適齢期の話題
小川に向かいしゃがみ込んで水を飲む女の後ろ姿にセリアが声を掛けた。
「貴女、こんな所で何やってるの?」
その声に驚き、振り向いた女はその顔を見て驚愕した。
「セリアさん!何故こんな所に!」
「それは私の台詞でしょ?」
「あっ、そ~ですね~ここは1人で居て良い所では無いですよね~」
「そうね、それで?」
「あ~~~話さないと駄目ですか?」
「でしょうね」
「ですよね~・・・・・」
シラを切りたいその人物はだんまりを決め込んだ。
仕方が無いのでセリアが切り込む。
「で?藩主の娘がここで何してる訳?」
「あ~~~バレてましたか~」
「それで?何から逃げた訳?」
「そ、そこまでお見通しですか・・・」
「普通に判るでしょ?状況から考えれば」
「もしかして結婚から逃げた?」
「・・・・・・・お見逸れしました、その通りです」
クロエはセリアに向かって土下座をするのであった。
予想通りの話の展開に溜息しか出ないセリアはクロエへと提案をした。
「放っておく訳にもいかないから連れて行こうと思うのだけど、これから行く
所は他言無用が条件よ、こんな所を彷徨いて居れば、魔物に食い殺されるわ、
貴女がそれでも良いなら別に構わないけど」
「行きます、乙女のままでは死んでも死にきれません」
「死ぬ気が有るなら、その結婚相手に捧げても良いんじゃない?」
「本当に死んだ方がマシです!」
「どんだけ嫌ってるのよ」
「私の嫌いな男ベスト10が全て入った男です」
「お~~凄いわね、流石にそれでは私も嫌だわ」
その時、メンバー全員が近付く気配に反応しセリアに指示を仰ぐ。
セリアはハンドサインで指示を出しながらもクロエを抱き抱えて茂みへと身を
隠した。
セリア達が目にした気配の主達は街道で見た制服と同じ物を着ていた。
「あれは、守備隊だね、貴女を捜しに来たみたいね」
「ですね~でも見つかる訳にはいかないんです」
「帰る気は無い訳?」
「今見つかれば、今日の晩には私は人妻に成らなければなりなせん」
「・・・・今日が結婚式だった訳ね」
「その通りです、昨日の夜中しか抜け出すチャンスが無かったんです」
「良く城門を抜けられたわね」
「朝、農作業へ向かう荷馬車に忍び込みました、農耕者はノーチェックですから」
「で、そこから先の策は無かった訳ね」
「流石セリアさん、お見通しですね」
「親類、縁者には頼れないの?」
「全員結婚式場に居ます、此の侭勘当してくれると有り難いんですけどね」
「で?如何するの?」
「アリエスに貸しが有るので頼ろうとは思ってましたが」
「今テレスの自宅に居るわよ」
「何時の話ですか?」
「昨日の晩からね」
「それだとテレスには居ないかもですね」
「え?どうして?・・!あ~結婚式に行ってるかもね、エルミーと一緒に」
「エルミーは何処に」
「アリエスの家よ」
「家とは、妹さんの所ですか?」
「そうよ?」
「アイツ、実家に帰らなかったんですね」
「行きたく無さそうな感じだったわね」
クロエは思案顔ながらも推測を口にした。
「それだと、結婚式には来て無いかもですね、検閲は誰が受けたんですか?」
「アリエスとエルミーよ」
「・・・だとすると私と同じ境遇に成ってるかもしれないですね」
「それは、逃げてる・・と言う事?」
「2人共、情報局を辞めた事で縁談話が持ち上がってましたから、門番に知れ
れば戻った事は実家に伝わるので、連れ戻しに行くでしょう、情報局に入った
理由が結婚を避ける為だったので、逃げてる可能性が大きいですね」
「3人共結婚する気は無い訳ね」
「そんな事は無いですよ、良い相手が居れば直ぐにでもお嫁に行きます、でも
お国柄と言うか教育のせいなのか、この国の男は自己中で鼻が高い男が多いん
です」
「それは積極的に探さない貴女達も悪いんじゃない?」
その言葉に鼻白んだクロエが言い放った。
「甘いですねセリアさん、この国では幼年校の内から唾を付けないと、良い男
は売約済みなんです、高学年でドタキャンなど出た日には熾烈な争奪戦が繰り
広げられるんです、仕事をしていれば結婚相手とは見なされない風潮が有る国
ですから、この国の女性の就業率は非常に高いんですよ」
それを聞いて納得顔に成ったセリアが従業員募集の時の話を切り出した。
「それでテレスで募集した時、9割以上が女性だった訳ね」
「その1割に、雇った男は居たんですか?」
身を乗り出してその話に興味を示すクロエにセリアが止めを刺した。
「残念ながら居なかったわね、貴女の言う通り雇って当たり前、みたいな人し
か居なかったらしいわ、”面接に呼び出しておいて雇わないとは何事だ!”みた
いな人ばかりだったみたいよ」
期待値をザックリ削られ、クロエが萎れたタイミングでセリアの視界にエレン
が映り込んで手を振った。
遮音魔法を掛けていたセリアは、慌てて解除する。
「セリア様、捜索隊はとっくの昔に居なくなってますよ?」
そんな事はとっくの昔に記憶の彼方に忘却していたセリアである。