ミラの成長
今4人はテーブルを挟み座っている、私の左側にミラ、ミラの向かいにエレ
ーヌ女史(護衛)私の向かいにフリッツ氏だ。
「それではお互いに怪我をされても困りますので一切手傷を負わない方法で
宜しいでしょうか?」
私がそう言うと向かいのエレーヌ女史は驚いた様に聞き返してきた。
「そんな事は実剣でやる限り不可能です!」
「いいえ、可能ですよ?殺す気で斬り合って貰って結構です、では実演しま
しょうか?」
そう言って4人ゾロゾロと表へと移動する。
「ミラ、何処でも良いから私を斬り付けて」
「はい」
ミラはすぐにレイピアを撫で斬る様にセリアの躰に振り下ろした。
金属同士が擦れる合う様な高音と衝撃によるキックバックがセリアの躰とレ
イピアを押し退け合う。
其れを見ていた2人はあんぐりと口を開けて固まっている。
「どうですか?衝撃は面拡散しますがある程度は伝わります、ですが一筋と
て切れはしません、本気で戦えると言う意味をお判り頂けましたか?勝敗は
私が判定致します、衝撃で気絶するか致命傷と判断出来る攻撃が当たった場
合、そこで終了としますがそれで宜しいですか?」
エレーヌ女史が私に問い質した。
「あの、私はあんな防御は出来ないんですけど?」
「それは私が担当しますので御安心を」
そこでフリッツが口を挟んだ。
「所でセリア様の腕前は如何ほどのレベルなのでしょうか?」
「私ですか?そうですね、エレーヌさんが剣を抜く暇も無く一瞬で剣ごと細
切れになる位でしょうか?」
エレーヌ女史が”ハッ?”という顔をしている。
「まぁ後でお見せします、取り敢えず2人の仕合をしましょう」
そう言って向き合う2人に開始の合図をした。
先手はミラ、右脇に抱える様に剣を持ちエレーヌに切っ先を向け突きと見せ
かけ迫る。
剣を右手に持つエレーヌが左側に切っ先を払いに行った所を透かさず引き戻
し、エレーヌの剣先が通り過ぎた所で上へと重ね押さえ込む。
後ろへ下がって躱そうとするエレーヌをそのまま体で押し込み態勢を崩そう
とするミラに気付き、切っ先を地面に向け押し込みを下へ逸らす事で、剣を
軸にミラの右側へと回り込んだ。
レイピアの加重を抜かれたミラも態勢を崩しながらも右サイドステップで飛
び退きエレーヌと立ち位置が入れ替わる。
間髪入れずに左手にクナイを抜いたミラがエレーヌへと襲い掛かった。
剣を前方水平に掲げたミラは接敵寸前にエレーヌの顔を目掛けクナイを投擲
、エレーヌの態勢を崩しに掛かる。
それを体を右に開きつつ剣でクナイを右側へと最小の動きで弾き飛ばし、迫
り来るミラの剣を上へ逸らす様にそのまま受けた。
押し込まれ上体が仰け反るエレーヌはその加重に耐える為に両手で剣を持っ
た所で”そこまで!”の声が掛けられた。
その場で固まる2人がセリアを見ると、お腹をポンポン叩いている。
エレーヌはそれに気が付き下を見下ろすとミラが左手に持つクナイが自分の
腹に当たっているのが見えた。
ミラの投擲も剣撃もブラフで、次弾のクナイが本命だった事にエレーヌはそ
の時気が付いたのだった。
仕合時間は1分にも満たない、エレーヌの完敗である。
「エレーヌさんが仰け反った時にミラは次弾を抜いていて、貴女が剣を両手
で持った事でミラは次弾が見えていないと判断して刺したのよ」
セリアに言われて全くその通りだった事に愕然としたエレーヌだったが、
その後セリアの演武を見た2人の口調が変わったのは当然と言えば当然なの
かもしれない。
目の前には見えない剣閃による、魔物が持っていた棍棒が細切れになって転
がっているのだから。