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12話―フラグはしっかり機能する

 女神がいた真っ暗な部屋。そこに明かりが灯り、空間が歪む。

 そして、純白の美女が現れる。


「あ~、やっぱり地球のドラマは面白いですね~。思わずシリーズ一気に見てしまいましたよ」


 実はこの女神、代わり映えしないレイの日常に早々に飽き、暇を持て余していたのだ。とんだ職務怠慢だ。


「ええと、今の時間は……え⁉️もう2ヶ月経ってる⁉️まずいです!あの子に連絡してない!は、速くしないと……!」


 女神感覚なので2ヶ月は大して長くない。それを理解した上で、この女神はサボっていたのだけれど。

 アワアワと異世界への連絡の準備をする女神。

 連絡先は───ある少女へと……



 ♢



 俺が異世界に来て、2ヶ月が過ぎた。

 ──その間、特に何もなかった。


(いや、本当に何もなかった訳じゃない。ただ平和に冒険してただけで、特別おかしなことは起きなかったんだ)


 冒険に出て、魔法の特訓をして、たまに遊んで、たまにロウゼンと組み手してボコボコにしてやったりさせられたり。

 そんな平和な日常を繰り返してただけ。ニートしてた訳じゃないし。ちゃんと週5出勤もしてたし。


(ここ2ヶ月の収穫もまとめておこうか)



 まず、魔力量が当初の倍くらいになった。

 特訓に特訓を重ね、制御も上達した。新しい魔法もたくさんできた。もはや普通の人間では100人いても勝てないレベルだ。俺の化け物加減にも拍車がかかってきたといえるだろう。


(『飛翔(フライト)』も上手くなった。もうスーパーサイヤ人になることもなくなったし。対人戦で使えるくらいにはなった)


 次にスキル。あと剣術。

 《癒し之神(パナケイア)》の回復量も上がり、今や全部使いきっても一時間あれば全回復する。そもそも使いきる場面など想像できないが。

 剣術も上達した。《絶剣》なしでもロウゼン相手に10分ほどは持つようになったし、発動状態ならば今のところほぼ無敵に近い。


(剣術抜きにしても、身体強化だけでロウゼンを圧倒できる。ゴブリン程度なら素手で殺せる。この前なんてロウゼンに「お前本当に人間かよ。そうじゃないって言ってくれた方が安心するわ」とか失礼なことを言われるくらいには強いのだ)


 ちなみに、これまでの魔物討伐数は100体を超えている。

 時に森のラージスラッグを絶滅させ、時にゴブリンを住処ごと壊滅させ、時に痴漢を撃退したりと……最後のは魔物じゃなかったな。

 なので、今の俺のランクはCまできている。超特急出世を果たしたのだ。そのせいで『漆黒の戦姫』なるあだ名もついている。カッコいいと思うが、姫はやめて欲しい。


 ……と、このくらいが2ヶ月の成果だ。よくもここまで成長できたと言うべきだろう。だが、何もなかったからこそ地道に成長できたのだ。アニメのように次々と事件を起こさずとも、俺は十分異世界を満喫できたのだ。


(別に俺は、異世界で色々な事件に巻き込まれる主人公的な人間じゃない。陰でひっそりとそんな主人公を応援して、俺自身はのんびり冒険する。それこそが俺の願望なんだ)


 しかし、その願望とのんびり冒険ライフは、ある日突然途絶えた。

 それは皮肉にも、その主人公的人物によって……。



 ♢



 土曜、俺はいつものようにロウゼンと組み手していた。

 ロウゼンがリベンジを申し込んできたので、乗ってやった。そこから日課のようになった。


「っ!おらっ!」

「ふっ、はっ!」

「ぐっ……!」


 猛攻を軽くいなしながら、俺のカウンターの掌底が決まる。

 俺が勝つのも、もはや恒例になってきた。最初の頃は結構やられたのに。


「立てるか?」

「あぁ。くそっ……また負けか。もう勝てる気しねぇな」

「ならやめるか?」

「来週もう一回だ」


 この会話も先週した。いつまで経っても諦める気はないらしい。確実に強くなってるんだから、いつかは負けるかもしれない。それは俺も同じだけど。

 ロウゼンもだいぶ柔らかくなった。初期のツンツンどころかグサグサ刺さっていたあの頃が懐かしい。2ヶ月前だけど。

 今や俺と一番親しい冒険者だ。女の子扱いもあまりしないし、こちらもやりやすい。

 それと、俺はもうアクロアではフードを被っていない。無駄だと悟った。どう足掻こうが、このフードは防御力が低い。

 闘技場を出て、ギルドに入ったところで受付嬢さんも挨拶してくれる。


「こんにちは。レイさん、ロウゼンさん。今日もお疲れ様です。やっぱりレイさんが勝ちましたか?」

「残念ながらな」

「今度は身体強化切ってやろうか?」

「いらねぇよ。腹立つな」


 そのやり取りに微笑む受付嬢さん。

 この人ともだいぶ、いや結構親しくなった。名前はフィナさんという。受付嬢さんの名前ってすごくレアな気がするよな。

 いつも受けはフィナさんだし、相談にものってくれる。この前やけ酒に付き合ってやったりもした。彼氏が見つからないらしい。ちなみにフィナさんは26歳だ。この世界で26歳彼氏なしは、かなり婚期を逃している。

