15話―平穏は終われど、それはそれで良し
すみません遅れました
「それで、何にするの?」
「何が?」
「そ、その……命令」
そういえばそんな約束をしてたな。
途中から本気で戦ってたから、全然気にしてなかった。
ふと、勇者の方を伺うと、珍しくビクビクしていた。俺がどんなこと命令してくるのか不安なんだろう。結構可愛いとこあるじゃないか。
(うーん、命令か……別にもう何でもいいんだよな。だが勇者に命令できる機会なんて今後一生ないだろうし……)
数秒悩んだ後、名案を思い付いた。今のところ誰も損しない案が。
「まだ使わないでおく。いつか丁度良い時が来たら使うよ」
「え?でも、もう会えないかもしれないし……」
「ん?何でだ?」
「だって、私が負けちゃったから、一緒に来るってお願い聞いてもらえないし……」
「あぁ、そういうことか」
ただ力を量るための戦いで、負けてしまったから、自分のお願いが通らないと思っているのか。確かにその通りだな。
……だけど、俺の気持ちはもう変わっていた。
戦闘中もそうだが、俺の指針ってすぐ変わるな。気を付けないと。
悲しそうに目を伏せる勇者に、俺は笑いながら言う。
「それなんだが、俺はお前と一緒に行くよ。俺が決めた」
「えっ⁉️で、でもあんなに嫌がってたのに……」
「戦って気が変わった。お前に付いていった方が楽しそうだし。それに……お前の本気も見たい」
「っ……!」
「分かりやすいな……やっぱ出してなかったか」
俺の言葉にコクリと頷く勇者。
こいつは、最後まで全力を出していなかった。8割くらいだろう。だから俺は勝てた。
戦闘が楽しかった、というのもあるが……本当はもっと別のところに原因がある。
それを無理に追及するつもりはないが、本気を見たいのも事実。
だから、付いてくことにした。それに一緒にいた方が強い魔物にも出会えるだろうし。
「……うん。確かに本気は出してなかった。でも、出す気はないよ。これからも。それが一番良いから」
「じゃあお前が本気出すしかないくらい俺が強くなる。もう負けたくないんだろ?」
「……そうだね。なら、私も頑張らないと!」
「あぁ、勇者様」
「その勇者とか、お前とか他人行儀だよ。ルーンって名前で呼んで。もう仲間なんだから!」
「分かったよ。んじゃ、これからよろしくな。ルーン」
「うん!よろしくね!レイ!」
そう言い、ルーンは心底嬉しそうに、俺の胸に飛び込んできた。
こうして、俺は勇者の仲間に……違うな。
こうして俺は、──勇者と仲間になった。
♢
闘技場を出て、ギルドに向かおうとすると、ロウゼンがスタンっていた。
戦いの感想を聞きたいのか、なんかソワソワしている。男児の本能だろう。
「どうだ?ロウゼン。見事に勝ってきたぞ」
「……まさか、勇者に勝つとは思ってなかったけどよ……お前、俺との組み手でどんだけ手加減してたんだよ……」
そこか……。実際あの組み手では、俺は5%くらいしか出していない。身体強化を封じていたのだからその程度だ。
それでも自動発動のスキルがあるので、ロウゼンには勝てた。
ルーンとの戦いで俺があそこまで全力だったから、ちょっと気になるんだろう。
「あ、あれは俺の素の能力を上げるためであって……お前から得る物もたくさんあったし……」
「……なんか言い訳じみてねぇか?ひねり出した感じが出てるぞ?」
「そんなことないから!ちゃんと心の底から思ってるし!」
「必死だな……やっぱ図星かよ。そんな俺は弱かったのか?」
「何やさぐれてんだよ!それに、こいつが異常なだけだから!」
「ならそれに勝ったお前はもっと異常だな」
思ったより気にしてるらしい。お前そんなキャラじゃないだろ。
俺とロウゼンの喧嘩を黙って聞いていたルーンは、そこでようやく口を開いた。
「つまりさ、『気にかけてた女の子が取られそうで焦ってる』ってことで良いのかな?」
「「お前は黙ってろ!!」」
「ええっ!?」
その口、閉じてた方が良かったかもしれない。やはり空気の読めないやつだ。
その後、色々と話して、納得して貰った。ついでにルーンと一緒に行くことも言った。
そしたら、さっきほどではないがまた不機嫌になった。
「あれだけパーティーは組まねぇって言ってたレイが、一緒に行く、ねぇ……」
「うっ……それは……」
ロウゼンの言うように、俺はずっとパーティー入りを断ってきた。
まだ力加減ができていなかったし、クエストも1人で片付けられたから。
あと男のみのパーティーだと、やはり下心が感じられる。その気持ちは大いに共感するが、向けられてるのが自分なので気持ち悪い。
ロウゼンは俺と同じくソロなので、誘ってはこなかったが、いきなり現れたルーンに負けたような気にでもなっているのだろうか。
「ま、それは別にどうだっていい。勇者とならお前も少しは本気出せるみてぇだしな」
「分かってくれたようで何よりだよ」
「時に、勇者の嬢ちゃん。こいつと全力でやり合った感想はどうだ?」
「すっごい楽しかった!」
「……レイ。お前本当にこんな奴と一緒に行くのか?」
「よかったらロウゼンも来る?」
「遠慮しとく。力の差がありすぎる上に、面倒見切れねぇよ」
「おい。その面倒見るってとこに俺も入ってるのか?」
「あたりめぇだろ」
こいつ、俺のことをなんだと思っているんだ。そんな面倒な奴ではないだろ。少なくともルーンよりは確実にしっかりしているぞ。
