フレイヤの本音
落ち着きを取り戻した3人に咳を1つ交えたフレイヤが本題に引き戻した。
「それでは本題に戻りますね、メアリーに聞きたかったのはあの男の本質なの、
一体どんな男なのか」
それを聞いてメアリーがセリアを見据えて指差しながら問い掛けた。
「そこに居る男の事もですか?」
フレイヤはセリアを見詰めたまま何も言わない、セリアは自分の返事次第だと
言う事を悟り自問自答している、その静寂を斬って捨てたのは問い掛けた本人、
メアリーだった。
「そんなの聞かなくても判ってますよね?セリアさん?」
「え?え、ええ、判っているわ、彼が考えている事は・・・」
動揺を見せるセリアを見透かす様にメアリーが続けた。
「そうですよね、女心としては聞きたいですよね、でも本質が判るからこそ聞
かない方が良いと思うんです、あたしは相手の心の内に疑問を持った時点で終
わってると思います、ましてや本人より第三者の言葉を信じる何てね」
ハッとするセリアを見てメアリーが続ける。
「でも、そんなセリアさんが私はとっても羨ましいです、心の内を聞かなくと
もこの一言だけで充分ですよね?」
「えぇ、そうね・・有り難う・・」
口の周りを両手で覆い、頷きながら涙を滲ませるセリアを横目にメアリーがフ
レイヤに話掛けた。
「フレイヤ様も程々にしてくださいね」
「あら?心外だわ、私、悪い事何てしてないわよ?」
「それは判りますがフレイヤ様はその道のスペシャリストなんですから素人に
はもう少し優しくしてやっても良いんじゃないですか?知り合いなんですし?」
「何よ!私焼き餅なんか焼いてないわよ!あっ!」
瞬時にセリアを見遣ったフレイヤは未だに涙ぐみ話を聞いて居なさそうなセリ
アに安堵した。
「あっ!あ~そう言う事ですか~フレイヤ様もとうとう年貢の納め時なんです
ね~判りました~フレイヤ様が心を混ぜた理由を今理解しました~あたしはも
う何も言いませんね~何と無く場が白けたんで本題に入りましょうかね~」
さっさと話題を切り替えたいフレイヤはセリアをチラチラ見ながらメアリーを
責っ付いている。
「ハッキリ言ってここからはシリアスです、男の雫は何処までも”白い”んです
羨ましい位に、そして何故か、そこの彼はその男を護っています、持てる力の
全てを使って、理由は判りませんが」
意外感に襲われる2人を尻目にメアリーが続ける。
「先程フレイヤ様に抱き付いた時に少し心を読ませて頂いたのですが、そもそ
も彼はフレイヤ様に誘導されていたにも拘わらず、何故真っ直ぐこの世界へ来
なかったのか・・」
「それが判れば苦労してないわよ、元々フルスペックでこの世界に現界させる
予定だったのよ、いざ蓋を開けて見ればこの状態よ、”始まりの事故”からして
大番狂わせだったんですもの、私の心は揺れっぱなしだったわ」
その言葉を聞いたメアリーは何かに思い至ったのか、疑問を口にした。
「彼はこの世界に呼ばれた理由を知らなかったんですよね?」
「ええ、そうよ、今でもハッキリとは理解していないんじゃないかしら」
「幽体と成った時に感じる事が出来るのはフレイヤ様の心だけですか?」
「そうでは無いけれど、私が彼を認識して誘導していたのだから、あの状態で
は私との繋がりが1番強かったわね」
「彼があの時、あの場所に存在している事を理解して尚且つ干渉しようとする
存在が有る可能性は如何ほどだと思いますか?」
「・・・・・・・・・・」
フレイヤはその可能性が限り無くゼロに近い事に思い至った。
「その反応な所を見ると無い訳ですね?可能性が?」
「無くは無いけど・・・殆どゼロね」
「見えて来ましたね、真実が。 彼はフレイヤ様の誘導の思念に混ざった動揺
した心に反応し、そしてその思いを優先した・・フレイヤ様はその時何を考え
たのですか?」
セリアをチラリと見てから答えるフレイヤ。
「そんな前の事なんか忘れたわ・・・」
「そんな訳有りませんよね?」
「・・・・・・・・・・」
訝しみながら追求しようとするメアリーに近寄り長い時間フレイヤが耳打ちし
た。
語られた内容にメアリーは1つの仮説を思い付いた。
「と成ると彼が心を2つに割って男をこの地へ呼んで、その躰をを創った事も、
全て彼の意思で行われた可能性が出て来ます、これはちょっと厄介ですね」
「そんなに複雑な話とは思えないのだけど?」
ハテナマークを浮かべたフレイヤにメアリーが納得顔で溜息を吐きつつ言い放
った。
「そうでしょうね、フレイヤ様の目的は最終的には1つ、終わり良ければ全て
良しのフレイヤ様ですから」
「それちょっと酷くない?」
「違うんですか?」
「いや・・そうなんだけど・・」
「あたしが問題にしているのは行程です、フレイヤ様の幾つもの思いの、どれ
をどこまで理解して彼が行動を起こしたかで、結果がまるで違ってくると言う
事です、打った手が無駄に成るなら良いですが足りなければ敗北に繋がりかね
ません」
そこでセリアが口を挟んだ。
「彼がやったと仮定して、それを証明するにはどうするかよね?」
思案するメアリーがボソッと呟いた。
「人を創ったら、誰が雫を入れるんですか?」
素っ頓狂な顔でフレイヤが答えた。
「それは創った本人に決まってるじゃない」
「ではその躰に入っていた雫は誰のだったのですか?」
「えっ?それはあの男の・・・」
フレイヤが動揺した。
「確認してないのですか?」
「して無いわ、急だったから、ちょっと待ってね・・・」
待つ事数瞬、フレイヤが焦り出した。
「どうしたんですか?」
訝しんだメアリーが声を掛けた。
「御免なさい、綺麗に混ざってしまってもう痕跡も無いわ」
驚くメアリーがフレイヤに問い掛けた。
「見知らぬ男が混ざるのを気付かない程心を許したと言う事ですか!?」
「そんな事は無いわよ!いくら何でもそこまでアバズレでは!・・・・・」
「あ~~確定しましたね、創ったのは彼ですね」
段々と鋭くなるセリアの視線に、冷や汗が出始めるフレイヤだった。
「フレイヤ様、始めて聞く話が随分有った様ですが、後で聞かせて貰えるので
すよね?」
セリアに睨まれ、語る事無くコクコクと頷くしか無いフレイヤであった。