10話―はじめてのぼうけん
スーリア王国は大陸の西に位置している。そしてアクロアはそこの北にある。地図を見た時は寒いんじゃないかと思ったが、風の影響かそんなに寒くない。年中秋みたいな感じだ。過ごしやすくてとても良い。
「んーー!よし!もう直ってる!」
目覚めも爽快で良い。昨日の二日酔いが嘘のようだ。
昨日はさんざんだった。起きた瞬間吐き気と頭痛のオンパレードで、とてもクエストには行けなかった。《癒し之神》も二日酔いには効果がないらしい。
「おはよう!レイちゃん!今日は元気そうだな!」
一階に下がると、今日もベルフさんが元気に挨拶してくれた。昨日いつまで経っても俺が部屋で這いつくばってたので、心配してたらしい。
素早く顔を洗い、今日もテーブル拭きと床掃除をする。いかにベルフさんが遠慮しようとやめる気はない。
「ふう、これで終わりっと」
「今日もご苦労さん!ほい、朝飯だ!」
今日の朝ごはんもとても美味しい。俺の母親の料理より遥かに技術が上だ。
すぐにたいらげ、装備を整えギルドに向かう。
「お、嬢ちゃん。もう行くのか?上手くやってそうで何よりだ!」
「結構良い人たちですよ。人の話聞きませんが」
そもそもあの冒険者たちのせいで二日酔いになったのだ。良い人かどうかは怪しいかもしれない。
ダッシュでギルドに行き、中に入る。もう何人か来ていた。冒険者のくせに早起きなのか。
入った俺に気付いた様子もない。まだ朝なのに酒飲んでるからだろうな。
クエストの依頼書が貼ってあるボードに行く。ここにある物を持っていくとクエストを受けられるのだ。
(採集、護衛、調査、討伐、どれにしようか)
クエストは基本この四種類だ。難易度は採集が一番低い。報酬も一番低い。
討伐が最も報酬が良いのだが、危険度が跳ね上がる。調査も同じくらい危険だ。
一昨日なったばかりの俺には、採集か護衛が良いかもしれない。
そう思い、採集の依頼書を取ろうとすると、後ろから急に声がした。
「……お前なら、討伐でも良い気がするがな」
「え?」
見ると、ロウゼンだった。ポケットに手を入れ、眠そうに欠伸していた。
「お前の実力じゃ、討伐クエでも問題ねぇだろ。低難易度なら楽すぎるくらいには強ぇしな」
「あ、ありがとう……お前、そんな親切だったか?」
「けっ、別に新人に因縁吹っ掛けてたのも、まーたアホな奴が死んで一々騒ぐのが馬鹿らしかっただけだ。俺はそんなクズじゃねーよ」
そうぶっきらぼうに言って、奥に引っ込んだ。何だ、ただのツンデレか。隊長と同類か。
助言はありがたく受け取り、採集ではなく討伐の依頼の方を見る。
低難易度なら楽すぎると言っていたが、初日から「おすすめCランク」のクエストに行ったりはしない。最初はEかDのクエストに行くつもりだ。
(でも少ないなー。んー……お、あった。何々?『ラージスラッグの討伐』難易度はD。これにするか)
内容は、森に生息するラージスラッグという魔物を5体討伐せよ。というものだ。ラージスラッグって何だ?ラージは「大きい」で、スラッグは何だったけか。実際に見て確認すればいいか。
依頼書を取り、受付に持っていく。
「このクエストを受けたいんだが」
「はい、分かりました。えっと『ラージスラッグの討伐』……本当に良いんですか?良いんですよね?」
「ん?ああ。問題ない」
「……分かりました。では、無事を祈ってます」
見送られながら、ギルドを出る。
なんか受付嬢さんの顔が、すごく心配しているように見えたのだが、気のせいだろうか。
……この後俺は、「実際に見て確認すればいいか」などと思った自分を呪うことになる。
♢
現在、森の中。初めてのクエストで、ウキウキ気分だった俺は……
「うわあああぁぁぁ!!!」
──絶賛逃げ惑っていました。
それもそのはず。なんとラージスラッグの正体は……
「ミミミミミミ!!」
「聞いてないから‼️巨大なナメクジとか!聞いてないからああぁ!!」
そう、ナメクジだった。
といっても、地球のやつの大きさの比じゃない。全長2m近くある、化け物だ。さすが異世界。魔物が凶悪だ。
俺は虫全般は見れるし、触れる。地球のナメクジも触れはしないが、全然平気だった。
でも、これは違う。これはナメクジじゃない。ナメクジの形をした、鬼よりも恐ろしい何かだ。
しかもなぜか、俺の後ろには7体ほどいる。迫ってきている。さっきから鳥肌が立ちっぱなしだ。鳥になるのも時間の問題か。
「何でお前ら俺のとこに寄ってくんだよ!もしかして女神が俺をナメクジにしようとして、俺がキレたからか⁉️だから怒ったのか⁉️違うって!あれは俺じゃなくてあの女神が悪いんだって!!」
