14話―VS勇者
闘技場に来た。約5分ぶりに。
今から戦うのは、ロウゼンとは比にならないほどの強者。
しかし、そんなことは目の前の少女からは欠片も感じられない。
「じゃぁやろっか。さっきも言ったけど、すぐには倒さないから安心してね」
「頼むぞ。逆に俺が瞬殺する可能性もあるがな」
「ほほう、面白いね」
戦闘前の会話からもそれは見てとれる。セリフに圧倒的強者感が混じっているが、それはこちらも同じだ。
審判は、前と同じ目付きが鋭い女の人だ。未だに名前は知らない。
ルールは簡単。先に一本取った方が勝ち。
場外はOK。魔法も何でも使って良し。大怪我上等。治癒魔法もあるし、万が一は寸止めする。
お互い剣を抜く前に、勇者が一つ付け加えてきた。
「あ、私は魔法が苦手だからあんまり使わないよ。そっちが使う分には全然かまわないし、思う存分力を発揮してよ」
「意外だな。勇者が魔法苦手なのか。てっきりそっちもヤバいのかと思ってた」
「基本は剣メインだね。それでも負ける気はないよ。勇者だからね」
魔法を使わない……良いことを聞いた。これで勝率が少しだけ上がる。
それでも、剣だけでSランクまで上り詰めたのだから、決して油断はできない。
勇者が剣を抜いたが……あれはヤバい。見た目は普通の長剣だが。下手したら《虹龍》並みの業物だ。魔力の波動がこっちにまで伝わってくる。
その迫力に気圧されそうになるのを我慢し、こちらも剣を抜く。
その時、勇者が不思議な物を見る目で見てきた。刀身がないからだろうか。
「それ……刀だっけ?珍しいね」
「えっ?名前知ってるのか?これの」
「うん。東にあるイースィアって国で見たことがあるの。まさかそこ出身?」
「……いや、この国生まれ」
イースィア……名前は知っている。大陸の極東にある小国だ。まさか日本刀がこの世界にあるとは……いつか行ってみたい。
刀身が見えないことにはノーコメントか。やはりそこまで珍しくないのか。
そろそろ話もやめよう。審判さんがこっちをちょっと睨んでる。
息をスーッと吐き、相手の動きに集中する。
その時──背筋に悪寒が走った。
戦闘モードに入った勇者に先程までの笑顔はなく、獲物を狩るフクロウのような圧力を放っている。
武者震いというやつが止まらない。やっぱり勇者か、こいつも。
(落ち着け。何のための特訓だ。こういう時のためのじゃないのか。こんなこと想定できなかったが、それでも俺は十分強い)
こいつは瞬殺はしないと言った。つまりロウゼンとの初戦のように、いきなりくることはない。
──だが、こっちは別だ。
「始め!」
その瞬間、勇者の背後に俺が回った。
合図の直前、身体強化でスピードを限界まで上げ、高速で移動したのだ。
そして、上から刀を振り下ろす。これもスピードを上げて。
この一撃で終わる……ことはもちろんない。
「なっ……⁉️」
「へぇ、速いね」
──避けられた。
一切の無駄なく、流れるように。後ろにも目があるかのように。
一瞬で反応し、気配だけで避けた。流石勇者と言うべきだろう。
しかし、こちらもそこまで甘く見ていない。
下まで降りる前に、強引に止めて横に振る。
それも避けられる。
また一回、二回、三回、その次も、すべての斬撃をかわされる。
(こいつ、やっぱバケモンだな。ここまで一回も当たんないとか)
Sランクはこんな奴ばっかなのか。嫌になってくる。
……ちょっと熱くなってきた。
実は今までのは《絶剣》を発動していない。自分の力だけだ。
もう隠す気はない。本気で行ってやる。
スキルを発動し、剣のキレを格段に上昇させる。
もう体が独立したような感覚はない。スキルを自分の力にできたおかげだ。
勇者の顔に、少し余裕がなくなってきた。なのに、少し楽しそうだ。
「すごい。まだ速くなる。これはちょっとキツいね」
「喋ってて良いのか?……『身体強化』!」
ここで詠唱ありの身体強化。もはや剣は音速くらいになっている。
それでも勇者は避ける。だが──
「ッ!」
「……よし」
勇者の頬の皮に、赤い筋が一本走る。一撃当たったのだ。
これだけやって頬の皮一枚とか、本当に嫌になる。
そこで後ろに跳び、一端体制を整える。
「まずは一回。今度は一本取るぞ」
「……これは、もう抑える必要もないかもね。──次からは本気でいくよ」
勇者の魔力の流れが変わり、全身に纏われる。
ここからが本番か。もうだいぶ疲れたのに、まだやるのか。
……いざとなれば、また本気を出そう。
そうして、第2ラウンドが始まった。
♢
勇者が本気を出してから、俺は防戦を余儀なくされた。
「はぁっ!」
「くっ……」
一撃一撃が重く、速い。俺のより遥かに。
ギリギリ防ぐか避けるかできているが、それも後どれくらい持つか分からない。
