譲られた物
5日、今日は店番を従業員に任せ、朝から机に齧り付き企画書を上げた。
物販以外でも生活に根差した商売は失敗が少ない、サービス業は良い収入源
になる事を踏まえての企画立案なのだ、雇用促進にも繋がる、出来る事はや
っていきたい。
午前中は残りの時間で魔導パソコンの魔法陣プログラムを進めて、午後から
は新規開発品を裏の倉庫で作業中、開発しているのは魔導エンジンと魔力バ
ッテリーと魔法通信装置と魔導モーター、ガテン系ではセメントを開発中で
ある、セメントなど直ぐにでも出来そうな物だが如何せん、この辺には岩場
が無い、石灰石が直ぐには手に入らない、頼むと高く付くので自前で探さな
ければ成らない為だが急ぐ物でも無いので追々にですな。
何を創るにしても術式と手順書を作っておけば魔法士なら時間は掛かるが誰
でも出来るからね。
企画止まりになっているのもまだまだ有る、魔法ライターとか土木建築部と
かが有るがあたしの躰は一つしか無いのでそんなには出来ませんです、ハイ。
今は就業時間内なので作業しているのは魔導モーター、エンジンとモーター
の違いはハッキリ言って大きさと出力だけ、モーターの基本魔法陣プログラ
ムが完成すれば其の侭エンジンも完成と言う事になる、エンジンを載せる箱
物は既に完成の域に有る、時間外にコツコツと創っていたのだ、イメージが
しっかり有るのでそんなに苦労はしなかった。
そうそう、あたしの居る倉庫だが開発品は一つも置いていない、有るのは山
積みの樽や木箱とあたしが使っている机と魔法スタンド、ここは真っ暗だか
らね、要るよね、スタンド。
やってる仕事は魔法陣プログラム、こう言う環境、集中出来るよね、やっぱ
り。
ああ、あたしが居なくても創れる様に錬金術士も雇わないと駄目ですね、あ
たしの様に組めるとは思わないけど簡単な魔方陣なら組めるでしょ、やる事
山積みです。
風がそよぐ木陰のベンチで優雅に紅茶を嗜みつつも
容姿に似合わぬ物を眺めている女性が佇んでいた。
何気ない動作で幾本か生えている樹木の幹に向け魔力を込めて矢を放つ。
狙い違わず、矢の半分程が幹にめり込んでいる、貫通はしなかった。
そんな手持ちの武器を眺めていると、カップを手に持ち向かいの席に腰を降
ろす女性が声を掛けた。
『あら?ユリア珍しいわね、貴女が武器を弄ってるなんて?』母のアリアで
ある。
「・・・お母さんはこういった武器は嫌い?」
『私は使える物なら何でも使う派よ?』
「確か、お母さんの魔力量って私と同じ位だったわよね?」
『それは貴女が成長していなければの話ね?』
渋い顔をしながらも母に返事を返した。
「お母さん・・悪いんだけど魔力を目一杯込めて私が撃った同じ幹を撃って
みて貰えないかしら?」
『ええ良いわよ、あれと殆ど同じだと思うけど』
そう言いつつ幹に放った矢は、宣言通り同じ位の貫通量だった。
「・・・・・ありがとう」
『流石はセリアが創ったボーガンね、威力が凄いわね』
「ああ、確か単撃で飛距離を稼ぐのに創ったとか言ってたと思ったけど、あ
の子加減を知らないから魔法を使うと辺りが大変な事になるのよ」
『それを何故貴女が持ってるのかしら?』
「この間セリアが引っ越した時にもう要らないから良かったら使ってくれと
か言って置いていったの、ちょっと思い出した事が有って、使ってみたのよ」
『こんな性能じゃその辺の人にはあげられないものね』
「ええそうね、確実にSクラス仕様の武器ですもの普通じゃ魔力が保たない
わね」
ユリアはそう言うとテーブルにボーガンを置き、残りの紅茶に口を浸けるの
であった。
予告です。62話から大きく話が動いてきます。乞うご期待です。