トリスタ
開門した。時間は朝7時頃、昨日の夜は入れなかったのであろう旅人が私の
前に3組居た。
乗り物に乗っているのは私1人だ、日の出から2時間位だが既に数組後ろに
並んでいる。
検問が始まる迄の間、シートに座ったまま運転席のドアを開け放ち朝ハンス
さん達と飲んだ残りの紅茶を収納から取り出し飲んでいる。
右に拡がる広大な海の海岸線を遮る様に城壁が海の中まで入り込んでいる。
このトリスタは大陸唯一の3面城壁だ、城壁の造りからして漁業が中心なの
だろう、都市の周りは岩場が多く森林群は北方視界に収まる程度に離れてい
る。
内陸に向かい緩い丘陵を駆け上がる様に城壁が延びている。
ここへ来る道中、ハンスさんからトリスタの話を少し聞いた、元は漁村のこ
の都市は城壁の構造上、幅を拡げず内陸方向に城壁の増築を繰り返した都市
らしい。
熱い紅茶を飲みきる時間も無い程速い間に検問の順番が廻ってきた。
あっという間に城内へと通される、共和国内で1番検閲が緩いのだろう、チ
ラ見はされたが検閲、質問は一切無かった、鑑札の書き写しと人数確認だけ
らしい、煩わしくないのは良い事だ。
前以てカリアスに聞いた事だが、ここには高城も屋敷も無い、行政府は有る
が門番は居ない”迷うと戻る事になるので最初に聞け”と言われている、城門
を抜け、通りを挟んで角の建屋の”案内所”に立ち寄った。
「すまない、奴隷市場は何処だろうか?」
「ハイ!城壁を内陸方向へ突き当たり曲がって半分行った所です要は1番奥
の真ん中です」
「出来れば宿も教えて欲しいのだが」
「宿は奴隷を買うなら向こうの案内で紹介して貰った方が割引が効きますよ
?」
「そうか、有り難う」
成る程そうかと納得した高額品にはよく有るパターンだ。
漁村の発展都市なので道幅が狭いのかと思ったがそんな事は無かった。
奴隷取引が有れば当然馬車が通るので広く取られていた、最奥を右に曲がる
と更に道路は広かった、奴隷市場前に馬車を縦列駐車している、この最奥は
市場専用らしいチラリと見たが1本裏の通りは搬送口らしく奴隷が降ろされ
ていた。
正面口に車を止め案内所へ、聞けば市場は4日に1度の開催らしい、今日開
催されるが開催は昼過ぎと言う事だった。仕方が無いので引き返そうと踵を
返した所で案内嬢に呼び止められた。
「すいませんが初めてのお客様ですか?」
「そうだが?」
「でしたら入札に参加する為には登録が必要ですので商業ギルドカードか鑑
札を御願いします」
「今は4つ有るのだが、どれが良いだろうか?」
そう言って彼女の前に並べた。
共和国ミレーヌ商会ミレーヌ・アールステット、
魔国領主ハンス・テールマン、
帝国第1王女クリスタ・バウムガルド、
アルリア王国セリア商会セリア・トラーシュ、
それを読んでいく内に彼女の顔色が変わっていく。
「申し訳ありません!私には判断出来かねますので支配人を呼んで参ります
、今暫くお待ちの程、宜しく御願い致します」
そう言って凄い勢いで走って行ってしまった。
暫く待っていると如何にもな体型の男が汗を拭きながら彼女と一緒に走って
きた。
「お待たせして申し訳ありません、わたくしここの支配人をさせて頂いてお
ります、マラート・シュルチコワと申します、以後お見知り置きを」
そう言って”名刺”を渡された。(名刺あるんだなこの世界)
「ここでは何ですから、支配人室の方へどうぞ」
そんなにヘコヘコされる程偉くは無いのだが登録しない事には参加出来ない
ので大人しく付いていく。
通された部屋は思いの外質素だった、考えてみれば商売なのだ、店長室レベ
ルで充分なのだろう、定番の流れでソファーに座る、目の前には紅茶だ。
そして支配人の第一声に訝しんだ。
「今日はラルフ様かカイル様のお口添えでお越しに成られたのでしょうか?」
「それは?帝国のか?」
「ええ、そうでございますが?」
それは帝国皇帝と第1王子の事である。
「いや、今回は私用で来たのだが」
「そうでございますか、では良いタイミングで来られましたね
今回は帝室からの下賜の逸品が出品されます、目玉商品ですので最後の出品
になりますが、それまでにも良い商品を取り揃えておりますのでお品定めを
お楽しみください」
そう言い終わると”是非セリア商会様での御登録を”と言われて私の名前で登
録した。




