残務処理
テレス支店資材倉庫、倉庫の片隅には今日初めて使われるデスクセットと魔道
スタンドが置かれ、その灯りを頼りにコツコツと魔法陣を組むセリアの姿が有
った。
既に完成している試作品を前に量産化を視野に入れて魔法陣を創っている。
「ヤッパリ形は向こうの世界と同じで良いかしら、魔力を使えない人も居るし、
魔力電池の交換式の方が良いわよね、良し!これで統一しましょう」
セリアは動きを暫く観察した後、変更を加える事にした。
「ヤッパリこれでは微妙よね~、あっ!そうか!2段切り替えにしましょう、
強弱が有れば使い分けられるものね・・・・いや、相手が相手だから最強を入
れて3段階にして置きましょう」
極小さいその商品は製作を始めた当日の夕方には量産体制を取れる迄に成り、
取り敢えず50個程を製作し収納した所でセリアの1日は終わったのである。
「でも、これを試してみてとは言い憎いわね・・・・大丈夫か、あの4人なら」
そして夕食時に、アンジェとニナを呼び付け、手渡してからヒソヒソと使い方
を伝授したのであった。
明くる日、セリアはテレス支店隣に完成して、オープンを待つばかりの銭湯テ
レス店の温泉掘削に取り掛かった。
魔力も上がっていたセリアは昼過ぎには温泉掘削を終わらせ、就業訓練の終わ
っている従業員を前に檄を飛ばしていた。
「商会員の皆には長らく待たせて済まなかった、明日より銭湯テレス店がやっ
とオープンする運びに成った、それに伴いオープンから7日間は無料招待客の
みとするに当たって招待券の配布を御願いしたい、お得意様、もしくは重要人
物のみの配布とし、商会員については後日家族人数分か、1人4枚の無料券を
配布する事とする、各自指示を受けていると思うが配布漏れの無い様、注意し
て貰いたい、では、各自準備が出来次第配布を開始してくれ、以上だ!」
その後の業務を銭湯テレス店店長に任せ、従業員宿舎の宿舎管理人室へと移動
し管理人へと声を掛けた。
「アリーナ、今日から宿舎のお風呂にお湯が通ったから、湯舟には水では無く、
お湯を張る様にして、蛇口からお湯が出る事を告知して置いてくれないか?」
「了解しました、セリア様」
この管理人はフランカの母である、この寮は男子禁制だが、管理人室の扉は別
個に付いている為、夫婦2人と下の子供2人はこの部屋へ、上の2人は一般室
へと既に転居済みだ。
「さて、これで本日の手抜かりは無し、呑気な2人に会いに行きますか」
テレスから東南東へ向かう事40ルーク、クレア山の麓、南端近くにその2人
は居た。
「は~い、お2人さん呑気にキャンプファイヤーかしら?」
「よ~セリア随分とごゆっくりな登場だな」
「そりゃそうよ、貴女達が簡単に捕まるなんてとても思えないもの」
「何だ、お見通しかよ」
「予想はしていたんでしょ?」
「と、言うより確定事項だな」
「ついでに貴女達のお父様にセリア商会で重役待遇で雇い入れた事は通達して
おいたわ」
「手間を掛けさせて済まんな」
「ウチの従業員に手を出すなら全店引き上げると通知したから大丈夫でしょ?」
「おい、おい遣り過ぎじゃないのか?」
「比べるべくも無いけど私は営業利益より、貴女達の方が大事よ?」
「泣かせてくれるね~あたしらも家とお前を測りに掛けたらお前を取るけどな」
「エルミーのパパはアリエスのお父様より簡単に落ちたわよ」
「え?どうやったの?」
「1番高い時計を欲しく有りませんか?と持ち掛けたのよ」
「それで、結果は?」
「一切何も言わないし、強制もしない、好きにしろ、と書面にサイン入りで貰
って来たわよ?」
「流石セリア、エグい事するわね」
「あたしんとこの親父はどうしたんだ?」
「1ランク落ちる時計と、ライカの後ろ盾の件で圧力を掛けたわ、4国同盟と
喧嘩をしますか?とね」
「それは流石の情報局局長も折れるわ」
「でも、時計を貰った時の顔は満更でも無かったみたいよ?私は会って無いか
らハッキリとは言えないけど」
「あのタヌキ親父、最初から時計目当てだな」
「あぁ~それで最初に後ろ盾の件で圧力を掛けた時、渋りまくった訳ね、それ
からエージェントが帰る時に”くれてやるからもう返すな”と言われたそうよ、
だから有り難く戴いておいたわよ」
「そうか!これであたしは晴れてアリエス・トラーシュ、セリアの妻ですと名
乗れるのか?」
「そんな訳無いでしょ、同性婚は認められて無いわよ、まぁ婚姻届なんてどう
でも良いんだけど妻の肩書きは使えないわね」
「そりゃ残念だな」
「そんな事思ってもいないくせに」
「お前があんまり構ってくれないからいじけてるだけさ、少しは可愛がってく
れよ」
「2人共充分可愛いと思ってるけど?」
「ヤッパリちゃんと相手をして貰わないとな」
「今ね、そっち方面で凄い眷族が出来そうなの、貴女でもノックダウンしそう
な子よ」
「ほう、それは腕が鳴るね~是非お手合わせ願いたいね」
「そうね、あの子も喜ぶと思うわ、眷族に成った暁には相手をしてあげてね」
その後ノーマルでは太刀打ち出来ない事を思い知るアリエスであった。