終わりと始まり
今日定年退職になった、本当の所は5月の誕生日までの筈なのだが 年度替
わりとか言われて3月一杯でと、和やかな笑顔の課長に 肩を叩かれながら言
われては文句の一つも言えるはずも無く了承した。
こうなったのも、長年勤めた訳では無いのでしようが無い、数年単位で転職を
してきた堪え性の無い自分の性格が災いしているのは間違いないのだろう。
そんな生活をしていれば給料の額も上がる筈も無く、住まいは郊外の安アパー
ト、田園風景がチラホラと見えるような場所、通勤に掛かる余計な出費に遊べ
る余裕も無く、女性に縁も無ければ貢げる余力も無いので当然独身だ。
(さて、明日は職安でも行ってみるか~)
などと考えながら歩く男のすぐ脇を突然自転車が走り抜ける。
(うお!あっぶね~)
スマホ弄りながらチャリ乗ってんじゃね~ぞ~と心の中で叫ぶが、その後ろ姿
はロングストレートヘアに真新しそうなビジネススーツのスラッと細身のお姉
さん?、かお嬢さん?では見惚れこそすれ文句の言えないヘタレだ。
こんな郊外であれば目の前に拡がるのは住宅より田んぼが目立つ、見通しの良
いそんな動きの無い景色を眺めていれば、自然と人や車などの動く物に目がい
くものだと、この辺りに住んでから気が付いた。
何気なく前方を見廻す視界には、交差する道からのトラックが映り込む。
(ほ~ら、前見て走れよ~トラック左から来てるぞ~)
と思いつつ運転席を見ると運転手がハンドルに突っ伏している。
「おいおい、これはマズくないかい」
と言いつつ既に走り出している自分がそこには居た。
声を掛けても気付いてくれない(イヤホンか!)
自転車は案外テレテレ走っている、 何とか止められるかもと思ったが思考に
体が付いて行かない
もう若く無いからと事務職を選んだのだが、こんな所でツケを払う羽目になる
とは思いも寄らなかった・・
「頼む!間に合ってくれ!」
必死に走るが脚がなかなか出てくれない
「せめて、あの子だけでも!」
全く自分らしくも無い事を考えながら全てがスローモーションの様に流れる
中、路面から淡い白色光がゆらゆらと自転車を包む様に立ち上がるのが見えた。
視界には入ったが気にする余裕も無い、トラックは既に3メートル位まで迫っ
ていた、彼女に追い着きそのまま突き飛ばした所で力尽きると共に私は意識を
失った。
初心者なので、お手柔らかに御願い致します。不定期更新ですが毎日1話くらいを目安に更新したいと思っております。