人命救助
現在AM11時過ぎ、開拓村手前1リックの位置に待機している、人質救出班
は既に5分前に出発していた。
作戦前の最終確認でセリアが声を上げた。
「私達に取って敵と呼べる者は居ないかも知れません、救出しなければ成らな
いのは人質だけでは有りません、村民に敵が居ないとも限りません、敵とそう
で無い者をしっかり見極めて、敵で無い者に及ぶ被害を最小限に留める様、心
掛けてください」
全員の了解の返事を受けて前進の合図を出すセリア。
集落の配置は馬車道を挟んで両側に拡がっている、村長宅は突き当たりの左側
、集落入口にバリケードと言う配置。
中天に近い時間と言えど馬車道に日の光はまだ当たっていない、切り開かれた
森の木陰と言えども真っ直ぐな馬車道ならばそろそろ敵からも視認出来る距離
、極力敵戦力をバリケード周りに集める為、セリア達はゆっくりと集落入口へ
と向かって行く。
セリア達が止まったのはバリケードから10リック程離れた場所、車とメンバ
ー全員を包む様に結界を張ったセリアは、結界を一歩出た所で魔法陣の構築を
始める。
バリケード前に集まったのは、80人余り、見える範囲で集まって居ないのは
8人、村長宅には最高で10人近くは居る計算になる。
村長宅の屋根では、準備が終わった事を知らせる為にサラが手を振っている。
「では、行きますか」
セリアは、両手の平の上に浮かんでいた、白く半透明の燦めくボールの様な物
を、右手だけに持ち替え投げた、ボールはフワフワと敵陣の中心へと堕ちてい
く、それを見届け結界の中へと後退った。
数瞬の間を置いて、爆発的に膨れ上がる空気の壁に、まるで花びらが開く様に
敵陣に集った兵士が倒れていく。
結界に激しくぶつかるバリケードの残骸を遣り過ごしてセリアが叫んだ。
「今よ!」
その号令に一斉に飛び出すメンバー全員が、態勢を崩した敵の剣のみを弾き飛
ばしていく、制圧まで1分、その時セリアが大声で叫んだ。
「投降する者は武器を棄てればこれ以上は攻撃はしない!抵抗若しくは逃走す
ればその場で切り棄てる!」
制圧開始から終了まで僅か2分で事態は終息したのであった。
「このグループのリーダーは誰だ!」
セリアの呼び掛けに1人の男が手を上げた。
「名前は?」
「ベレスだ」
「攻撃や逃亡をしないと約束するならば仲間の救護を許可するが、どうする?」
「判った、約束しよう、その辺に有る剣は回収して置いてくれ、変な気を起こ
す奴が居ないとも限らんからな」
「判った、では負傷していると思われる者が居たら手を挙げてくれ、その場で
治してやる」
「は?結構な重傷者も居ると思うが」
「気にするな、早くしないと死ぬぞ?」
セリアはメンバー全員に指示を出した。
「治癒を出来る者は軽傷者の治癒を、その他の者は武器の回収を、私は重傷者
を診る」
治療開始から20分後、村長宅の前にはライカ人全員が集まっていた。
邸内の応接間には、6人が紅茶を前に向き合っていた。
片側には、セリア、ニナ、アンジェ、もう片側にはベレス、ブラド、村長であ
る。
話を切り出したのはセリア。
「では、聞きたい事を聞かせて貰う、ライカは何をしようとしてる?」
代表でベレスが応えた。
「エルフとの戦争だ」
「まさか!自殺行為ではないか!」
「そのまさかだ、ライカは永きに渡る内戦で疲弊しきっている、もう既に食料
自給が難しいのだ、それで経済国で自軍を持たない共和国に目を付けて属国化
を企んだ、所が送り込んだ軍隊が返り討ちに遭って全滅、計画は頓挫で指示基
盤が揺らいだ、そこでタイミング良く支援国のダークエルフの撤退だ、世論を
抑え切れなく成った現国王はエルフへの戦争を仕掛ける事で世論の目を誤魔化
したのさ」
「何故エルフなのだ?アルリアか帝国では無く」
「それは、共和国で戦った相手がアルリア人と帝国人だと言う報告が有ったか
らだ、端から勝てないと判っている相手に喧嘩を売る馬鹿は居ないだろう?
その報告をしたダークエルフの姉ちゃんも死にたく無いとか言ってサッサと辞
めて国に帰っちまったけどな」
「それってクロエの事?」
「!何だあんた知り合いか?」
「まぁ、そうなんだけど、あの子辞めちゃったのね、因みに薄々勘付いてると
思うけど貴方達の軍隊を殲滅したのは私達よ」
「やっぱりか!じゃね~かとは思ってたよ、変な荷車にメイド服、報告通りだ
から若しかしてとは思ってたんだが、それにしては遣ってる事が180度違う
じゃね~か、全員生かしておくなんてよ」
「それは、そこのブラドに感謝しなさい、貴方も人質を捕られてると言ったか
ら、自らの意思では無いと判断して殺さなかったのよ」
「それは、すまなかったな、ブラドよ」
「気にするな、戦争が悪いんだ」
「男同士でしみじみするのは後にしてね?それで貴方の人質は?」
「今はライカ、元はアウラと言う都市に居る、俺が捕られている人質は家族じ
ゃ無く、元ライカ国王妃エリシア・ライカ様だ、俺はエリシア様の幼馴染みで
元護衛隊長だ」