予兆
この日の昼食は旅程も短いと言う事で生の野菜と肉を塩湯で煮込んだスープ
とナン風パン、雲一つ無い青空で気温も高く近くに日陰も無い為馬車の中で
頂いた。
30分も休まずに撤収し始め、護衛のテオより夕刻の到着予定地までの話を
聞かされるが変わり映えが在って良いだろう位に聞いていた。
実際人は馬車に乗っているので何の痛痒も無いが馬にとっては難儀な場所だ
った。
一言でアルン峠と言っても登り下りのつづら折りが三山続けて在るらしい、
道理で次の予定地まで5ルークしか無い訳だ、結局峠も森だったので景観出
来たのは頂上付近だけだった、次の山頂が待ち遠しい。
そして二つ目の登りの中腹辺りで問題が起きた。
少し立ち上がり前方を見ると何かが居る。
数は6,それを見てユリアへ顔を向けようとした瞬間ユリアが小詠唱で魔法
を発動し叫んだ。
『前方に6!、右側面に10!、左側面に10!、後方に8!種別!ワーウ
ルフ!母様!!障壁を!!』
総てを言い切る前に母様は後方に両手を差し出し詠唱発動を終えると腕を左
右に広げて叫んだ。
【展開完了!!前方に 注力なさい!!時間を稼いで!!】
【ユリア!!障壁の維持を!!セリアは前方からの侵入を防いで!!わたし
は結界を構築します!!】
そう、母様の魔力量では四面体を張ってしまうと強度も時間保たない、結界
を張る魔力も足りなくなるし時間も掛かる、維持だけなら姉様にも出来る!
セリアは瞬間的に思考しレイピアを抜き放ちながら右前方に走る。
前方のワーウルフは動き出す前に護衛の弓により三匹が行動不能、二の矢を
三人共に既に放って
いる。
左を走る後続の馬車の護衛が障壁端から左側面に矢を向けたのを見てセリア
は障壁を回り込んで右側面へ出る、迫り来るワーウルフは横四列。
時間差で三角点から飛び掛かる先頭のワーウルフの腹を走りながら屈む形で
撫で斬りにし少し速い左側の二匹目の後ろ足を、一頭目を斬り込んだ勢いを
乗せて躰を左に捻り回転させる様にして切り飛ばす、更にその勢いで回転し
三匹目の右脇腹を切り裂いた。
レイピアを前方に伸ばしきる勢いを利用し後続の頭を飛び越えて一回転して
立ち上がり前のめりになりながらも迫る二匹の間を躰を右に捻る事で鼻先を
掠める顎門を辛うじて躱し追い縋る六匹を引き離すべく隊列後方に向け走り
出す。
『ダメ!!セリア!!戻って!!!』
それに気付いたユリアが悲痛な叫びを上げる。
(姉様ぁ、それ無理ですよ)
走りながらも隊列の左側面を確認すれば残り一匹、後方から迫り左側面へ回
り込もうとしていた四匹は腰が引けたのか勢いが無い、護衛が後一、二匹は
対処してくれるだろうが。
(前門に七匹、後門に六匹かこれは厳しいかも、そう言えば魔法はイメージ
とかいってたな?ダメ元でやってみるか、駄目でももう一回死ぬだけだし)
そう思い強く現象をイメージしながら地面に手を着いた瞬間、膨大な砂埃が
爆発的に舞い上がり視界を遮った。
護衛達はあまりの視界の悪さに攻撃も出来ず、周りを見渡すも動く気配も無
い、警戒しながらも微かに晴れた先に見えたのは森の樹木より高く聳え立
つ土の剣山群に貫かれたワーウルフ達と、倒れ伏したセリアの姿だった。
本格的に魔法登場です。ボーガンは出てきませんでした、完全に馬車に置き忘れています。