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16話―旅立ちは帰還のフラグ

 ……目を覚ますと、美少女がいた。それも最上級の。

 少女は小さな寝息を立てながら、俺の横に寝ている。


「…………」

「スピー……スピー……」


 寝起きだから頭が上手く回らない。この状況を理解できていない。

 昨日の夜の出来事を遡ってみよう。

 宴会で疲れはててすぐ寝て……いや、その前にルーン俺を…………ん?

 そこで俺の脳内は急速に活性化し、バッと跳ね起きた。次いでジャンプしてルーンを飛び越え床に着地した。


(え!?何でこいつ俺と一緒に寝てんの!?隣の部屋に寝かしたはずだよな!?)


 脳内でツッコミつつ、俺は他人のベッドで寝ているルーンを叩き起こした。


「おい!ルーン!起きろ!」

「うわわ!もう朝!?」

「そうだよ!だから起きろ!そしてこの状況を説明しろ!」


 起こしたルーンを床に正座させ、経緯を話してもらう。朝っぱらから説教みたいになった。


「えっと……夜中に起きちゃって、知らない部屋だったから不安になっちゃって、隣の部屋覗いたらレイがいたから、ベッドに潜り込みました……」

「覗くなよ。そしてそこで潜り込むなよ。1回起こしてくれても良かったんだぞ?」

「いやー悪いかなーと思って。それに、一緒に寝てみたかったし」

「…………」

「黙らないで!怖いから!」


 もうこの勇者の挙動をコントロールするのはやめよう。どうせ失敗する。

 今日はこのくらいにしといてやろう。店の準備もあるし。

 ルーンに顔を洗ってくるように言い、俺はいつものシャツに着替える。

 いい加減この軍服チックな服にも慣れてきた。普段着にもよく使っている。

 1階に下りて、もはや習慣となったテーブル拭きをする。ベルフさんは「嬢ちゃんは客なんだし、いいんだぞ?」と言っていたが、やめる気はない。この前など、暇だったから1日ウエイトレスもした。

 ……まぁ、それもおそらく今日までかな……。


「おう!嬢ちゃん!おはようさん!」

「おはようございます。昨日はすみませんね」

「全然かまわねぇよ!あの赤い髪の嬢ちゃんはどこだ?」

「顔洗いに行ってるから、そろそろだと……あ、来た」


 話していると、顔を洗いサッパリした様子のルーンが戻ってきた。


「紹介します。勇者のルーン・ヴェルミリオンです」

「はじめまして!昨日は挨拶できなくてすみません」

「へぇー、勇者が来てるってのは知ってたが、まさか嬢ちゃんみてぇな女の子だったとはね……」

「あんまり驚かないんですね」

「俺は肝が座ってるってよく言われるからな!ガッハッハ!」


 うん、確かに座ってる。俺以外の冒険者はフリーズしてたし。

 関係ないが、「肝が座ってる」という慣用句って、この世界にもあるのか。あんまり関係ないが。

 テーブル拭きを終わらせ朝ごはんを食べてる時、ルーンに気になってたことを切り出した。


「なぁ、ルーン。出発っていつなんだ?」

「あぁ……私が、騎士団の人達を突破してアクロアに来たってこと、聞いた?」

「うん、聞いた」

「だから、その……今頃騎士団のみんな、私を探してるっていうか……」

「おい」

「しかも、私がアクロアに行くって噂を聞けないくらい遠くにいたから……」

「おい」

「もしかしたら、行方不明扱いになってるかも……」

「すぐ行くぞ!そんでお前は騎士団の人達に頭を下げろ!」



 こいつ、何してんだ!?どんなスピードで移動してたんだ!?

