銭湯テレス店オープン
銭湯テレス店オープン当日、セリアは商品の出品数のチェックをしていた。
帝国での失敗を糧に穴の無い供給体制を敷いたセリアは、パンツを含めた従来
品を担当魔法士に任せ試験供給品として特設コーナーを作り、新商品”夜の王子
様”専属販売員として腰を据える事にした。
下げ看板には”女性限定、夜の営みに御不満の有る方”と銘打って有る、価格は
銀貨50枚、安くは無い。
AM10時のオープンまで後1時間と迫った頃。
部屋奥のリクライニングベッドルームで、ポチポチと新商品を創り続けていた
セリアに目を血走らせたユリが会いに来た。
「セリア様、私、もう限界です、何とかしてくださいませんか」
その一言で状況を理解したセリアは即座にユリを手招きして呼ぶと、入口の扉
を閉めて鍵を掛けた。
「あの場へ足を踏み入れるだけで、躰が反応して辛いのです、どうか静めて頂
けませんか?」
「判ったわ、このベッドに横になって」
ユリは4人の特訓現場の食事時間の連絡役をしている、当てられる事は想定し
ていたのである。
セリアもベッドサイドに腰を降ろすと遮音魔法を掛け新商品の”夜の王子様”を
ユリへとあてがった。
オープン15分前、ユリはまるで憑き物でも落ちたかの様な和やかに上気した
笑顔で髪を整えながら扉を開けて仕事へと復帰して行く。
それを見送ったセリアは次の来客に備え、淡々とベッドと夜の王子様に洗浄魔
法を掛けるのであった。
オープンと同時に看板を通路入口に出し、まるで路上占いの様なカウンター席
に座るセリアにサラが紅茶の差し入れにやって来た。
「客入りの方はどうですか?」
その問い掛けに笑って返事をするセリア。
「こんなオープン初日の朝1番から夜の相談に来る人は居ないわよ、来たとし
ても午後から夜に架けてでしょうね、あっそう、そう、お昼になったらユリと
2人で食事交代に来て頂戴ね、それと誰か暇そうな子が居たら1人連れて来て
頂戴」
「了解しました」
銭湯の客もオープン時、数人入りその後ぽちぽちと入るが、そんな状態が夕方
迄続き、17時過ぎ客足も増えて来た頃ボチボチセリアの看板に興味を示す客
が出始めるも声が掛からない状態が続いていた。
18時を過ぎた時、サラが1人の女の子を連れてやって来た。
「申し訳有りません、手空きの者が居らず、業務終了後と言う事で連れて来ま
した」
「そうよね、仕事をしているのですもの、手の空いている人など居る訳が無い
わよね、無理を言って御免なさいね、サラ」
サラは脇へ下がり恭しく頭をさげている。
「それで、貴女は銭湯の閉店まで手伝って貰えるのかしら?」
「えぇ、その積もりで伺っております」
「そう、有り難う。サラ、何か軽く摘まめる物を2人分御願い出来るかしら、
夕飯はそれで済ませるから」
セリアはサラを見送り、彼女へと声を掛けた。
「じゃあ、軽く説明するわね、お客様がいらっしゃったら私と2人で奥の部屋
へ入るわ、出て来るまで大凡30分から45分、その間来店者が在ればその旨
伝えて対応して欲しいのよ」
「判りました」
「所で貴女、御名前は?」
「オルガ・クルストンと申します」
「そう、私はセリア・トラーシュよ、宜しくねオルガ」
「此方こそ、宜しく御願い致します」
そしてこの日は、来客は有るものの、説明に終始し終わるのであった。