今現在の最大の難関
途中で、シーンが切り替わります。私にしては、ちょっと長文です。
アリアさんに
『そんなに根を詰めても碌な事にならないから、今日はもうやめて置きなさ
い、今日のお風呂はお湯を沸かしてあるから、先にお風呂に入ってしまいな
さいな』
そう言われて、今の自分が女性である事を思い出すと共に、その事実に向き
合ってこなかった事に激しく狼狽してしまった。
気も漫ろな返事を返し、ハーブティーを一気に煽る、返礼を言いつつカップ
をトレイに置いて自宅へと戻った。
玄関を入り何も考えずに左奥の扉へ向かう、中へ入ると直ぐ左に扉が有り、
そこを入ると脱衣室だ、無意識のまま中へ入り、両腕を後ろに回し慣れた手
つきでベルトを外し棚へ置く、肩に掛かった衣服を右手で左肩を外し、左手
で右肩を外して一気に床へと落とし右側に在る扉を開き入って行く、その正
面には大きな曇り一つ無い姿見の鏡に映るこの世の者とは思えない美貌の一
糸纏わぬ美少女の姿が映し出されていた。
それを見た瞬間、少しの懐かしさと敬憧の念を抱きつつ、羞恥とそれを目に
した自責の念に堪えられずその場で気を失ってしまった。
それが現在の自分の姿であると認識出来たのは今暫く先になるのであった。
「もうここへ来る事も無いんだな」
彼は一人ゴチながら、少し早いながらも約束した場所へとやって来ていた、
今待ち合わせている相手は面識は有るもののあまり話した事が無い相手であ
る、無理だとは解っている、然し、この想いだけは伝えておきたい。その一
心でこんな日にも関わらず朝から彼女を探して待ち合わせの約束を取り付け
た、何故か僕には受けて貰える確信が有った、彼女は少し思案した後
『ええ、解ったわ、今日全てが終わって帰る前でいいかしら?あまり時間は
ハッキリ出来ないけれど、間違いなく伺うわ、それでいいかしら?』
僕は了承の意を伝え、今彼女が来るのを待っている。
彼女がやって来たのは私が来てから随分と経っていたが確たる時間など決め
ようも無い。
『御免なさいね、こんなに時間が掛かるとは思っていなくて』
着いて早々に謝罪の言葉を口にした彼女は身を正し躰の前で手を組むと溜息
を一つ挟み問い掛けてきた。
『それで、何の御用かしら?』
その一言を切っ掛けにして、僕は一気にこの三年間の想いのたけを吐露して
いった。
話の区切りを見計らい彼女が話し出す。
『では、纏めますね。貴方は私が好きです、でも全てでは無い、憧れの気持
ちも有り、感謝の気持ちも有り、例え離れて居ても何故かは解らないが、気
配すらも感じている、私の存在を常に感じる事で安心感が有り、モブな貴方
でも心安らぐ三年間が過ごせた事を心より感謝していると、言う事で宜しい
でしょうか?』
「ハイ!!全く以てその通りです!!」
『一つ伺っても宜しいでしょうか?』
「ハイ!何なりと!」
『いつから私の事が、認識出来る様になったのでしょうか?』
「一年の夏休み前に同じ一年の女子が三年の男子数人に絡まれた事件が有っ
たじゃないですか、あの時近くに居たんです、颯爽と現れた貴女は同じ一年
生であるにも拘わらず理論武装で三年生を論破し、三年生が殴り掛からんば
かりの時に先生が連れて来られて事無きを得た、何か違和感を感じ始めたの
はその場をみんなが離れてからですがハッキリしたのは、その後廊下で貴女
とすれ違ってからです、それと貴女の感情が少し判ります。」
少し怪訝な表情をした彼女は、変わらずに穏やかな表情で問い返した。
『それは、どう言う事ですか?』
「色を、感じるんです、普段は淡いピンク色なんですが感情が昂ぶると紅く
成っていき、怒ると蒼くなるみたいです」
『成る程・・・・まぁ貴方をどうこうする事も出来ませんですしこれから将
来的に絡む事も無いでしょうから、多少判ろうと特に問題は起きないでしょ
う、素直に話してくれた事で貴方がストーカーに成る事も無いでしょうし、
まぁ今後何か有った時の為にアドレスの交換くらいはしておきましょうか?』
(しかし、全く動じない人だな、まぁあの事件の時判っていたが)
彼はあの時の論争の間、彼女の感情の色はピンクから全くと言って良い程変
わる事は無かった事を思い出していた。
アドレス交換を終えた後、彼女は姿勢を正し僕に向き直る
『最初はただの愛の告白だと思っていたのよ、ここに来るのが
遅れたのもそのせい、今日だけで貴方で七人目。
私には目標が有るから、そんな事をしている暇は無いんだけどあの人達とも
握手で別れられるまで元気付けるのは大変だったわ。』
(道理で来るのに時間が掛かったわけだ・・・)
『それから、私を好きになってくれて有り難う、で、ごめんなさいさっきも
言いましたが私には目標が有り、お付き合いする事は障害にしかならないの
です。
ですが、私からすれば、貴方は好感も信頼も置ける方だと思います今後の人
生に於いて貴方の真摯な態度と考え方は強力な武器になると思いますので頑
張ってください。』
その後ガッシリ握手を交わされて彼女は手を振りながら帰っていった。
その年お互いに進路が決まっていた僕達は違う大学へと進学し多忙な生活を
送るも彼女の存在を常に傍らに感じ勉学に励んでいた、もう夏も近いと感じ
る季節に成って来た頃のある日の朝突然、彼女の気配が消えた。
訳も判らず狼狽えてメールを送るも返事は無かった。
その日の夜、テレビのニュースで彼女が亡くなった事を知った。
ネタバレヒント
同じ言葉でも、使われている漢字で心理描写が違いますのでその辺を推理すると
面白いかもしれません。