母の思いⅡ
母が落ち着いた事を認めてセリアが口を開いた。
「母様、良い紅茶が有るのだけど、頂きませんか?」
「えぇ、頂くわ、有り難う」
セリアは呼び鈴で給仕を呼ぶと、その茶葉の煎れ方を細かく指導し、今後も同
じ様に煎れられる迄に指導した。
「母様、どうぞ、お召し上がりください」
「有り難う、頂くわ・・・!?」
「如何ですか?私のお薦めの紅茶は?」
静かにカップを置く母が落ち着いた口調でセリアに応えた。
「こんなに紅茶が美味しいと思ったのは生まれて初めてかもしれないわ」
「喜んで貰えて嬉しいです、母様」
母がすっかりいつも通りに見える事から、セリアは姉の事を切り出す事にした。
「母様、私は姉様の居場所を知っているのです」
アリアは目を見開くもティーカップを持つと紅茶を一口飲んだだけで何も語ら
ない。
「姉様は元気にしております、ですが姉様の居場所を母様に教える事は出来な
いのです、母様に姉様の居場所を教えてしまうと、母様も姉様も命の危険に晒
される危険が有るからです、但し連絡を取る事は可能です」
そう言ってセリアは1台の”スマホ”をテーブルの上へと置いた。
「これはスマホと言って双方向で会話が出来る魔導装置です、この画面に出て
くる私か姉様の名前を触るだけで私達の持っている装置に繋がります、いつで
も、何処でも、どんな時でも身に付けている限り出られます、まぁ戦闘をして
いるとかお風呂に入っているとか、お花を摘みに行っている時は無理ですが、
それに姉様は多分暇していると思うので掛けてみましょうか?」
セリアはテーブルに置いたスマホのスイッチを入れると姉の名前をタッチして
耳に当てた。
「・・・・・あっ、姉様、私です・・・・ええ、私はこれから行きます、・・
・・・ええ、大丈夫です、判ります・・・・ええ、母様と替わりますね」
スマホを受け取り静かに話出すアリア。
「ユリア?」
{なあに?母様?}
「貴女、元気にしているの?」
{ええ、元気にしているわよ?}
「じゃあ、珠に私のお話相手に成ってくれる?」
{勿論よ?何時でも掛けて来て、どうせ暇にしてるから、それと黙って出て行
って御免なさい、お別れを言っている時間が無かったかの、無事に問題が片づ
けばまた、そっちへ戻れるからそれまでは母様を1人にしてしまうけど許して
ね?}
「ええ、判ったわ、もう貴女達が元気で連絡が取れる様になったんですもの我
が儘なんて言えないわよ、こちらの事は任せて事が片づいたらちゃんと戻って
来るのよ?」
{ええ、必ず帰ると約束するわ、母様}
「それじゃあね」
その後、父様が帰るまで待たされ、断れる筈も無い夕食を摂った後、母様と一
緒に銭湯に浸かり、隣の自宅で無為な時間を過ごして母様を送り届けたのは日
付も変わろうかと言う頃合いだった、長期放置の自宅の掃除が出来るのは、ま
だ当分先の話になりそうだ。