18話―嘘をつく時は今後のことも考えろ
俺が少し休憩している間に、ルーンが人狼と魔狼を殲滅してくれた。
《癒し之神》があるから超スピードで回復したのに、大したもんだ。1分も経ってないぞ。
血を振り落として鞘にしまい、駆けてくるルーン。妙に膨れっ面している。
「お疲れ様。大変な役所任せて悪かったな」
「それは全然良いんだけど……あれ何?」
「あれって?」
「銀人狼を倒したあの一撃だよ!何あれ!?いつ剣抜いたの!?………まだ私に見せてない技あるんだ。へーそうなんだ」
珍しく怒っている。どこが気に食わないのだろうか。
ずっと機嫌悪いのも嫌だし、直しとくか。
「分かったよ。今度『纏炎』と一緒に教えてやるから。それでいいだろ?」
「……『飛翔』も」
「……分かった。それも教える」
「やったー!なら許す!」
そう言って満面の笑みを浮かべるルーン。その笑顔はとても可愛いのだが、色々と約束してしまった。『飛翔』は難しいだろうが、『纏炎』を教えてしまったらこいつは飛躍的に強くなる。俺が勝てなくなる。
(まぁ、また新しい魔法を開発するしかないか……)
立ち上がってパンパンと袴に着いた土を払い、銀人狼の死体に踏み出した。
ナイフを片手に取って。
「どうしたの?ナイフなんか持って」
「お前こそ何言ってるんだ?銀人狼だぞ?最高級の素材だぞ?持っていかなくてどうするよ」
「え?」
何を困惑してるか分からないが、とりあえずやるだけやっとこう。
俺は右手だけで合掌し、銀人狼の首なし死体にナイフを立て、毛皮をテキパキと剥いでいく。
「ちょっ!?何してんの!?」
「何って……倒したんだから素材を持ってくんだよ。お前一応冒険者だろ?」
冒険者の仕事は、クエストをして薬草を取ってきたり、魔物を倒すこと。
魔物を倒した際の残り。つまり毛皮や角、牙などはギルドに持っていけば買い取ってくれる。
強い魔物の牙なら、武器にすることもある。何かと利用法があるので、倒した魔物から素材をもらうのは冒険者では常識なのだ。
俺も最初は若干嫌っていたが、今では慣れてきた。右手の合掌はせめてもの礼としてやっている。仏教徒という訳ではないが、これくらいしか思い浮かばなかった。
というか、ルーンは何してるんだ?
「なー、手伝ってくれないか?」
「いや、その……やったことないっていうか……」
「え?だって、冒険者だろ?Sランクの」
「う~んと……勇者になったから、Sランクになったというか……なんというか……」
「…………」
要するにあれか。勇者になったと同時にSランク冒険者になれたって訳で……まともにクエストしたことないってこと?そんな箱入り娘だったの?
俺がそう指摘すると、ルーンは首をブンブン振って否定した。
「ち、違うよ?王命で討伐しに行って倒した魔物は、全部騎士団のみんなに任せてたから……それで……」
「……お前、戦闘以外はからっきしだったんだな……」
「まだそうと決まった訳じゃないでしょ!?希望はあるから!」
「ま、まぁ他にも色々あるって!大丈夫だよ!」
「やめて!頑張ってフォローしないで!逆に悲しくなるから!」
今度こいつにもやらせてやろう……そう心に決めて、俺は毛皮をしまった。
♢
一回探すのを中断し、これからどうするか決める。
「俺が思うに、このまま『飛翔』で探すのは得策じゃない」
「当てが無さすぎるもんね」
「お前のせいでな」
「で、でもそこまで急ぐ必要なくない?」
確かに。ぶっちゃけここまで急ぐ必要もないし、このまま明日に持ち越すというのも一つの手だ。
そうだ。気になってたことを聞いておこう。
「その任務って、行き?それとも帰り?」
「…………行きです」
「やっぱ急ぐぞ!お前のためではなく任務のために!」
こいつ、任務を放棄して俺のとこに来たのか!何やってんだこのバカ!
