ニルズとヴァルキリィーの憂鬱
ニルズは執務机に両肘を着き、口の前で片手の握り拳を包む様な態勢でティ
アナと担当のレイアに対峙していた。
「それでティアナ君、君は担当のレイア君に正確に指示内容を伝達したと言
う訳だね?」
直立不動のティアナは視線を彼方へ彷徨わせ返事を返した。
「ハイ!間違い無く程々にと指示しております」
ニルズは隣に立つレイアに視線を向けると問い質した。
「レイア君、君はティアナ君に程々にと言われていた訳だが異論は有るかね
?」
「いえ!異論は有りません、ですが北方ダンジョンの管理権限はかの新興神
族の管轄で作動形態がヴァン系と異なり手慣れていませんでしたので、ああ
いった事になってしまったと・・・誠に申し訳有りませんでした!!」
レイアは90度に頭をさげたまま固まっている。
「あの使い物に成らなくなったダンジョンの向こうの担当者は誰だったかな
?」
レイアは頭を下げたままなのでティアナが答えた。
「タブリスと言う者です」
ニルズは思いを巡らせ新興神族の基本方針を思い出し、口を開いた。
「あそこはタブリスダンジョンだったか、大して仕事もせんくせに口だけは
達者な連中だからな、今回の件も口を挟んでくるのだろうな・・・
まぁ今回は大目に見てやる、次は言い訳など通用しないからその積もりでな」
「「了解致しました!!」」
(敬礼して立ち去る姿だけは一流だな)
そんなどうでも良い評価で気分を紛らわすニルズであった。
クレア山脈東端の麓、地下深くに有る実験施設にヴァルキリィーのレベッカ
は居た。
「クラリス、そっちはどうだ?」
「ん~?こっちも駄目だね~強烈な電磁波ですっかりやられてるよ」
レベッカは作業を中断し、腰に手を当て諦めモードで口を開いた。
「これでは当分掛かるな、実験は無期延期するしかないな」
手を休めずに作業を続けるクラリスがそれに同意する。
「そうだね、これでは当分無理だろうね、まさかこんなに近くで核爆発をや
らかすとは誰も思わないさ」
「クラリス、あんたちょっと行って一言言って来なさいよ?」
クラリスは呆れ顔でレベッカを見返し言う。
「あんた馬鹿じゃないの?誰かは知らないけで、どう見たって私達より上の
人よ?私達より上と言ったらもう5つしか無いのよ?言ったら逆に本当の意
味で首が飛びかねないわよ、あんたが昔の”意志を持たないただの欠片”に戻
りたいなら止めはしないけどね」
「あたしだってそれは嫌だよ、あたしに出来ないからあんたに言ってるんじ
ゃない」
「お前って言う奴は・・・でも考えてみれば系統外とは言え挨拶位はして顔
を売って置いた方が後々融通を利かせられるかもしれないわね?」
「んじゃ2人で挨拶してこようか?」
レベッカが目をキラキラさせて行く気満々に言う。
「お前遊びに行きたいだけだろ?」
「えっ?まっさか~そんな訳無いじゃない、偶には環境を変えた方が作業も
捗るってもんでしょ?でも折角出るならこの地の担当のニルズ様にはしなく
て良いの?」
「いや、あそこは何種族かの寄り集まりだから特定の所に我らが行くと問題
が出る恐れが有るから行かない方が良いと思うぞ?」
「あ~そっか~引っ掻き回しに来たと思われたら厄介だもんね~」
「でもあそこのダンジョンの担当はニルズ様じゃ無くて新興神族じゃなかっ
たっけ?」
「そうだけど管理だけだね、動かしたのはニルズ様だろう、こう言う時に縦
割り管理の弊害が出るよね~横の繋がりは文句だけだし」
大いに頷くレベッカがお休みモード全開で話を逸らして行く。
「大体からしてあたし達って”戦士”よね?どうして化学者やらなきゃ成らな
い訳?」
”今日は素面で言うかよ”と思ったクラリスだが晩酌後と同じ応えを返すのだ
った。
「頭の出来が良く生まれたんだから諦めるしかないよねー」(棒読み)
「それはそうなんだけどさ」
いつもこの言葉で終わる2人である。