疑問
9日昼王都に速報がもたらされた、”クレア山中央付近に軍影を認む数、種
別は未認、南下せり”である。
これを受け各方面に連絡、3日後に幹部招集の通達がされた。
王都の街はまだ、何時もと変わらない暮らしが続いていた。
アルリア王都から西南西へ約470ルーク{470km}クレア山脈を越えた
地、ダークエルフの里の南方に位置するクレア山脈の麓に隠された施設が地
下へと続いていた、行き着いたそこにはただ丸いだけのドーム型の広い空間
があるだけだ。
暫くすると巨大な魔方陣が現れ、それが消えると共に二人の女性の姿が現れ
た。
透き通る様な白い肌に純白の羽根を持つその容姿は天使と言われれば信じて
しまいそうな程だが明らかにそうでは無い身成をしていた、動きを重視する
中にも荘厳な雰囲気を醸す、白を基調とするバトルアーマーに細身の豪奢な
飾り付けをされたロングソードを腰に下げている。
二人は二言三言言葉を交わすと一人は外へと立ち去り、残りの一人は逆の方
へと歩き出し壁面へと向かう、近づきながら手を翳すと何も無かった壁に大
穴が開き立ち止まらずに中へと入っていく、少し降ったその先には観測器ら
しい機械を見詰めて座る同じ服装の女性の姿が在った。
入って来た女性は徐に近づき声を掛けた。
「どうだクラリス、データは揃ったか?」
『あぁ?レベッカか、あの動力量でこの量と規模の注入であの程度・・・
仕様を変えてもう一つデータが欲しい所だな、比較対象が無いとどうにも歯
切れが悪くて敵わん、再実験の許可は下りないものだろうか?』
「動力の調達に手間取るだろうから下りないかもしれんな一応上げてはおく
が」
『ああ、そうしておいてくれ』
『他の皆は?』
「一人は上、二人は下、二人は現地だ」
『では、これだけ持って行ってくれ下の資料だ』
「判った」
資料を受け取るとレベッカと言う女性は来た通路を戻って行った。
ハンスとベノンは夕方には王都に到着していた。
別に野営でも良かったのだが王都近郊は暫くは都民以外野営は禁止だと言わ
れたので仕方が無い、取り敢えず適当に選んで逗留する事にした。
噂とは言え開戦前にしては城下の中の何処にも緊張感が無い、城壁も完全に
修復されてはいない数段何かを積めば簡単に乗り越えられる程だ、籠城戦は
無理だとしても撃って出るより防衛戦の方が良いとでも考えているならば愚
の骨頂だが城壁内に防衛戦の準備は無い、何がここまで都民を落ち着かせて
いるのか甚だ疑問だ、ある程度の警戒は必要な筈なのだが篝火一つ無いのは
かえって異様だ。
ここまで来た事に一抹の不安を感じるがいざとなれば正体がバレようと飛ん
で逃げれば何とかなると信じるしかない、取り敢えずは”観光”と言う名の情
報収集をする事を決めた。
ゴブリン軍の将軍イーベは一抹の不安と疑問を拭い去れずに行進を続けてい
た。
一つは出兵計画を聞いたときから思っていた事だ、その陣容の説明に一応の
納得はしたのだがどうしても引っ掛かりが拭えていない、受諾した以上遂行
するのが軍人なので他人に相談する事でも無い、そんな事をすれば臆病者と
謗りを受けるだけである。
それもクレア山を降りた時に聞いた情報で半ば確証に近い所までは思い至っ
ている、外れていてくれれば良いのだが、始まってみなければ答えが出せな
い事がもどかしい。
軍人としては失格だが現状では無事に帰れる事を祈るしかないのも確かなの
だった。