 これは日を置いてられない。いち早く騎士団と合流してこいつに土下座させねば。

 が、その前に……色々と挨拶しないと。


「という訳なので、ベルフさん、ありがとうございました。今からこいつと行ってきます」

「そうかい、何か寂しくなっちまうな。客にも、嬢ちゃんに会いに来たって奴もいたしな。売上が落ちねぇか心配だぜ」

「そういう客は御愁傷様ということで。売上ですか……そうだ。良い料理教えてあげますよ」

「料理?嬢ちゃん料理できたのか?」

「ベルフさんには及びませんけどね」


 俺が教えたのはフライドポテトだ。ジャガイモと油があれば誰でも作れて美味しいチート料理。むしろ今までなかったことが不思議なくらいだ。

 オリーブオイルが少し高価なものの、確実に売れる。酒には合うだろうから。

 それに、ベルフさんなら更にアレンジも加えてくれるだろう。少しだが、恩返しは上手くいくと思う。

 部屋で支度をして、前に買っておいた大きめの袋に服やらお金やら色んな物を詰め込む。全部は入んなかったので、ベルフさんからもう一個袋を貰ってルーンに持たせた。

 ちなみに、ルーンは本当に何も持っていなかった。噂が届かないくらい遠い距離を1日で走破したらしい。どんだけ俺に会いたかったんだ。

 準備は整った。名残惜しいが、仕方ない。また戻ってくる、絶対に。


「では、今まで本当にありがとうございました。また戻ってきます」

「私も、1日だけ泊まったけど、ありがとうございました!」

「おう、いつでも戻ってきてくれていいぜ!大歓迎だ!」

「っ……はいっ!」


 俺の返事にいつも通りの笑顔を浮かべて、俺たちを送り出してくれた。

 ──俺は、2ヶ月間お世話になった『ヤギの足』を出た。



 ♢



「すぐ行くの?」

「いや、その前にギルドにも行っとかないと」


 ロウゼンやフィナさんに別れの挨拶をしておきたいし、他の冒険者にも一応言っておきたい。

 そしてギルドに着いた俺たちは、まずフィさんのところに行った。


「あ、レイさん、ルーンさん。やっぱりもう行かれるんですね……」

「はい。たくさんありがとうございました」

「いえいえ、全然ですよ。それにしても、レイさんがいなくなったらクエストの消化が滞りますね」

「レイってそんなに真面目だったの?」

「そう見えないのか?ま、クエストはロウゼンとかに集中して回してくれれば良いですよ」

「……おい、俺がどうした?」


 後ろを見ると、やはりロウゼンがいた。相変わらずタイミングの良い男だ。


「俺たちアクロアを出るから。溜まったクエストはお前に任せるわ。ガンバ!」

「やめろ。そんなにやってたらいつか干からびる。にしても、もう行くのか。ずいぶんお早いな」

「こいつのせいだな」

「うぅ……すいません……」


 涙目で謝るルーン。戦闘以外ではこの勇者はやはりポンコツなのだ。

 そこで俺はあることを思いだし、ロウゼンに聞いた。


「そうだ。昨日も行ったけど、お前も来る?」

「行かねぇよ。足手まといになるし、お前らをお守りできる自信もない」

「お守り言うな」

「次お前が戻ってきた時、ボコボコにできるくらい強くなってやるよ。だから、お前も鈍らせるんじゃねぇぞ」

「……分かったよ。だけど、俺も絶対強くなってるからお前が勝つのは難しいかもな」

「へっ、言ってろ。俺の方が強くなってやんよ。まずはAランクになってからだな」

「じゃあ俺はSランクになる。絶対にお前には負けない。なんならその更に上のSSランクにでもなってやろうか」

「子どもか。いや体は子どもだったな、そういえば」


 出会った日と何ら変わらない口論をして、俺は少し吹き出しそうになった。

 ……本当にこの街を出ていくのが惜しい。

 最後に、フィナさんがしめてくれる。


「では、レイさん、ルーンさん。他の街でも頑張ってください!そしていつでも帰ってきてくださいね!」

「約束します。絶対帰ってきます」

「うん!なんかここのお酒って美味しいんだよね!」

「レイ、勝ち逃げは許さねぇぞ。ぜってぇ帰ってこいよ」

「あぁ。お前も四肢欠損とかするなよ。ちゃんと無事に出迎えてくれよ」

「そんな笑えねぇ大怪我しねぇよ。お前こそ気ぃつけろ」


 減らず口を叩いているのか、心配してるのか分からない別れをし、俺は出口に向かった。

 扉に手をかける直前、振り向くとたくさんの冒険者が声をかけてくれた。


「じゃぁな!レイ!いつでも帰ってこいよ!」

「待ってるからね!他のとこ行くときは気をつけて!」

「帰ってきたときはまた宴会だぞ!」

「張り切って!いってらっしゃい!」


 初日にガンを飛ばしてきた冒険者たちの暖かい声援に、ちょっと泣きそうになりながら、俺は精一杯の返事をした。



「うん!いってくる!」



 そう言って手を振り、俺は、異世界で初の思い出となる冒険者ギルドを後にした。



 ♢



 ギルドを出ると、俺たちは南の森方向の門に向かっている。

 その道中、ルーンが言ってきた。


「レイってすごい人望あるんだね。あんなにたくさんの人が送ってくれるなんて。あれ?もしかして泣いちゃってる?」

「泣いてない」

「分かるよ。すごいお世話になったんだもんね。泣きたくもなるよね」

「だから泣いてない」

「いいよ。今誰もいないから。思う存分私の胸で泣いていいよ」

「泣くのはナシでお前の胸に顔うずめるだけでいい」

「何でそうセクハラチックになるの!?」


 ルーンの胸は俺よりだいぶ大きい。昨日胸当て外した時に見たが、多分DかEだろう。剣を振る時邪魔にならないのか。

 良いじゃないか。今は同性なんだから顔をうずめるくらい。ムクムクするものもないんだし。

 そうこうしている内に門についた。そこでは顔見知りとなった衛兵が門番をしている。


「よう、レイ。勇者さんも一緒か。どうしたんだ?」

「今日でアクロアを出るんだ。だから、少しの間お別れだ」

「そうか、寂しくなるな。勇者さんと一緒にか?」

「あぁ、こいつと一緒に行くことになった。というか、お前ってこの門通ったのか?」

「うん。ちゃんと正規の方法で通ったよ」

「本当にビビった。いきなり突風きたと思ったら勇者がいんだもん」

「アハハ……ちょっと減速失敗しちゃって」


 門を通ったのには驚いた。てっきり減速せずにそのまま通過したと思ってた。

 俺の失礼な思考を読んだのか、肘で小突いてきたルーン。それだけでもちょっと痛い。


「じゃぁ、なるべくすぐ帰ってくるよ。隊長によろしくな」

「おう!いつでも通してやるよ。隊長にも言っとくぜ!」


 衛兵に手を振って、俺はたったの2ヶ月だが、ひどく長く感じた第二の故郷。アクロアを去った。

 ここから、勇者との冒険が始まった。

ブクマつけてもらうと喜びます。

評価もらえると超喜びます。

感想もらえたら狂喜乱舞します。

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