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大門さんは大悪魔  作者: 条嶋 修一
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プロローグ



 常山家の朝は早い。

 朝五時には長男である朝太ちょうたが起床、各部屋のカーテンを開けていた。真夏の朝日が朝太の目を刺激するが、気にも留めず自室から近い順に客間や廊下をまわった後、キッチンに立つ。


 昨晩仕込んだ朝食と弁当作りを始め、約一時間。出来上がるころには母と妹たちが二階から降りてくる。

 血筋なのか全員寝起きは良いのだが、何年か前から朝食と弁当は長男の朝太の担当だ。


「おはよう、いつもありがとね」


 母は歯磨きをしながらリビングのテレビをつける。天気予報では今日は全国的に晴れ――それどころか何年かに一度の猛暑日だという。


「マタベエちゃんは?」


 マタベエとは常山家で飼っている柴犬の名前である。


「散歩中」


 朝太は母の声に短く答え、味噌汁を椀に注いだ。


「おはよう~」

「おなかすいた……」


 続いてリビングに来たのは朝太の妹のまひるとゆうひ。双子の妹たちは同じ仕草で目をこすっている。


「そろそろ出来るぞ。まひる、ゆうひ、ならべてくれ。母さんも」


 配膳を終えたちょうどその時、玄関が開く音がリビングに響いた。


「――ただいま帰った」


 帰宅を告げるその声は、地鳴りのように低い。それと共に犬の鳴き声も聞こえてきた。


「おかえり。朝ごはんできてるわよ」


「うむ。さっそく頂くとしよう」


 母の声に答えリビングに入ってきたのは、ソフト帽に黒いロングコートといった真夏にそぐわないいで立ちの男。身長は二メートル、肌の色は夜闇のように黒く、ほりの深い顔についた口は、真一文字に結ばれている。


「大門さん手洗った?」

「ふ……。吾輩にぬかりはない」


 大門と呼ばれた大男は自慢気に両手をかざす。その手は浅黒く大きい。


「おい、大門、帽子脱げ」

「あいわかった」


 注意を聞き、素直に脱いだソフト帽の下からあらわれたのは――禿頭に二つの突起。

大きくとぐろを巻いた羊の角のようなものが男の頭から生えていた。


 しかし、常山家の人々は頭から角の生えた大門の異形に目を配ることはなく、テーブルに並んだ朝食を前に手を合わせていた。

 当の大門も早速手を合わせる。


「いただきます」


 アサリの味噌汁に焼き鮭、ほうれん草のおひたしに味付け海苔。和の基本が食卓を彩っている。


「美味であるな」


 箸二本を起用に使い、大門が感嘆する。作成した朝太は感慨もなく、淡々と朝食を口に放り込んでいた。


「食ったらマタベエに飯やれよ。あと洗濯おわってるから干しといてくれ」


「朝太は悪魔使いが荒いと思う」


「うるせえ居候」


 面々は朝食を早々に終え、それぞれ片づけをし、出立の準備をする。


「うし。洗い物すんだし学校いくか」

「はーい」

「お母さんも仕事いくわね。大門さんが家事してくれるからほんとに助かるわ」

「うむ。これも契約、だからな」


 大仰に頷くと、大男は家人たちを送り出した。


 異業の男、大門。彼は『悪魔』である。


 他人の願いを叶え、契約により対価である、魂――願いに見合った供物を奪い生きている。


 本来、大門――悪魔名『ダイモーン』は、彼らの魂をそのまま摂取することが目的であったが、なし崩し的に犬の散歩をすることで食事を与えれられ、家事をすることで家に住むという条件を飲むことになってしまったのである。


 彼自身、この生活に慣れ切っていて、本来の自分がすべきこと――願いを叶え魂を得たうえで魔界へ帰還する、ということを半ば忘れてしまっていた。


「ふははは! これで誰もおらぬ。我一人がこの家の住人だ! これでやっと……!」


 悪魔はマントのように自前のエプロンを翻す。


「心置きなく掃除ができるというものだ!」



 今日も大悪魔の一日が始まる。


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