帝都ブラント
「フローラ」
「はい、何でしょうかお嬢様」
「暇ね」
「そうですね」
「次の相手はまだ見つからないの?」
「この間の自称勇者以来申し込んで来た者は1人も居りません」
「なら報奨金額を上げれば、来るかしらね?」
「と、言いますと如何ほどに?」
「金貨100枚位で如何かしら?」
「50枚増やした所で余り意味は無いかと」
「そう?でもこう暇だと流石にね・・・」
「お嬢様も偶には貴族らしい催し物にでも参加されては如何ですか、旦那様
からもいい歳なのだから午餐、晩餐などには出席しろと口を酸っぱくして言
われたではないですか?」
「あんな爵位と金目当ての豚共に興味は無いわ、それにいい歳は余計よ?」
「そうは言われましてもお嬢様も既に21歳、御結婚、出産を済ませていて
もおかしく無い歳です、旦那様がああもきつく仰るのもお判りでしょう?」
「あぁ、あれはただ孫の顔が早く見たいだけよ?」
「そんな・・・それも確かに間違いでは無いでしょうが、其れだけでは・・」
「あんなタヌキ親父なんか放って置いて何か良い話は無い?」
「そう言えばこの間、冒険者ギルドへ対戦者の募集に行った時、受付嬢に言
われたのですがそれはちょっと違うのではないかと黙っていた話が有るので
す」
「それで?」
「そんなに対戦相手が欲しいなら募集するのでは無く、”セリア商会に依頼
しろ”と言われたのですが商人相手に対戦依頼など話に成らないと思い黙っ
ていたのです」
「それって最近流行っている”時計”とか”すまほ”なる物を扱っている最近帝
都に進出して来たセリア商会とか言う所かしらね?」
「どうもその様です」
「と言う事は商売上強い傭兵とかを沢山抱えていると言う事かしらね?」
「其れしか思い当たる節が有りません」
「では、取り敢えず頼んでみましょう、1番強い人と頼んで置けば外れても
余興位にはなるでしょうから」
「畏まりました、所でお嬢様」
「その服装、何とか成りませんか?」
「貴女が五月蝿いからドレスにして動き易い様にあちこち弄っただけじゃな
い、変えて上げたんだから文句を言われる筋合いは無いわよね?」
「前と余り変わらない様に思うのですが?」
「良いのよ!私は黒が好きなんだから!」
「いや、色の事ではないのですが」
「では、せめて下着を」
「貴女だって履いて無いじゃない!」
「いや、私は軍のズボンなので」
「あんなお腹を紐で縛るなんて窮屈な物、貴女も毎日スカートでパンツを履
くなら、私も履いてあげるわ」
「・・・・・」
「今日”も”引き分けね、フローラ?」
帝国の、とある貴族邸での日常の一齣であった。
今私は路肩に停車している。
「はい、もしもし私だ」
{アンジュです、お忙しい所申し訳有りません、私では判断しかねる依頼が
有りましたので御連絡致しました}
「何?また討伐か何か?」
{そうでは無く、対戦依頼です、お忙しいのは判っていたので、お断りする
為に依頼金額を吹っ掛けたのですが、受けられてしまい相手が相手なので止
む無く御連絡した次第です}
「対外試合なら本店にも結構強いのが居るじゃない?その辺の冒険者には負
けないでしょ?」
{そうなんですが依頼の内容が当商会の”1番強い者”との指定なもので}
「あ~~それで私か、依頼金額は?」
{金貨100枚です}
「100枚か!?それは吹っ掛けたわね!相手は誰?」
{帝国のダンペール大公の長女でエレオノーラ・ダンペール譲です}
「大公か・・・クルトの領主じゃない、それは断れないわね・・・いいわ、
受けてあげる、何処に行けば良い?」
{帝都ブラントのダンペール大公別邸です}
「それなら丁度良いわ、今帝都に向かっている途中よ、4日午後13時に伺
うと伝えて頂戴、変更が有るならまた連絡して」
{了解致しました}
通話の終わりを受けティアが聞く。
「大公とは随分上からですが、何を受けられたのですか?」
溜息を一つ吐きセリアが応えた。
「対外試合よ、当商会で1番強い奴と」
「ああ、それでセリア様なのですね?」
「そう言う事、金額が金額だから武闘派は全員連れて行くわよ?」
「そうですね、他のメンバーにも良い勉強になるでしょう」
「丁度良い、ティア運転代わって」
「畏まりました」
今日は3日、午前11時半、帝都まで後100ルークの距離である。