1話―女神は実在したっ!?
ギャグって難しいね
「……知らない天井だ」
一度言って見たかったんだよな、このセリフ。
……そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよな。
俺死んだはずだよな?トラックに轢かれて。何で意識保ってるんだよ。つーかここどこだよ。
辺りを見ると何もない黒い部屋だった。上からスポットライトみたいな光だけが差し込んでいる。そして地味な椅子がポツンと2つ。
俺はそのうちの1つに座っている。
……もう展開が読めてきた。つまりあれだろう。
「そうです。あなたの読み通り、ここは死後の世界。正確には天界といわれる場所です」
突然上から声がかかった。
その出所は1人の女性。ギリシア神話の絵などで、神が着ている白い服を纏った美女。
肌も髪も目も、あらゆるものが真っ白。体の全てのパーツが完璧に整っている。逆に、完璧過ぎて怖いとすら感じる。
女性はストンと着地し、俺の対面にある椅子に座る。
「安心してください。あなたは死にました。子どもをかばって。ここ最近で1番勇敢な死に方ですよ。死んだら元も子もないんですけどね」
そうまくし立てる女性。
どこをどう安心したらいいか分からねぇ。結局死んだんだろ、俺は。
というか、こんな美女なのにフランク過ぎやしないか?
「あ、自己紹介しときますね。私は女神をやっている者です。えっへん……あれ?あんまり驚いてませんね」
いや、まぁ。だいたい予想できてたし。
そりゃもちろん驚いているとも。女神、というか神がいるなんて思ってなかったし。こんなにフランクだと思ってなかったし。
「今までの人はもうちょっと面白い反応してくれたんですけどね。まぁいいです。」
「神様って、死人をいちいち呼び出してお話するのが趣味なのか?」
「そんな素敵な趣味してませんよ。死んだ魂は、新しい命にリサイクルするのが基本です。あなたを呼び出したのは特殊な理由です」
きた。本題。
もうここまで言われれば誰だって分かる。
神が死んだ人間を呼び出してする事。そんなの1つだろ。
「あなたには──ナメクジに生まれ変わってもらいます!」
ずっこけてしまった。ここまで見事にずっこけたのは久しぶりだった。
……は!?どう言うことだよ!?神が人間呼び出しておいてナメクジになれだ?冗談じゃねぇよ!誰が好き好んでナメクジなんかになるんだ!まさかお前女神じゃねぇな!?本物の女神をどこへやった!?
俺がそんな感じで狼狽してると、女神(自称)が吹き出した。
「プッ……アハハハハ!冗談ですよ冗談。いやぁ面白い反応が見られましたね~……って、そんな怖い顔しないでくださいよ」
……この女、一発ぶん殴ってもいいだろうか。
例え絶世の美女でも、こいつなら本気で殴れる。真の男女平等の元にこいつを裁いてくれようか……
「ふぅ。では、真面目にいきましょう」
よし、ついにだ。
頼むぞ。女神ならちゃんとお約束を守ってくれ!お願いだから俺が望んでいる答えを出してくれ!
「あなたには──ナメクジの怪人になっもらいます!」
またずっこけてしまった。さっきよりも盛大に。
どう言うことだ!何でスケールアップして怪人になってんだ!つーかナメクジの怪人てなんだよ!そんなのスーパー戦隊で見たことないぞ!やっぱお前女神じゃねぇな!
心の中で突っ込んでると、また女神(偽)が吹き出した。
「アハハハ!本当に面白いですね!あなたを呼び出した甲斐がありましたよ……お?さっきよりも怖い顔ですね」
やっぱりこいつぶん殴っていいだろうか。いいよな。
ここまで人に期待させといていつまで勿体振らせるつもりだ。いい加減白状しろ!
「はい、ではおふざけもこの程度にしときましょう」
よし頼むぞ。三度目の正直だ。
ここでボケられたら、マジで殴るぞ。
「あなたには──ナメってちょっと!最後まで言わせてくださいよ!あっ!ちょっ!拳を!拳を収めてください!」
「もう我慢ならん!ここまで勿体振らせるとか何考えてんだ!どうしてそこまでナメクジを推してくるんだ!」
……その後、必死に謝ってきた女神に免じて拳を収めてやった。
もう最初に抱いていたこいつに対する畏怖などは全て消えた。
「いたたたた……もう、女神の私を殴ろうとするとか、不敬にも程がありますよ」
「そんなこと言うなら、もう少し女神らしい態度を取れ」
「やってますよー。さて、今度こそ真面目にやります。もうボケません」
「本当だろうな?言っとくが次はないぞ?」
「本当の本当です。女神に二言はありません」
もう三言くらい吐いてるだろ。
そうツッコむのすら面倒になってきた。
女神は姿勢を正して口を開いた。
「あなたには──異世界に行ってもらいたいんです。願いは聞いてあげますから」
……よし、きた。長いコントの末にようやく出てきた。
俺が待ち望んでいた答えが。
「無理にとは言いません。地球よりも遥かに危険ですから」
「いや、問題ない」
危険?上等じゃないか。
俺は6年間、ずっと夢見ていたこと。それが叶うんだ。
夢と危険。天秤にかければどちらに傾くなど馬鹿でも分かる。
俺はこの部屋に来てから……いや、生まれてから1番口の端をつり上げた笑みを見せながら、言った。
「良いだろう。行ってやる。その世界」
俺の異世界での話は、今まさにここから始まったのだ。
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