とりあえず3人でギルドに戻ると、案の定すごい数の冒険者が待っていた。皆すごくワクワクした顔だ。
「お、今日の主役2人が帰ってきたぞ!」
「あれ、何が起きてたんだ?全然見えなかったぞ!」
「勇者はやっぱり強かった?どんな感じだった?」
「つかレイ!お前そんな強かったのかよ!Bランクの俺より強いじゃねぇか!」
「勇者さん!レイは強かったろ!俺を一撃で倒した奴だからな!こいつは!」
そんなマスコミのごとき取材に、ワタフタする俺とルーン。初対面だからか、ルーンはすごく慌てていた。Sランク冒険者でもこの感じは慣れないか。
それにしても……この流れ、覚えがある。俺が冒険者登録した日と同じ流れだ。
つまり、このままでは……宴会になる。しかもこの盛り上がりようじゃ、前よりも更に騒がしくなる。
(まずい……このままでは、あの陽キャのみの大学のサークルのような飲み会が始まる。あのセクハラ三昧の飲み会が……)
それだけではなく、俺は極度に酒に弱い。酔って変なことはしないが、リバースは避けられなくなる。またモザイクを生産するのは御免だ。
(話を切り出される前に、ルーンを連れてダッシュで宿に戻ろう!よし、これで……)
そしてルーンの方を見ると……手遅れだった。
既にテーブルへ行き、冒険者たちと飲んでいた。もうジョッキが来ていた。
取材されながら料理や酒に手を伸ばしている。
何でこう、俺の予想を裏切ってくるんだろう。もうちょっと予測できる動きをしてくれ。
そして、俺が呆然としている隙に開戦の火蓋が切られてしまった。
「よーし!今日は2人にたんまり感想聞いてやるぞ!お前ら!酒の準備はいいか!」
「「「おーー!!!」」」
……俺、帰って良いですかね……?
♢
前より長かった宴会もようやく終わり、俺は酔い潰れたルーンを背負って宿に帰った。
俺の危惧していた通り、質問攻めにされるわ、セクハラされるわ、リバースするわでじり貧だった体力を全て持っていかれた。ルーンよりも手強い相手だった。
それもこれも、当のルーンが早々に寝落ちしたせいだ。ジョッキ2杯でゲームオーバーとか俺より酒弱いじゃないか。
お陰で俺に取材とセクハラが集中した。ついでに寝ているルーンにお触りしようとした不届きものの成敗も俺がした。
(もう限界だ。帰ったらすぐ寝よう。こいつは隣の部屋にでも寝かせとくか……)
俺が帰るのは、もはやマイホームとなったこの酒場兼宿。『ヤギの足』だ。
あれからずっと利用させてもらっている。1週間が過ぎてからはちゃんと宿賃を払っている。いつまでも甘えるつもりはない。
扉を開けると、ベルフさんが片付けをしていた。俺たちの方を見ると、変わらず元気に迎えてくれる。
「おう、おかえり!嬢ちゃん!背中のそいつは誰だ?」
「すみません。事情は明日話します。疲れてるので。こいつ、俺の隣の部屋に寝かせといて良いですか。追加料は払うので」
「分かったぜ!今日はずいぶん遅かったからな!また宴会だろ?」
「はい。もう限界です。今すぐ寝ないとぶっ倒れそうですよ」
「嬢ちゃんは酒に弱いからな!隣っつうと、あそこだな。その様子じゃ、風呂にも入んねぇだろ?んじゃ、おやすみ、嬢ちゃん!」
「はい、おやすみなさい」
2階の部屋にルーンを連れて行く。ここまで結構揺さぶったが起きなかった。ノンレム睡眠に入ってるんだろうか。
(……この格好じゃ寝にくいよな。色々外すか。……なんかイケないことをしている感じがする)
謎の罪悪感を感じながら、胸当てや他の金属の装備を外す。
最後に長剣を外す。抵抗されるかと思ったが、何もなかった。というより……
(これ、普通の剣だな。どこにでもある普通の長剣。魔剣じゃなかったのか)
ルーンがこの剣を抜いた時、《虹龍》並の魔力を感じたのだが、それはこいつが剣に『武器強化』の魔法を無意識に使っていただけか。
それであれだけの迫力って……改めてこいつは化け物だと思う。
すやすや眠るルーンをベッドに預けて部屋を出て、自分の部屋に入る。
今すぐベッドに倒れこみたい気持ちを必死に抑えて、寝間着に着替える。
2ヶ月間、この装備しか着てなかった訳ではない。何着かしっかり買っている。
全て男物なので若干大きいが、スカートよりはよっぽどマシだ。
青いパジャマに着替え、今度こそベッドに倒れこむ。
「あぁ~疲れた。しんどい」
思わずそんな声が出た。本当に今日は疲れた。
……勇者と会って、戦い、初めて全力を出し、仲間になった。
これだけ見ればどこの主人公だよ、と思う。仲間も増えるかもしれない。このままでは平穏な異世界ライフはもうないだろう。
──だけど、それも悪くないと思っている。
元々平穏すぎる地球がつまらないから、異世界に憧れたのだ。異世界でなら、ハチャメチャライフも良いだろう。
ここから何が起こるか、楽しみになってきている。
(ドンと来い!もう魔王でも何でもやってやる!……できればまともなツッコミがもう1人増えて欲しいな……)
そんな切実な願いをしたら、本格的に動き出した睡魔に、俺は身をあずけた。
総合ポイント50いった!ありがとうございます!
次の目標は100!続けられるよう頑張ります!
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