ブレーズ
テレスを出立したのはAM8時半、第2の都市ブレーズまでの街道は多少の起
伏は有るものの道幅も広く快適な旅路と成っていた。
「それにしても直線道路で単調ですね」
そんな愚痴を零しているのは、初の長時間運転をしているユリである。
「その分注意力が散漫に成るから気を抜かない様にね、何処から何が飛び出し
て来るか判らないから」
「了解です」
「何て言ってると出るのよね、盗賊の割には身成が良いわね、手も振ってる事
だし止めてみましょうか」
待ち受ける手勢は女を含む10人、2人は抜剣していてこちらを伺っているが
呼び止めた者は納刀している、ゆっくりと近付き助手席の窓を開けてセリアが
対応した。
「呼び止めてすまない、この街道を来る途中馬車などの人が乗れそうな物とす
れ違う事は無かっただろうか?」
「その様な物は1台も有りませんでしたが、何か有ったのですか?」
「あぁ、申し遅れてすまない、我々はブレーズ藩守備隊の者だ、藩主の娘が攫
われ捜索している、何か心当たりは無いだろうか?」
「私達はテレスから来ましたが、それらしい乗り物は見ませんでしたね、攫わ
れたのはいつ頃ですか?」
「1刻程前だ」
「でしたらこの街道の可能性は無いと思いますよ」
「それは何故だ?」
「1刻の間に第3、第4都市線まで移動するのは無理でしょう、その間私達が
この街道を走って来た訳ですから、すれ違っていない以上この街道には居ない
と言う事です、街道脇に隠れれば車輪跡が残るでしょうが、馬車を隠せる場所
も人の気配も無かったですから、他を当たった方が良いと思いますよ」
「貴殿は随分高位の者の様だが、そんな事まで判るのか?」
「えぇ、判りますよ、攫われた者が未だ健在で有る事を祈っております」
「有り難う、止め立てしてすまなかった、一応仕事なので鑑札の確認だけさせ
ては貰えないだろうか?」
「えぇ、構いませんよ」
柔やかに鑑札を手渡すセリアに照れながらも受け取った男が鑑札を読んで目を
見開いた。
「セリア商会の会長様ですか!?」
「そうですけど?」
「それは失礼致しました、どうぞお気を付けて行ってください」
「有り難う、頑張ってくださいね」
走り去る車に深々と頭を下げて見送る男にセリアが呟いた。
「腰が低くて礼儀正しい男だったわね」
「珍しいですね、セリア様が男を誉めるなんて」
「貴女、私に偏見持ってない?基本男は嫌いだけど誉めるべき相手はちゃんと
誉めるのよ?」
「そうなんですか?認識を改めて置きますね」
運転しながらニヤつくユリを見て臍を曲げるセリアであった。
予定より少し遅れて到着したセリア達は城門での検閲の列に並んでいる。
「如何しますか、セリア様、ここまで混んでるのはあの誘拐事件のせいですよ、
出て行く人も検閲されてますからね」
「そうね、入城を諦めて外周を行きましょうか、城内に用事が有る訳でも無い
もの、リーザ、ここから運転を変わってくれるかしら?後は貴女の記憶が頼り
よ、ここだと思う所から森に入りましょう」
「了解です」
リザード領境界近くまで移動したセリア達は装備を整え、車を収納するとリー
ザを先頭にダークエルフで言う所の北の森北東方向へと分け入っていく。
暫く進んで小川に行き当たった時、思いも寄らない人物に出くわしたのであっ
た。