情報戦
アルリア王国ダークエルフ大使館公務室にて
駐アルリア大使ラザロ・ブランキーは書類に目を通していた、雑務の多い大
使館の仕事でも長年やっていれば変わり映えの無い内容に思考を割く事無く
処理が終わってしまう、机仕事が苦手だと自認している自分には、まだ外へ
出て他国と腹の探り合いをしている方が楽しいと感じてしまう、かと言って
そんな事をする為にしょっちゅう他国の大使と顔を付き合わせている訳にも
いかない、そんな私の”暇”を潰してくれそうな情報がトールの駐在員より上
がってきた、アルリア王国国定史名に決まった”トール戦役”で面白い事が起
こったらしい、報告書を読み進めるにつれ、出来の良い物語を読むかの如く
どんどん興奮していく自分が居た。
里への報告はしなければならないが、そんな事がどうでも良くなる程の報告
内容に直接駐在員を呼び出し、到着するのを心待ちにしている所だ。
駐在員が事務処理でまだ在館していた事が僥倖だったと言わざるを得ない。
楽しみである。
これ程駐在員が来る事を楽しみにしていた事は過去に無かったが、待望の本
人が訪れたのは3時を回った頃だった。
「さあっ、そこへ座りたまえ」
着席を勧め館員に紅茶を出す様指示した。
「トール駐在員ティナ・メリーニと申します」
そう言いつつ軽く頭を下げ彼女は席に着いた。
「では、事の顛末を最初から話して貰えるかな?」
そう促してワクワクしながら彼女が話しはじめるのを待った。
「最初私はダンジョンから溢れ出す魔物の様子を観察し報告しようと砦壁の
上から観察していました、すると突然凄い速さで箱の様な物が東から近づい
て来たのです、最初はゴブリン軍かと思いましたが、近くまで来て止まると
扉を開けて中から人らしき人物が出て来て地に伏せ北に向け何かを構えたの
です、暫くすると北方よりゴブリン軍が現れ、その人物に向かって進軍して
行ったのです。
その時は他国の観測斥候かと思いましたが、ゴブリン軍が2ルーク以内に迫
った時それは起きたのです、魔力が起ち上がる気配がしたと思ったその時、
その構えていた物から物凄い速さで何かが撃ち出され、ゴブリン軍中央の兵
士を隊列の後方まで一条の光の様に薙ぎ払ったのです。ほんの一時の間にそ
れを数度繰り返しただけでゴブリン軍三万六千の三割以上が壊滅しました、
その後魔法を変えたのか密集した兵士に向け当たると膨れ上がる、多分にフ
ァイアーボールの一種だと思われますがそれを6度繰り返し更に3割以上の
ゴブリン軍が壊滅しました、最終的にアルリア軍と当たるまでたった一人の
人によりゴブリン軍三万六千はほんの数瞬の間に一万程まですり減らされた
のです、その後その人物は乗ってきた箱に戻り軍同士がぶつかる前にまた東
へと去って行きました」
「これが私が見た、事の顛末です。ラザロ閣下あれは何だったのでしょう?
1発で数百、千人単位で殺戮出来る魔法など聞いた事も有りません、あれを
見て、2ルークの距離でも除ける暇さえ無いあの攻撃を見て、私は恐怖で暫
く震えが止まりませんでした」
「そうですか、貴女には特別報奨と特別休暇をあげますから暫くゆっくりす
ると宜しいでしょう、報告御苦労様でした」
とうに醒めてしまった紅茶に詫びながらも彼女に勧めた、それを一気に煽る
と焦燥の残る顔つきで彼女は退室して行った。
「これは情報局の手を借りた方が良さそうですね」
そう言いつつ醒めた紅茶を満足そうに煽った。
然しその情報はダークエルフだけでは無く全世界に行き渡る事になったので
ある。




