それぞれの闘い
昨日の朝突然、セリア様から”お前新会社創るから社長やれ”といきなり言われ
た。
数瞬の思考停止の後、私は物創りがしたいから勘弁して欲しいと縋り付いたが、
物を創る会社だからと聞き入れては貰えなかった。
立案と行動予定表を3日以内に出せと言われ凡人には無理だと泣き付いたらリ
アを助っ人に付けられて只今絶賛制作中だ、開業予定は半年後、尋常ではない
180日の期間から出来る範囲を算出し予定と立案の素稿を作り煮詰めていく。
とは言え、素案はセリア様から提示されている、工房建設場所は城門近くの貧
民街、バラック生活者らを、共同生活でも屋根付き1戸建て住宅への移住を餌に
短期土地開発を目指す。
広さは一般住宅10棟分、リア曰く、最初は更地でも構わないと言われた。
考えてみれば魔法行使に建物は関係無い、最優先事項は従業員と宿泊施設の確
保、給金は一般の1,5倍で募集を冒険者ギルドを通して大陸全土に掛ける。
大半の時間を従業員教育に費やす腹積もりの様だ。
これでやっと私の仕事が見えてきた、戸建て住宅と宿泊施設の確保だ、頑張ら
ねば。
最近生意気な奴が入って来た、セリア様の休憩時間になると私より先に紅茶を
お出ししている奴が居る。
セリシアとか言うオーガの小娘だ(年上である)
最初の内は勝率は五分五分だった、この間は余りにも早く行き過ぎてセリア様
に注意されてしまった、これではいけないと思い私は勝負に出た。
あいつにジャンケンを教えて給仕を決める事にしたのだ。
そして私は歓喜した!勝てるのだ!勝率は6割、総て勝ってしまってはあいつ
も可哀想だ、この位が丁度良いだろう、そう思い余裕をかましていた時に
”偶には3人で頂きましょう”とセリア様に言われあいつに煎れて貰った紅茶を
飲んで私は打ちのめされた、同じ様に煎れているのに何故ここまで味が違うの
か、私は奴の総てを研究しつくし指1本の動きに至る迄コピーしたが勝てはし
なかった。
そして今、私は奴の目の前で土下座している。
「セリシアさん、どうか私にセリア様に美味しい紅茶を煎れる為の秘伝を伝授
しては頂けないでしょうか」
「ええ、構いませんよ、紅茶の煎れ方などは完璧に覚えた様ですから教えて差
し上げます」
「有り難う御座います、一体何が違うのでしょうか?」
「簡単な事です、水です」
「然し、この近隣の水は私も総て試しました」
「それでは私に勝てないのは当然です」
「では一体どこから?」
「帝都の北の森の湧き水です、とは言っても何処でも良いと言う訳では有りま
せん、この茶葉に合った湧き水は1箇所しか有りません、この茶葉には1つの
湧き水しか使っていませんが、茶葉によっては水を混合する事も有ります、例
え給仕と言えどお召し上がり頂く方に最上の物を味わって頂こうと言う私の給
仕としての矜持はそんなに浅いものでは有りませんので」
サラは目から鱗がガッパリ剥がれるのを感じ、セシリアに深々と頭をさげて呟
いた。
「お見逸れ致しました」
彼女が帝都に来て最初にやった事は山からの湧き水を探す事だったそうだ、流
石に危ないだろうと言ったら、”セリア様に最上の紅茶をお飲み頂きたい”と言
えば誰か必ず護衛に付いてくれたそうだ、言われて納得、私でも護衛するが紅
茶の煎れ方が今一な私には、文字通り半端な煎れ方で”お茶を濁されたく”なか
ったので場所がバレない様に護衛を頼まなかったとオチまで付けて言われて凹
んでしまった。