車内
仕事でいつも使っている電車に乗り、各駅で乗車してくる人や、車内にいる人を、チラチラ見続けていた。
平日の昼間ってこともあり、そんなに人もいないし、若い人も少ない。
そんなことをしてから、かれこれ30分程たったときに、横の座席に手榴弾の形をしたライターが落ちている事に気づいた。手榴弾の形をしてはいるが、上に火をつけるためのボタンが付いており、ちゃっちい作りの物だった。大きさも野球ボールくらい。
『あれ? こんな変なもの落ちてたっけ?』
丸い形をしているし転がってきたのかもしれない。
とりあえず手に取ってみる。こんなデカいライターなんて使いにくくて仕方ないだろうに。ネタで使ってるのか?
車掌さんが巡回に来るまで持ち続け、渡すことにする。車掌さんが来たのでライターを渡していると、お爺ちゃんに声を掛けられた。
「すみませんね、それをどーしますか?」
どーしますか? その質問の仕方はおかしくないか。公園で雑誌を捨てようとしている時に子供に『どーしますか?』と聞かれればまだわかる。そんな子供は嫌いだが。
「落とし物なので、こちらで保管しますよ」
そう車掌さんが伝えると、お爺ちゃんはさらに質問をし始めた。
「置いておいたら忘れた人が取りに乗ってくるんじゃないか?」
「もしかしたら駅の近くの友達に取りにくるかもしれない」
「私のではないけど、私はそう思う」
などなど。
このまま電車が進めば、じきに東京に着く。そうなれば乗車率が増え盗まれる可能性だってでてくる
初めはボケたお爺ちゃんだな。という気持ちしか無かったが、流石におかしい。こいつか?
車掌さんに耳打ちをし、一緒に次の駅で一度降りてもらい、ライターを俺が受け取り、駅員に渡しライターが不審物でないか警察に調べて貰う流れにする。
お爺ちゃんは車掌さんが持っていると思うだろうが、電車が走り出してからネタばらしをすれば諦めるだろう。
打ち合わせ通り、次の駅で一緒におり、ライターをバレないように返してもらい、車掌さんは車内に戻っていく。
その間もこちらをジーっとお爺ちゃんは見ていた。
これでライターが不審物で、俺のミッションが終わりだと助かる。
若い姿に戻ったんだ。ナンパとかワンチャンあるで!
なんて考えながら電車を見送り、ホームを歩いていると、車が電車に突っ込んだ。
言葉に出ないとはこの事か。
ただの事故と片付けちゃダメな気しかしない。
ここにいても危険だ。下り電車に乗り込む。
乗り込んでふと思う。俺ならどうする?
車掌さんが持っていないとなれば、俺が持っていることになる。下りの電車に乗り込めば次の駅まで逃げられない。《スキル》なるものがあるとしても相手も同じだ。電車に車を突っ込ませる程のヤバい奴らならほぼ負ける。負けるだけならまだしも殺されたらたまったもんじゃない。
《スキル》の使い方はあまりわかってはいないが、隠密行動が出来るものを取得しており、こっそりと電車から降りてホームの影に隠れる。
電車が発車さえすれば、もし追っ手がいたとしても逃げられる。
事故の原因で下り列車の発進が20分ほど遅れたが、無事に発車ベルが鳴り電車は進み始める。
車内は満員電車となっていた。
普通に考えて、平日の昼間に下りだけ満員にはならないだろう。
相手はそんなにデカい相手なのか?
上り電車はいまだ動いてはいない。車内を見るとお爺ちゃんは眠っているように見える――――