そんな必死の弁解を聞き入れてくれるはずもなく、俺は森の中を走り回った。
数十分地獄のような鬼ごっこを続けた。この場に塩がないことが無念で仕方なかった。
(…………もういい。皆殺しにしてやる……)
生まれて初めて本当の殺意を持った気がした。相手はナメクジだけど。
右足に魔力を流し、高く跳ぶ。上空8mくらいで止まり、憎きナメクジ共が見上げている。
ゆっくり右手をかざし、落下時間までにイメージを固める。
イメージは炎。一匹残らず駆逐してやるのだ。
手のひらに出現したバランスボール大の火球を、気合いで圧縮する。面で打つより点で打った方が、威力は増すのだ。
「灰すら残さず消し飛べ!そして俺の恐怖を思い知れ!『火炎砲弾』!!」
手のひらから発射された紅蓮の弾が、ナメクジが集まっている場所のど真ん中にぶち当たった。
その瞬間、大爆発が起こった。熱を孕んだ火傷しそうな爆風も来た。
「おわっ⁉️」
既に着地した後だったので、何とか踏ん張って吹き飛ばないようにする。
風が止むと、そこには──何もなかった。
否、クレーターができてた。直径4m近くのクレーターが。
当然ラージスラッグは跡形もなくなっている。俺の宣言通り消し飛んでいた。
見れば、近くにあった木も吹き飛んでいる。どこまで強いのか。
(これは、出力の調整を練習した方が良いな……)
今は誰も見てないから良かったが、今後やらかさないとは限らない。そのうち面倒の元になる。
とはいえ、初クエストは無事クリアか。10体くらい倒した気がする。
……帰り道、木に止まっていたナメクジにビックリして腰が抜けた。もうすっかりナメクジがトラウマになっていた。
♢
「お疲れ様です!そ、その大変でしたね……」
「はい、すごく……」
「で、では報酬の750アイルです!また頑張ってください!」
この国の通貨はアイルと言う。750アイルはだいたい宿三泊分だ。本当は600アイルだったのだが、受付嬢さんの厚意だろう。ありがたく頂戴する。
誰も座ってないテーブルに座り、「は~~」と大きなため息をつく。
たまたま対面に座ってきたロウゼンに鼻で笑われた。
「クッ……どうした?初クエでまさか怖じ気づいたか?それともナメクジでも踏んだか?」
「俺の前でナメクジの話をするんじゃねぇ!!」
「お、おう……すまねぇ……」
俺の剣幕にたじろぐロウゼン。今の俺はナメクジというワードに人一倍敏感なのだ。不用意な言動は慎みたまえよ。
その後はすぐに帰り、ベルフさんの料理を食べ、風呂に入った。「共同銭湯に行かねぇのか?」と言われたが、俺にとってはそちらの方が難易度が高い。ただでさえ自分の体を直視するのが後ろめたいんだから。自分の体なのに。
まだ3日目だが、女の体は慣れない。腕とか腰とか足が病的に細いので力加減がよく分からない。スレンダー体型にも困ったものだ。
(ナメクジの臭いはちゃんと消せたか。はぁ……初クエストなのに深刻なトラウマを背負ってしまった。これから普通に行けるだろうか……)
そんな懸念を抱きながら、俺は瞼を閉じた。
♢
……女神は観察していた。七彩澪の、いや……レイ・ナナセの生活を。
「アッハハハハ!ちょっ!面白すぎですよレイさん!その顔でそんな叫ばないでくださいよ!アッハハハ!」
観察というより覗きと言った方が良いかもしれない。女神の言い分では「神っていうのは傍観者何だから別に良いじゃないですか!」と言っていたが、これを知ったらレイは本気で女神をシメるだろう。
女神(覗き魔)は一旦モニタリングを止め、独り言を漏らす。この空間では何もないから必然的に独り言が多くなるのだ。
「あー本当に面白いですね。そしてあの強さであの性格なら、すぐ死ぬこともなさそうですし。いやーつくづく大当たりを引きましたね」
前の転生者たちは、皆自重を知らず、好き勝手に生きたせいで異世界の人間に殺された。
当然だろう。チートと言えるような力を持っており、融通の利かない者など為政者や王からすれば魔物より恐ろしいか怪物なのだから。
しかし、レイ・ナナセなら上手くやれる。そう女神は確信していた。決して見た目の贔屓は入っていない。
「フフフ……もう少し経ったらあの子と会わせてみますか。どんな化学反応が起こるか楽しみです!」
また変な企みをしながら、女神は笑い声をあげた。
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