途中経過
話し合いが終わった事を受けて、寝室でセリアと3人は対峙していた。
「それで、貴女達はどうしたいのかしら?」
3人共黙っているがフランカが2人を見遣って口を開いた。
「じゃああたしが言うね~、結論から言うと眷族にして欲しいです、但し今で
は無いですイレーネの理由は内心が変わらない内に彼氏と別れて置きたいと言
う事、あたしとクロエの理由はその手の経験が一切無いので、本番に臨む前に
手解きして欲しいと言う事です」
「成る程、知っているのと、知らないでは心の余裕が違うものね、判ったわ、
貴女達に師匠を付けてあげるわ、ちょっと待っててね」
居間に戻ったセリアは、速攻で師匠に2人を指名した。
「ニナ、アンジェ貴女達2人をフランカとクロエのベッドの上での師匠に任命
するわ、ちょっと隣の部屋に来て頂戴」
寝室に3人が移動しセリアがフランカに向かって指示を出した。
「フランカ、貴女はアンジェにベッドマナーを教えて貰いなさい、期間はアン
ジェが良いと言うまでよ、クロエはニナに、貴女もニナが良いと言うまでよ、
イレーネは自分の身辺整理をキッチリして置きなさい、ニナ、アンジェ、この
2人をキッチリ仕込むのに何日位掛かるかしら?」
顔を見合わせた2人は、コソコソと耳打ちをしながら相談した後ニナが答えた。
「体に刻み込むには、丸々3日ですね」
「判ったわ、貴女達はそれに専念して、イレーネも3日で片を付けなさい、私
は2人の助けになる魔道具を創っておくわね」
そしてこの日の夜から、宿屋の2部屋を借りて遮音魔法に覆われたベッドでの
特訓が開始された。
セリア商会テレス支店隣の社員食堂、席の3割程で交代で昼食を摂る商会員が
寛いでいた。
「ん~美味いわ~!ここの料理に給金全部つぎ込んでも良い位だわ!」
「あんた、食べる度に同じ事言ってるわね」
「美味しい物は美味しいと思わなきゃ旨さも半減よ?」
「そりゃ見てれば判るわよ、3食ここで食べてる貴女ですもの」
「普段の調理の時間をノンビリ出来るんだ、これ程理に適った生活パターンは
無いと思うのだけど?」
「あんた、結婚したら苦労するわよ?」
「チッチッチッ!そん時は社内婚で夫婦揃ってここで食事だな」
「でもこの商会男が居ないじゃない」
「それが居るんだな、系列会社に」
「あッ!セリア建設ね!」
「正解~」
「でもダークエルフは少ないわよ」
「少なくても真面目にガテン系の仕事をしてるんだから、高慢男は居ないわよ」
「成る程ね、考える価値は有るかもね、所でさ、聞いた?」
「何が?」
「今セリア商会の会長さんが来てるんだって」
「えっマジで?何で判ったの?」
「スッゴい美人でメイド服を着ていたそうよ」
「其れだけじゃ会長さんと判らないんじゃない」
「どうして?」
「護衛の武闘派集団全員がメイド服を着ているからよ」
「貴女詳しいわね?」
「当たり前よ、私がこの商会に入ったのはその武闘派集団に憧れて入ったのだ
もの、あんた、ウチのお父さんが商売やってるの知ってるわよね?」
「ええ、卸売業だっけ?」
「そう、それであちこちで聞いた吟遊詩人の歌とか噂話を聴かせてくれるのよ、
この間帰って来た時なんかもう、セリア商会のメイド服集団の武勇伝一色だっ
たわ、その中に私が憧れた人が居るの」
「あんた、まさかそれで入ったばかりの政務院辞めてここへ来た訳?」
「そうよ、いつかは必ずお目に掛かりたいと思って転職したのよ!」
鼻息荒く、ガッツポーズをするのはダークエルフ、テレス校今期中等院首席卒
業のオルガである。
「あんた、最後の最後で親の期待を裏切ったと言う訳ね」
「何言ってるのよ、給金貰って1月経って判ったけど、ここの方が色々引かれ
ても最後に残るお金は政務院に居た時より全然多いのよ?」
「え?マジで?あたしここが就職一発目でさ、他を知らないんだよね」
「多分来期の就職希望先ナンバー1はセリア商会よ、競争率が恐ろしい数字に
成るわね、多分高等部も絡んで来るし、今年は中等部だけよね?入ったのって
何人?」
「ここのオープンが遅かったから、就職あぶれ組があんたを入れて5人だね」
「そうするとあたし達が中等院一期生な訳ね、来年の新卒が楽しみだわ!」
「気が早過ぎだよ、あんた入ってまだ2月じゃない」
そんな話をしている所に、ゾロゾロと入って来たのはオルガ羨望の武闘派の面
々である。
それに気付いて固まるオルガの目に飛び込んで来たのは、噂に聞いた羨望の王
子様の姿であった。
「居たわ、あれよ、間違い無いわ!」
「何が居たのよ?」
振り返るスザンナが目にしたのは、悠々と自分達の脇を通り過ぎるメイド服の
集団だった。
それを見てスザンナがポロッと零した。
「美人しか居ねぇ~し、何っ~集団だ」
席に着いたアンジェが周りを見渡し、ニナに話掛けた。
「流石テレス支店ね、社食の造りも帝国とはひと味違うみたい」
「えぇ、そうね、何でも領主が肝を入れたらしくて他の支店より一層豪華らし
いわよ」
「豪華な建屋に1流の食事、その辺だったら金貨が飛びそうね」
「私は食事だけでも行くと思うわよ、盛り付けに気を使って無いだけだから」
「社食のメニューは全部セリアが考えたの?」
「あぁ~商会員は自分の子供同然よ、とか言ってたわね」
「流石、あたしの愛するセリアね」
「あげないわよ」
「おや?随分強気な発言ね?」
「貴女こそ」
そこでチラチラと後ろを振り向くオルガにアンジェが気付いた。
「ニナ、後ろの彼女が貴女に用が有るみたいよ?」
「ん?」
振り返るニナに、慌てふためくオルガ。
「何か用?」
動揺しまくるオルガだったが、千載一遇のチャンスを逃すオルガでは無かった。
「あの、セリア会長、護衛のニナ様で間違い無いでしょうか?」
「そうだけど、様は止めて頂戴ね、多分貴女と私は同い年位だから」
「え?今お幾つですか?」
「15歳よ」
ニナと自分の胸を見比べ愕然とするも、そこでへこたれないのがオルガであっ
た。
「実はニナ様達の武勇伝を色々と聞き及んでいまして、いつかお会いしたいと
思っておりました、出来れば握手などして頂ければこれ以上の幸せは有りませ
ん」
「えぇ、構わないわよ、じゃあこれはサービスね」
ニナはオルガと握手をすると共に、彼女の頬に軽くキスをした。
「あり、あり、有難う・・ごごございまひたぁ~」
一瞬で目の前花畑なオルガであった。
クロエの指導の余韻で感覚がずれているニナで無ければ有り得ない出来事であ
る。
この一件が、オルガが後に大物と成っていく切っ掛けと成ったのであった。