13話―勇者は空気を読まない
──勇者が来た。
ついでに言うと俺を探してた。
(いやいや、もしかしたら俺じゃないかもしれない。レイなんて名前、この世界ならたくさんいるだろう。人違いだろう)
「あっ!思い出した!レイ・ナナセって子!」
駄目でした。ナナセなんて姓はこの世界にはいない。完全に逃げ道を塞がれた。
冒険者の皆もフィナさんもロウゼンも、全員こちらを見ている。なのにこの勇者はそれに気付いてない。もっと空気を読め。
「それで、いる?このギルドに」
「え、えっと……その……」
フィナさんが返答に困っている。言うべきか、言わないべきか。
俺は──その隙に逃げることにした。
だってこの後の展開が読めたんだもの!この場にとどまるのは得策じゃない!
そーっと受付を離れ、出口に向かう。
(よし!あともう少し!)
あと数歩で出れる、って所で邪魔が入った。肩を押さえてきた者がいた。
……ロウゼンだった。
「おい、勇者さん?レイ・ナナセって奴はこいつだぞ?」
「え⁉️そうだったの⁉️もー、そうならそうと早く言ってよ!」
…………やってくれたな、お前。
(何さらっとカミングアウトしてくれてんだ!ここは空気を読んで送り出すべきだったろ!お前も勇者と同類か!)
俺の驚愕と怨念のこもった視線に気づくことなく、役目は終わったとばかりに去っていくロウゼン。来週の組み手、覚えとけよ。
勇者の方に視線を戻すと、もう俺の前にいた。すごいスピードだ。
「ええと……俺に用ってのは……」
「うん、女神様が言ってたのと確かに同じだね。黒髪黒目の女の子」
「へ?女神?おま、じゃなくて。話したんですか?」
「そう。夢の中でね。あと敬語はいいよ。そういうの性に合ってないから」
女神と夢の中で話した……となると、女神の加護を受けてるというのは本当らしい。そしてかなりフランクだ。
赤毛の勇者は改めて俺の目をまっすぐ見て言ってくる。
「女神様が言うには、会えば分かるって言ってたんだけど……確かに分かったよ」
「……何が?」
「君──私と一緒に来てくれない?」
……ほれ見たことか。
やっぱ面倒じゃん。
♢
「ちなみに、理由を伺っても……?」
「うーん、なんかビビッときたんだよね。どう?」
要は直感か。そんな理由で同行者決めるなよ。
この展開は予想できていた。展開だけはテンプレなこの世界だ。勇者が来たんだから、こういうことにもなるだろう。
実際、勇者に同行するのも悪くはない。強い魔物も狩れそうだし、何より美少女と一緒にいれるんだから是非もない。
しかし、俺はこっちの暮らしの方が合っているのだ。
「ちなみに、一緒に行って俺は何をするんだ?」
「お、来てくれる?」
「それはまだ決めない」
「そっか……ただ魔物を倒してくだけだよ」
「俺、そんな強くないよ?Cランクだよ?やめとこ?」
なので諦めてもらう。俺は平穏に暮らしていく道を選ぶ!例え勇者(美少女)の誘いであろうとも!
「またまた~分かるよ私には。多分私と同じくらい強いって!」
「そんなことないから!買い被りすぎだから!」
「いやいや私の目は誤魔化せないよ~。もう100体は魔物狩ってるでしょ?」
「すごいなお前の目!正確すぎだろ⁉️そんな狩ってないから!」
「またまた~」
諦めてよ!こっちはこんな必死なんだから!
まずい。このままでは俺が一番避けたい流れになる。強引にでもここから離脱せねば!
「ご、ごめん!今からクエスト行くから!」
「あ、そうだ!私と模擬戦やろ!それで決めるから!」
だから人の話を聞けって!やっぱお前も冒険者の端くれか!
こいつもこんなだが、勇者だ。戦ったら怪我するかもしれない。それで済めばいいが、それよりももっとひどいことになるかもしれない。
(……いや待て。ここで本当にぼろ負けすれば、勘違いで済ますよな?人違いになるよな?……これだ!)
「よし分かった。そうしよう。怪我しない程度で頼むぞ?俺はひ弱だからな」
「やった!じゃぁ行こう!闘技場あるんでしょ?」
俺が「ひ弱」と言った時ロウゼンが「はぁっ?」って目で見てきたが、気にしない。勇者基準なら十分ひ弱だし、間違いではない。
(勇者相手なら接戦を装う必要もない。だが、わざと負ける演技は見破られる可能性が高い。加減が難しいな)
そこそこ大きめの攻撃がきたら、コロッと倒されよう。それで行こう。
俺が作戦を固めてると、勇者さんはある提案をしてきた。
──俺の考えなど吹き飛ばす提案を。
「でも、そうなるとレイさんが勝ったらメリットないよね。そうだ!勝った方が負けた方にひとつだけ、何でも命令できるってどう?一緒に来てもらうってのとは別で!」
「…………え?」
何でも……今こいつそう言ったか?しかも一緒に来るというお願いとは別で。
つまり──この空気の読めない勇者に、負けたらもっと変なこと要求されると?
(……前言撤回。この勝負負けられん)
先ほどの作戦はどこへやら。俺の中にメラメラと戦意が込み上げてくる。
それに勝ったら、こいつに何でも命令できるのだ。とことんおかしな要求してやろう。泣きっ面かかせてやろう。
(しかし、勝機が全く見えない。Sランク冒険者の実力が、マジで化け物なのは承知している。だが化け物は俺も同じだ。気合いで勝つ!)
生半可な覚悟ではこいつには勝てない。全力でやらねば。
思えばクエストでも練習でも、本気でやったことはない。良い機会だ。思う存分試してやろう。
そんな俺に勇者も嬉しそうなる顔で微笑む。
「うんうん。やる気になってくれたみたいで何よりだよ。私も頑張るぞー!」
「いや、お前は俺の力を見たいんだろ?見る前に倒すなよ?」
「分かってるよ!加減はするからね!できるか分かんないけど!」
「不安にさせないでくれ!いいか?絶対瞬殺するなよ?絶対だぞ?」
「それフリ?」
「フリじゃない!この世界にダチョウ倶楽部いねぇだろ!」
こいつはボケらしい。分かっていたが。
この世界、俺はツッコミに回るしかないんだろうか。このままボケキャラばっか増えてくのか?
しかし……こいつとの会話は無駄に体力が削れるが、なんか楽しい。
どことなく、初恋の人に似てるからか?
勇者の少女の汚れのない笑みを見ると、やっぱり……
(いや、似てないか……)
「どうしたの?お腹痛い?」
「大丈夫。体調は万全だ。早く行こう」
「うん!」
そう元気に返事して、俺の手を取って走る少女の横顔が……とてもワクワクした子どものようで、可愛かった。
読者の皆様は、どのような物語を求めてるのでしょうか?全然分かりません。
それが中々ブクマが増えない理由でしょうね。
そんな俺にブクマと感想という名の励ましをください!
こんなこと言ってるから増えないんでしょうね




