に見てくれ。

なんかブクマ増えてる。ラッキー。このままどんどんブクマつけてくれたまえ。

後さ………感想もくれて良いんだよ?狂喜乱舞するからさ。

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