気の緩みが引き起こす事態
ライカ領、ネロ領邸謁見室
領主を名乗るバグベア族のディックはパスカル・リベリオ街道の監視兵の報
告を聞いていた。
「で?如何だったのだ?」
「誠に申し上げにくいのですが、両陣営共に全滅でございます」
「そうか、続けてくれ」
「はっ開戦は29日午後、本陣営は1人も欠ける事無く199名、敵7名、
内、戦闘参加は6名、戦闘開始から終了まで剣閃無く紅茶を1杯飲み終える
程の時間で全滅、戦闘後の状況はパスカル陣営、クルト陣営共に、先の帝国
街道戦とほぼ同等の惨状、特筆すべきは敵陣営は総て女でした」
「!!なんと!・・・判った、もう下がって良い」
「・・・・」
「聞いたか?クルス殿」
「ええ、確かに」
ディックの脇に控えるクルスは表情の無いままに返事を返した。
「ライカすら平定出来ていないのに共和国などに手を出すべきでは無かった
と言う事では無いか?」
「では、食糧需給はどうされるのですか?」
「クルス殿の所で何とか成らないのか?」
「それは難しいとお話した筈です、大規模な商隊でアルリアの地方都市群を
抜けるのは我が里よりライカに支援をしていると表明する様なもの、領境を
通るエルフの里にも警戒しろと言う様なものです、我々も2国に睨まれては
身動き出来なくなります」
「では、エルフの里を落とせば良いのではないか?」
「無理を承知で言っている様にしか聞こえません、自殺するお積もりですか
?」
「どの道此の侭では餓死者が出てくる、そうすればここの内戦は混迷を極め
る、統制が採れなくなればクルス殿も手が出せなくなるぞ?」
「・・・一応里へは打診してみますが、色良い返事は期待為さらない様御願
い致します」
吐き捨てる様に言い放ったクルスは高城を後にすると側付きの部下に言い放
った。
「里に帰る準備をしろ、ライカから撤収する、この地に滞在した痕跡を残す
な」
その頃セリアはトリスタから寄せられたホムンクルスの情報を元に最後の1
人の行方を追っていた。
「ティア、その後はどうなの?」
「親戚、交友関係共に手分けして当たっていますが今の所新しい情報は上が
っていません」
「そう、鍛練以外の時間は武闘派メンバーを捜索活動に充ててくれるかしら
?」
「了解しました」
「私これからカリアスを連れてパスカルのヤルノ・ステンマルク伯爵邸へ行
ってくるわ」
「お気を付けて」
ブラント出立は午前8時半、パスカル到着予定は15時前、何の障害も無い
この世界の道路事情に快調に飛ばしながら疑問に思っていた事を隣に座るカ
リアスに聞いた。
「所でカリアス、お前の創った人は何故ああも大きく性格が違うの?何か意
図しての事なのかしら?」
「あ~その事何ですが、私も最初不思議に思って創る時期を命の月(3月)
に統一したり時間を合わせたり、色々やったのですが最終的にはその時の創
造主の心情に大きく左右される様ですね、どんなに平静を装っても同じ性格
の子には育ちませんでした」
「お前どんだけ性格が不安定なのよ?」
「いや、いや、だから大きく左右されるって言ったじゃないですか、当時創
る時は3日前から精神統一をして挑んでいたんですから、性格を判断するに
しても2,3年は待たないと判断出来ませんからね」
「それもそうね、ある程度は育たないと判らないものね」
「でも貴方の育て方で性格も変わるんじゃない?」
「いや、いや、育てたのは私じゃ無くてニナとサラとユリですよ、私は食い
扶持を稼ぐのに仕事に出ていましたから」
「お前も苦労性だな」
「そんな事は無いですよ?今思いだしても結構楽しかったですし、実の所私
から進んで売り込んだのはニナだけなんです、あそこまで育ててしまえば、
もう娘なんですね、手放したく無かったですよ、本当に、だから今は嬉しい
です、皆が戻って来てくれて」
そんなほのぼのとした話をしながらクルトの城外路を周りクルト・パスカル
街道へと入った所でこの世界初の人身事故が発生した。