フリッツの意図
結局ミランダ夫人はアルリア王都へ行く事は無かった、
病弱で乾いた気候に体質が合わないらしい。
私のスマホで旦那のアベルと良く話し合った結果なので私に言う事は無い、
スマホの遣り取りを聞いているだけで仲睦まじい夫婦なのだと良く判った。
知らぬ仲では無いのでミランダ夫人には告げなかったが”少し元気にしてあ
げます”と言って悪い所は治しておいた、その内気付いて同居する様に成れ
ば幸いだ。
そうしている間に日もとっぷりと暮れてしまったので、ミランダ夫人に紹介
して貰った宿屋に厄介になる事にした。
この界隈で食事のレベルは普通だが対応はしっかりしているとの事で泊まる
事にし、4,4,3,3の4部屋で私の意見は聞き入れられず4人部屋に連
れ込まれ、同室になったのは言わずと知れた3人だ。
夕食はクルトで買い付けた物で済ませ、若い女性の給仕さんが居たのでこの
里の話を色々と聞いてみた、簡単に言うとレプラカーンの里は”首長国連邦”。
各氏族長会議での多数決で総てを決し行政の1本化で施行し齟齬を無くすと
言う洗練された政策機関を運営しているらしい、城壁も昔は有ったそうだが
長い間戦争が無ければ修理よりも撤去になるのも肯ける話だ、今回は其れが
裏目に出たのだが。
洗練され過ぎて問題なのは軍隊が無い事だ、警察機構ではこういった場合太
刀打ち出来ないだろう、まあ私の知った事では無いが。
色々と聞かせて貰ったので女給さんにはチップを渡してお引き取り願った、
私にはこれから遣らねば成らない事がある、14人分の洗浄だ。
各部屋を回り号令一下でスッポンポンにして洗浄魔法を掛けていく。最初に
自分の部屋のメンバーをやろうとしたら思いっ切り却下された、企んでいる
事は判っているのだがいい加減私の隣でくっついて寝るのは止めて欲しい、
暑くて堪らん。
自室へ帰り3人を見ると今日の勝者はアンジェとサラらしい、今日は穏やか
に眠れそうだ。
外泊の際、コイツらは寝る前にジャンケンをして私の隣を争っている。
最悪のパターンはニナとアンジェが私の両隣で張り合ってやらかす事だ。
2人で私に足を絡めて耳に甘い吐息をかけられ、思いっ切りしがみ付いて果
てられては私が欲求不満になってしまう、3度目には流石に切れた、そう言
う欲求が有るのは解るが1人の時にやって欲しいものだ、まぁ彼女達に甘い
私も悪いのだが。
翌朝何事も無くスッキリと目覚めたと思ったら、食堂で朝食を摂っている時
に何事が向こうからやって来た、車を収納せず横着けにしていたのでバレた
らしい。
礼儀を弁えて食事が終わるのを見計らい声を掛けて来たので対応する事にし
た。
護衛らしき女性が随行して来たが彼女は外で周りに目を光らせている。
「突然の訪問に対応して頂き有り難う御座います、私はフリッツ・ベイフェ
ルトと申しますこの里の首長の1人で議会の代表としてお伺い致しました」
「そんな方が私達に何の御用でしょうか?」
「昨日の魔物のスタンビートを制圧された方々だとお聞きして礼の一つでも
と思い参上した次第です」
「そうですか、別に気にされずとも良いですよ、今回は私達の都合で勝手に
討伐したまでです、この里を護る為ではありませんので」
「そうなのですか、ですが既に貴女はこの里の英雄、せめて御名前だけでも
教えては頂けないでしょうか?」
「ええ構いませんよ、私はセリア商会代表のセリア・トラーシュと申します」
「おお!今巷で噂の飛ぶ鳥をも追い落とすと言われているセリア商会ですか
?」
「鳥を落とした記憶は有りませんが多分そうだと思います」
周りを見渡すフリッツがミラを見留めて口を開いた。
「こちらにいらっしゃる皆さんは全員商会員でらっしゃるのですか?随分お
若い方もいらっしゃる様ですが?」
「当然です、当商会員は総て私が直接採用した者達です、昨日も参戦してお
りました」
「ああ成る程、使い潰すのであればそういった物を使った方が後々問題は出
ない訳ですな」
セリアはその言葉に表情を険しくし語気を強めた。
「それはどう言う意図での発言でしょうか?」
フリッツはそれを見て焦りながらも弁明を返した。
「いえ、べ、別に他意は有りません、危険を孕む場合奴隷を使うのは一般的
ですので成人に満たない物も居るのだなと思っただけです」
「当商会にそんな者は居ません、能力が有れば年齢に関係無く採用するのが
セリア商会です、歳が若いからと言って甘く見ると命が幾つ有ってもたりま
せんよ、彼女は其方に居る護衛よりも強いのですから」
「まさかそんな、彼女は我が里でも5指に入る最精鋭、高々12,3歳の小
娘に負ける訳が有りません」
鼻息荒い族長ににも、表情1つ変えずにセリアが言い放つ。
「試してみますか?」
「そこまで言うので有れば受けて立ちましょう」