反撃する余地はなく、受けるのが精一杯だ。
(……仕方ない。全力だ。ここまできたらとことん本気だしてやる)
俺が腹をくくり、身体強化を俺が出せる最大出力まで上げる。
勇者の斬撃が、さっきよりゆっくり見える。それでもこの速さは異常だ。
俺はその攻撃を流し、カウンターを入れようとする。しかし、それは体のひねりでかわされる。
ならば──別の手段で当てる。
「くっ!」
勇者の腹に俺の膝が入った。流石にこれは読めなかっただろう。
俺の膝蹴りも、魔力を腹に集めたことにより、大したダメージはない。
が、体は吹っ飛び、何回かバウンドして立ち上がった。頑丈だな。
「フフフ……ホントすごいね。私を相手にカウンターなんて」
「楽しそうだな。ここまでの接戦は久しぶりか?」
「ううん、初めてだよ。だから、もっと君の本気を見せて」
「……分かったよ。後悔するなよ!」
俺はまだ性懲りもなく、奥の手までは出さないつもりでいた。ここで見せてしまえば──それは初見殺しではなくなるから。
だが、Sランク冒険者とタメを張れるのだ。もういいだろう。
勇者は笑みを浮かべて、俺に突進してくる。俺はそれを避け、魔法を発動させる。
「……『飛翔』」
「!?」
その途端、俺があり得ない動きで勇者の後ろに回り、その回転を利用して横薙ぎをお見舞いしてやった。
一応剣で受けたが、それでも後ろに下がるほどの威力。
「面白い魔法を使うね。腕が痺れてるよ」
「本気をだせと言われたからな。言う通りにしただけだよ」
俺が使用したのは『飛翔』。
それを限界まで出力を小さくすることで、低空をスケートのように滑れる。
摩擦や踏み込みがなくなり、タイムロスがなくなった。回転を加えることにより、斬撃の威力も増す。
これが俺の奥の手、『空駆け』。
『飛翔』の練習の末に編み出した。初めてならほぼ当たるのだが、反応したこいつは何度も言うが化け物だ。
だが、奥の手はまだある。
「行くぞ。『纏炎』」
《虹龍》の刀身に炎が巻き付かれる。俺以外から見れば、炎の刀身が現れたように見えるだろう。
こうすることで、切れ味が増す。そして、
「『炎弾』」
「なっ!?」
刀身から炎の弾丸が5発分離し、勇者に襲いかかる。
こんなトリッキーな攻撃もできる。アドバンテージは大きい。
音速並の弾丸の回避をしている間に、俺も追撃をする。
……なのに、この勇者はまだ反応してくる。しかも、段々となれてきている。恐るべき才能だ。
「せやぁっ!」
「はぁっ!」
お互い一歩も譲らない。もはや観客の冒険者には認識できない戦いなっている。
魔力量も技量もほぼ互角。技数ではこちらが勝っているものの、適応力はあっちが勝っている。
よくSランク冒険者にここまでできたなと思う。だけど……こいつも手加減している。
どこかこの戦いを楽しんでいる。なんと言うか、オモチャを貰った子どものような無邪気さが感じられる。
(……勇者だからかね)
その理由を察し、だからこそ本気で立ち合う。
上段切りをあえて受け、魔法を唱える。
「『爆発』!」
「嘘……!?」
剣と剣がぶつかり合っている所で、小型の爆発を起こす。攻撃力ではなく、爆風を起こすための。
その爆風は音速を超える。強く握っていた俺は刀を落とさなかったが、勇者の長剣は宙を舞った。これで丸腰だ。
俺は勇者の首筋に刀を寸止めさせる。
「そこまで!勝者、レイ・ナナセ!」
────俺の勝ちだ。
少しの静寂を置き、大歓声が沸き起こる。
勇者はというと、爆発の衝撃で尻餅をつき、呆然としながら俺を見ている。
俺はそっと刀をしまい、勇者に手を伸ばす。
「お前の言った通り本気を出したぞ?これで満足か?」
「…………」
「どうだ?生まれて初めて負けた感想は?」
「!!」
……こいつが戦いを楽しんでいた理由は分かった。
勇者だから、今まで誰にも負けたことがなかった。勇者だから、今まで誰とも対等に戦えなかった。
それどころか、負けるのに飢えていたのかもしれない。
それが、初めて自分を下せるほど強い相手に出会ったのだ。楽しくもなるだろう。
沈黙していた勇者は、今日一番の笑顔を見せて答えた。
「……すっっごい悔しい!負けるってこんなに悔しいんだね!」
「それは良かったよ。」
「だからもう絶対に負けない!次は必ず勝つからね!」
「あぁ。望むところだ。俺も負けるつもりはない」
そうリベンジ宣言をして、勇者は俺の手を取った。
本格的なバトル描写はどうでしたか?やっぱりまだまだですよね……
どうしたらもっと良くなるか、とか教えてくれると嬉しいです!
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