倒錯の世界に生きる人Ⅱ
「ちょっと待ってよ、どうしてそうなるのよ?」
バネッサは頭を床に擦り付けたまま口上を述べ始めた。
「貴女様の名が帝都で轟いてからずっと憧れておりました、商売から剣技ま
で在りとあらゆる場面で最強の名を欲しいままにし、貴女様の新たな噂を聞
かない日など1日たりとも有りませんでした。
日に日に増えていく伝説に、この人に仕えたい、この人に傅きたいと言う思
いが日を追う毎に募っていったのです。
それをこんなお店1つで叶えて頂けるなら私に取っては安い買い物です、
どうか、どうか貴女様の御側に仕えさせて頂ければ、私にとってこれ以上の
至福は御座いません」
セリアは溜息を吐くとボソッと言った。
「困ったわね、ウチの商会に奴隷なんて居ないのよね」
それを聞いてセリアを見上げたバネッサは今にも泣きそうな顔でセリアに縋
り付いた。
「そんな・・・商会員にしてくれなどと甘えた事は言いません、犬でも構い
ません、犬小屋住まいで、たまに頭をなでで頂ければそれで充分私は幸せです
のでどうか、御側に置いてください」
「でも貴女の商才は認めるけど商売に対する姿勢が気に入らないのよね、ま
ぁここまで財を築くにはそうでもしなければ無理でしょうけど」
「貴女様に捨てろと言われれば全て捨てますから、何卒私を!」
「でもそれが貴女の特性じゃない」
そこでカリアスが割って入った。
「そんな特性聞いた事が無いんですが?」
「あぁ、この子は人では無くグールよ、女性だからグノーメかしら?人とは
”魂の置き場所”が少し違うだけなんだけどね」
「では、眷族にしてしまえば良いのではないですか?」
カリアスが余計な事を言った。
「・・・・」
黙るセリアを見て食い付くバネッサ。
「カリアス殿!何か良い方法が有るのですか?!」
「貴女が成っても余り変わらないとは思いますがセリア様が絶対になります
から、特性も出なくなるんじゃないでしょうかね?」
正しくその通りなのだがペット枠を増やしたく無いだけのセリアである。
バレてしまっては仕方が無いと溜息を吐きつつバネッサに問い質した。
「私の傍に居たいのであれば其れなりに強くなって貰わねば成りません、修
練は過酷です、それを貴女が乗り越えられるのであれば、私の隣に立つ事も
不可能では無いでしょう、それでも良いのなら貴女を眷族にしてあげます」
「判りました、私は私自身の努力で必ずや貴女様の隣に立ってみせます」
「では、そこへ膝立ちに成りなさい」
バネッサの胸に手を当てると何時もの様に魔法を彼女の心の奥深くへと染み
込ませていく。
「さぁ終わったわよ、気分はどう?」
「あの・・・ちょっとがっかり感が伝わってくるんですけど?」
「え?・・そ、それは貴女が無事成長してくれるか、ちょっと心配している
からよ?」
「え?そうなんですか?判りました、セリア様を心配させてしまった私が悪
いのですね、そんな事が起きない様に誠心誠意頑張って、必ずやセリア様の
お心の負担を軽くしてみせます」
「えぇ期待しているわ、頑張って頂戴ね」
心なしか、笑顔が引き攣って見えるセリアだった。