睡眠不足の虫の居所
帝都到着は午前11時、2時間交代での強行軍、全員食欲より睡眠欲が打ち
勝ちセリアとリーザ以外は宿舎で爆睡中だ。
今セリアはカリアスとバネッサ商会へ向かっている、今回は時間もなく充分
な調査も出来なかった為、真っ向勝負に打って出る事にした、判っている事
は表向きは雑貨屋で裏では暴利を貪る高利貸し、利益が出るなら何でもやる
と言う事。
盗品の奪還なのでそれ以外の理由など何も要らないのだが、帝都で騒ぎを大
きくしたくは無いので情報はなるべく欲しかっただけの話だ。
宿舎とバネッサ商会では結構な距離が有るが、今日は徒歩での移動、眠気覚
ましには丁度良い、今頃リーザは鼻歌混じりで洗車だろう。
そんな事を考えながら、普段は目にも留めない景色を見ながら歩いていると
突然立ち止まったカリアスにぶつかりそうになる。
「おっと、どうした?」
「ここです」
カリアスの指差す方を見てみれば、その店はデカかった。
「おぉ、デカい店だな・・・では行こうか」
雑貨屋に似合わぬ重厚な扉を開け、中に入れば通路も広く整然と商品が列べ
られている、あちらの世界のホームセンターの様なイメージ。
この世界では中々お目に掛かれないレイアウトに関心しつつも奥へと進んで
いく。店舗最奥中央にカウンターが有り店番の女性が椅子に座っている。
この世界で不思議なのは必ずカウンターが奥に有る事だが今は其れ処では無
いので女性へと声を掛けた。
「すまないけど、こちらの商店主に取り次いで貰えないかしら?」
「御約束をされておいでですか?」
「いいえ、していないわ」
「其れですとお取り次ぎ出来ませんが?」
「人では無い者の事で話が有ると伝えてくれれば会う気になると思うわよ?
今すぐにね」
「少しお待ちください」
そう言い奥へと入って行った女性は2分と経たない内にここへと戻って来た。
「お会いになるそうです、こちらへどうぞ」
そう言って奥へと案内しようとした時にセリアが口を開いた。
「そっちでは無く、こっちでは無いの?」
セリアが指差すのは店の左奥である。
女性はその事に目を見開くも素直にセリアに従った。
「失礼致しました、其方の方へどうぞ」
そして陳列棚の隠し扉を押し開くと中へと誘った。
階段を降りきると、真っ直ぐ進めば登り階段だ、そこを上がれば途中に罠が
仕掛けてある、わざわざ掛かってやる義理は無いので店側から来たのだが、
有るのは左側に重厚な扉が1つ、そこしか無いのでノックをすれば入れの指
示、扉を開けた途端、向かいの壁に仕込まれた飛び道具がセリア目掛けて襲
い掛かかった。
セリアは目の前に飛んで来た短剣の束を、指2本で挟むと手首のス
ナップだけで投げ返す。
豪奢な背もたれ付きの椅子に座る、バネッサの耳を掠めて背もたれへと突き
刺さった。
微動だにしないバネッサに近寄り、顔を覗き込む様にセリアが話かける。
「お返しするわね、私の好みの短剣では無いから」
「なっ!何なの!?貴女達は!?」
冷や汗を流しながら誰何するバネッサにセリアが上から目線で返す。
「あら?とても商売人とは思えない発言ね?普通は何事も名前を聞いてから
よね?死んじゃったら聞けないわよ?まぁ名前を聞かないでも襲う人は居る
けれど、あっ!貴女も同じ盗賊なのね?それじゃあ討伐しなくちゃ成らない
わね?」
セリアはレイピアを抜き放つとこの世のものとは思えない程の殺気と共にバ
ネッサの喉元が傷付く程に刃をあてがった。
その様子を扉の外から眺めていたカリアスがセリアに大声を浴びせた。
「セ、セリア様!勘弁してください!わ、私も耐えられませんから!」
そう言われカリアスに振り向くセリアは一瞬にして殺気を消し去り一言言っ
てからバネッサを見直した。
「あら、御免なさいねカリアス、!、あら、あら、こっちは終わっちゃった
わね」
白目を剝いて既に気絶しているバネッサであった。