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北の果て

ここはこの大陸の最北端、冬には太陽が沈まなくなり、一年の半分は雪に埋

もれている、晴れの日も少なく常に雲に覆われる、先祖がこの土地を選んだ

理由が解る気がする。

西南西の遙か遠方にクレア山脈を望み眼前に果てなく見えるテストーイの大

地が広がる、小高い丘の上に立つ屋敷のバルコニーから手摺りに寄り掛かり

ただ一点、南西を見詰める男の姿が在った。

そんな彼を見留めたのか、近付く気配を感じて声を掛けた。

「おはようペトラ、起こしてしまったかな?」

『気にしないで?・・また一昨日の事を考えているの?』

そう言い左隣から上目遣いで私の顔を覗き込む妻の肩を抱き寄せ返事を返し

た。

「あぁ少しね、でも一昨日の様な感覚はもう無いよ、殆ど普段と変わらない

様子だね」

『なら良かったわ、一昨日の貴方は普段とはまるで別人の様だったもの』

そう言い不安そうな顔を見せるペトラに、申し訳ないと思いながらも理解し

て貰えると信じてその想いを打ち明けた。

「僕はね、確かめてみたいんだ、あの躰の奥底から湧き上がる様な喜悦な感

覚は一体何だったのか、過去に味わった事の無いあの感覚をもう一度感じて

みたくて仕方がないんだ、それがどこで起こったのかは大体見当が付いてい

る、それが何だったのかを確かめたい。

空を真っ直ぐ行けるとは言え危険な地を横断する事に変わりは無いから君を

連れて行きたくはないんだ、だから僕一人で行って来る事を許して貰えない

だろうか?」

彼女は暫く考え、答えを出した。

『ベノンを連れて行くなら、許してあげるわ?』

”ありがとう”と言いながらキスを交わして暖かい室内へと彼女を誘った。


翌朝ベノンを伴い出立した、急ぐ旅でもないので自領の端まではゆっくり空

を移動した、二日半およそ四百ルーク{400キロ}何事も無くたどり着い

た、妻には心配を掛けたくなかったので”真っ直ぐ飛ぶ”とは言ったが現実的

には無理が在る、ここから先は帝国領一筋縄では行かない、ここ帝国と隣の

ドワーフの地には至る所に索敵魔法陣が設置してある、約百ルークは索敵の

隙を徒歩で移動し、帝国内を身を隠しながら五百ルーク近く低空飛行で行か

なければならない。そして漸く国境線を超えたのは出立から十八日後の雨の

月{6月}七日の事である。


魔族の容姿は人族とは違うので近くの林に隠れ偽装魔法で人族の姿に変える

、真西に真っ直ぐ街道が延びる、遮る物も余り無いので飛んでは行けない、

飛んで気付かれて殺す事に戸惑いは無いが、無駄な手間も掛けたくはない。

「さて、歩きますか、王都アルリアまで」


















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