 そんな崖っぷちフィナさんが気になることを話してくる。


「あ、そういえば。この街に勇者さんが来るそうなんですよ」

「勇者?」

「なんだ?知らねえのか?レイ」

「知ってるよ。そのくらい」


 勇者くらい、女神からの情報で知らずとも、耳にする。

 勇者──魔王に対抗するために作られた人の英雄。圧倒的な剣の才、超人的な魔法、そしてあの女神の加護を有する、まさにビックリ最強人間だ。

 しかも、スキルを何個も所持している上に、神話級スキルもあるとの噂だ。勇者自身はSランク冒険者であるが、基本は王命の任務で動いている。

 そんなエリート様がどうしてこの街に来るんだ?

 その疑問に応えるように、フィナさんが付け加えた。


「なんでも、アクロアに来るのは勇者の独断らしく、王国の騎士団が必死に止めたようですが、突破されたとかで……」

「独断って……ずいぶん勝手な」

「力がバケモンでも、中身は人間ってこったな。あんまし興味ねぇな、俺は」


 そう言って立ち去るロウゼン。

 今の勇者は俺と同い年くらいの女の子という。異世界の勇者にやたら女の子が多いのはただの偶然か?

 いや、あの女神が選んだなら女の子なのも頷けるな。あいつが選ぶのならきっと勇者は美少女だろう。サインくらいは貰っときたい。


「そういえば、勇者の名前って何て言うんですか?」

「さぁ?あまり聞きませんね。何て言うんでしょうか」


 フィナさんでも知らないとなると、知ってる人は少なさそうだな。

 まぁ、そんな有名人。話す機会もないか。

 と、俺がフラグじみたことを言った途端、ドアが勢いよく開けられた。というかドアが吹っ飛んだ。


「なんだなんだ?」

「誰が壊したの?」

「ごはっ!」

「あぁ!誰かがドアにぶつかったぞ!」


 一気に騒がしくなるギルド。そして、やがて皆の視線が一点に集まる。

 ドアに立っていたのは──女の子だった。

 肩口で切り揃えられた、燃えるような真紅の髪。

 爛々と輝く黄金の綺麗な瞳。

 スカートと長いマフラーをなびかせているが、胸当てと腰の長剣が一般人ではないと知らせてくる。

 極めつけに──とんでもない魔力を持っていた。

 その少女が、よく通る澄んだ声を響かせた。



「……あ、ごめん。ドア壊しちゃった。まぁそんなことはいいとして……ここが冒険者ギルドのアクロア支部?」



 ドアを吹っ飛ばしたことを「そんなこと」で済ませた赤髪の少女は、誰に向かってか分からない疑問を投げ掛ける。

 それに、唖然としていたフィナさんが慌てて応える。


「そ、そうですけど……あなたは……?本日はどのようなご用件で……?」

「あぁ良かったぁ。初めて来たから迷ったかと思ったよ」


 陽気に笑う彼女に、誰もが困惑し、同時に見惚れた。

 そして内心俺は気付いていた。この少女が何者かを。ここまでフラグ立てといて違う訳ない。

 少女はツカツカと受付に歩みながら言う。



「えっと私は、ルーン・ヴェルミリオン。知ってそうな名前でいうと──勇者、かな?」



 ギルドにさっきと比じゃないざわめきが起こる。

 フィナさんや、ロウゼンでさえ目を見開いていた。

 だが……俺は対して驚かなかった。


(さっきさんざんフラグ立ったんだから、勇者じゃない方がおかしいわな。しかし、勇者が何しに来たんだ?)


 騎士団を突破してまでここに来た理由。それが分からなかった。

 その答えを、勇者──ルーンはすぐに言った。


「用件っていうのは、ある人を探しに来たんだけど……」

「それは、冒険者ですか?」

「うん。えっと確か……レイっていう子なんだけど……いる?」


 ……ざわめきがピタリと止まった。かと思ったら視線が一点に集まった。

 もちろん──俺の方へと。

 えっと……勇者さん?まさかの俺をご指名ですか?

ダイジェストにしたけど……駄目だったらごめんなさい。

もし2ヶ月の間の話が読みたかったら、感想までお願いします。

ついに新キャラ!

ブクマも感想も待ってます!モチベ爆上がりするんで!

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