もうウダウダしていられない。やはり今日中に見つけなければ。
……待てよ。
そこで俺はある策を思い付いた。
「……なぁ、騎士団って野営するよな。わざわざ近くの村か町まで行かないだろ?」
「うん。基本はテント張って、野宿してるよ」
「よし、なら夜まで待とう。もう疲れた」
「え!?急ぐんじゃなかったの!?」
「落ち着け。夜になれば焚き火もするだろ。そこを狙う」
「あぁ、なるほどー」
夜になって火を起こしてるところを見つける。そっちの方が探す手間が省ける。
現在時刻は丁度正午くらい。持ってきてた黒パンを渡してかじる。
正直おいしくない。保存性に全振りしたせいで味まで手がまわっていない。今度作ってみようかな。
そんな感想を抱いていると、ルーンがパンをかじりながら尋ねてきた。
「ねぇ、レイってさ、今までアクロアを出ようとか思わなかったの?」
「どうしてだ?」
「だって、そんなに強いんだから、もっと大きな街のギルドに行けば前より稼げたでしょ?」
「ん~……あんまり大きい都市はちょっと苦手でな……あれくらいが丁度良い」
地球にいた頃も、東京の人で溢れ帰っている様はあまり好きではなかった。
アクロアは都市と田舎の狭間みたいな感じなので、とても居やすかったのだ。
「ふーん……じゃあさ、何でそんなおかしな魔法ばっか思い付くの?」
「おかしなとは失礼な。便利で強い魔法と言え」
「勇者の私におかしいって言わせるのレイくらいだよ?」
ちょっと傷ついた。
どうするか。何て返そう。そのまま「俺異世界人なんだよね」とか言ってみるか?いや、俺より先にこの世界来た奴らと同じ結末になる。
数秒悩んだ後、なんとかひねり出した。
「俺の剣の師匠からさ。剣と一緒に魔法も叩き込まれたんだよ。あの人ちょっと山奥にいるから、おかしな知識持ってたんだと思うぞ!」
「へぇ……そうなんだ。いつか会ってみたいな、その師匠」
師匠を創ってしまった。こいつがすぐに忘れてくれることを祈ろう。
誰か師匠の替え玉やってくれる人いないものか、と考えているとルーンがまた質問してきた。
「じゃぁこれで最後なんだけど……レイって──女神様と話したことある?」
黒パンが喉に詰まりかけた。
「な、何でそう思う?」
「だって、女神様が夢の中で私にピンポイントでレイのこと教えてくるなんておかしいでしょ。レイと女神様になんか接点とかあるんじゃないかーって」
こいつ変なところで鋭いな。
確かに話したことはある。ツッコミもしたし、ぶん殴りそうになったこともある。
だが、あいつがルーンに俺のことを教えたのは知らない。あいつの独断だ。あの百合女神のことだ。どうせ俺とルーンが良い感じになれば、とか思って教えたのだろう。
ここは否定しておこう。変に広められて第二の勇者とかにはなりたくない。
「いや、ないぞ。多分、女神様の気まぐれで俺を教えたんじゃないか?」
「えー、絶対あるって!女神様が夢の中で『レイという黒髪黒目の黒い革鎧を着た、口調が男っぽくて胸が少し控えめな美少女のところに行きなさい』って言ってたもん。絶対レイとあったことあるよ」
「事細かに見た目教えてんじゃない!」
思わずツッコんでしまった。そんな詳細に教えてたら言い逃れできないじゃん!
どうしてくれんだあの女神。あと『胸が少し控えめ』って言うな!この体の製作者お前だろう!
とりあえず、この場は勘違いで乗り切ろう。あの女神、今度会う機会があったらはっ倒してやる。
「き、きっと空から俺のことを見てたんだろう。だからそんなに細かく知ってたんじゃないか?」
「なるほどね~」
良かった。納得してくれたようだ。
その後、今度は俺が質問を繰り返し気付いたら夕方になっていた。
♢
「よし、そろそろ行くか」
「そうだね。この時間ならもう野営地は決めてると思う」
辺りはすでにほの暗くなっており、この森ではもうすぐ魔物の動きが活発化する時間だ。
こんな時間になっても歩き続けるのはバカのはやることだ。そのバカが今横にいるのだが。
昼のようにルーンをお姫様抱っこして、上空に上がる。
「『暗視』」
魔法で夜目をきかせる。これで昼とあまり変わらない視界にできる。
全方位グルリと見回し、やっと見つけた。離れた所に煙が上がっている。
「いたぞ!西の方角だな!」
「大丈夫だよね?人違いとかじゃないよね?」
「分からん。行って確かめる」
『飛翔』の音をなるべく消して、煙の方向に飛ぶ。
着いたが、ポイントの少し手前で降りる。いきなり上から降ってきたら魔物と勘違いされる。
そおーっと木から覗いたら、騎士っぽい鎧を着た人が数人いた。ビンゴだ。
声を小さくして、ルーンに報告する。
(よし、いたぞ!騎士団だ!まずはお前が行ってこい!その後を着いてくから)
(え、えっと…………レイが先じゃ駄目?)
(は?)
(その、迷惑かけちゃったから怒られそうだし……できない?)
(できねぇよ。俺が行っても不審がられるだけだよ。お前が行けよ)
(嫌だ!絶対怒られるもん!見てあの顔!超疲れてるよ!お説教数時間じゃすまないって!)
(全部お前の自業自得だよ!俺に尻拭いさせるんじゃない!)
(失敗をフォローするのも仲間の務めでしょ!)
(これをどうフォローしろと!?)
木陰でギャァギャァ言い争ってると、騎士の1人が動いた。
「なんだ?動物か?」
「どうした?」
「いや、ちょっとそこの木から声が聞こえてな。見てくるよ」
(ヤッバ!)
こちらに進んでくる騎士に気付き、ルーンに指示を送る。
(もう駄々こねるな!来ちゃったじゃん!ほら行ってこい!)
「わわっ!」
俺に尻を蹴られたルーンが木から飛び出た。
咄嗟に身構えた騎士だが、ルーンの顔を見るなり驚いたように言った。
「ル、ルーン殿!?」
「あ、えーっと……はい……」
「探したのですよ!今までどこに行っていたのですか!」
「ちょっとアクロアまで……」
「どれだけ遠くまで行っていたんですか!とりあえず、副団長のところに………ん?ルーン殿、そちらの女性は?」
訝しげにこちらを見てくる騎士さん。
もう女扱いされることにも慣れてきた。いや、慣れてきちゃ駄目なんだけど。
ルーンに目で「紹介してくれ!」と訴えかける。しかし、その必要もなく、ルーンは俺を紹介してくれた。
…………変な形で。
「この人は、アクロアでスカウトした私の───部下です!」
「…………へ?」
部下?
こいつ、何言ってんだ?
そう目で訴えたが、目を反らしやがった。
ブクマ中々伸びないけどやめる気はない!
いつか1000いったら良いなー




