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暗紫色  作者: うちょん
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大死一番


 第五章【大死一番】














 「炉端!何があったか説明しろ!!」

 《はいはい、そう怒鳴らないでくださいよ。誰かにセキュリティを突破されたみたいですね。今解除してますから》

 「早くしろ!そもそも、なんでお前が作ったセキュリティが突破されてんだよ!!」

 《そんなこと俺に言われても困りますよ。あ、今点きます》

 健の言った通り、部屋の電気が無事に点いた。

 パッ、と部屋の電気が点くと、安心したのと同時に、見えなければ良かったとも思うことになる。

 素澤たちとは異なる格好をした男たちによって取り囲まれ、素澤たちは大人しく銃を下ろすしかなかった。

 男たちがかけているごつい眼鏡のようなものは、周りの明るさに合わせて暗視用にもなり、赤外線なども感知出来るゴーグルだ。

 「お前等、ここがどこだか分かっているのか。さっさと俺に向けている銃を下ろせ」

 間ノ宮の言葉にも、男たちは一切動こうとしない。

 それに痺れを切らしたのか、間ノ宮は声を荒げて同じ事を男たちに言うが、それでも男たちは動かない。

 「お前等一体誰の命令で「俺だよ」!?」

 間ノ宮の声を遮るようにして聞こえて来たのは、間ノ宮よりも低くて少し柔らかい声。

 「お前・・・!!どうしてここにいる!?見張りはどうした!?お前は罪人だぞ!!こんな奴の言う事を聞くのか!!!」

 「落ち着けよ、間ノ宮。とりあえず座れ」

 「・・・!!将烈!!!」

 これまでの余裕そうな間ノ宮は何処へ行ったのか、監禁・拷問されているはずの将烈が現れたことで、顔つきも声色も変わった。

 促されるまま椅子に座ると、将烈は煙草を吸い始める。

 「あー・・・。久々の煙草は美味ェなぁ」

 素澤も間ノ宮同様に座らされると、両腕を後頭部に回すよう言われ、そこで固定されてしまった。

 怪我をしているサラムは治療を受け、なんとか壊死も免れたようだ。

 「証拠隠滅にしちゃあ、やりすぎだな」

 「何のことだ?」

 将烈の言葉に、冷静さを装いながら答える間ノ宮。

 肺いっぱいにニコチンを吸いこんだからか、将烈は心なしか満足気だ。

 「ザークも俺んとこで捕えてある。お前が奴を殺そうとしたことを知って、全部吐いてくれてるよ。そこのドクロとかいうブローカーのこともな」

 間ノ宮は、ザークと癒着関係だった。

 教会で拾われた子供たちを、遠野は国や個人、団体などへ売り払う仲介役だった。

 教会では精神的なものから肉体的な虐待があったが、それを間ノ宮は黙認しており、遠野の人身売買に関しても黙認していた。

 見返りとしては、教会にいる子供を部隊にいる男たちに格安で提供することと、遠野と同業者のブローカーの摘発に協力すること。

 素澤の部隊は男だらけのため、当然のことながら、性欲を抑えらない者たちもいた。

 身近な人に手を出して問題になる前に、身寄りのない子供たちを相手にさせれば良いだろうと思ったのだ。

 遠野も、金儲けのためならなんでもやった。

 「それを、邪魔になったからって消すとあっちゃあなぁ・・・」

 「何のことだ。黙認などしていないし、このブローカーは摘発しようとしていたところだ。性奴隷に関しては個々の自由。俺は関与していない」

 「ま、そりゃ否定するわな。こんなことが公になれば、お前は終わりだ」

 「終わっているのはお前の方だ、将烈。お前がしてきたことは証拠がある。お前の言い分には証拠がない。裁判に持ち込んだところで、どちらが信憑性あると思う?」

 「・・・・・・」

 黙ってしまった将烈を見て、間ノ宮は下を向いて笑った。

 間ノ宮が椅子から立ち上がろうとしたのだが、後ろに立っていた男によって再び座らされてしまった。

 文句を言おうとしたとき、将烈が言う。

 「定室と清涼、あいつらももう捕まえてある。お前の差し金だってな」

 「え!?」

 それに反応したのは、サラムだった。

 あの二人は確か、教会で撃たれたはずだ。

 将烈はサラムと目が合うと、その先の話を続ける。

 「おい黒田」

 「はい」

 急に名前を呼ばれ、びくっと身体を強張らせた黒田に、将烈はちょいちょいと手招きすると、黒田は素直に近づいて行く。

 そして将烈の隣に来たとき、いきなり将烈に胸倉を掴まれ、そのままテーブルに顔面から叩きつけられてしまった。

 「お前、こいつらについたな。俺が知らねえとでも思ったのか」

 「な、何のことですか・・・!?」

 「お前等が殺したと思ってるデイジーな、生きてるよ」

 「なに!?」

 「止めを刺した奴が、綺麗に正面から撃ってくれたお陰でな、銃弾が綺麗に貫通したんだよ。脳の損傷も最小限で済んだ。腕が良いってのは考えもんだよな。ザークもお前らに関して証言するって言ってるが・・・。ドクロ、お前はどうする?捕まるか殺されるか、証言して刑期を短くするか」

 「そりゃ、証言するしかないでしょうねぇ」

 「よし、決まりだな」

 将烈からの提案に、遠野は少しも迷うことなく答えた。

 押さえつけられた黒田を横目で見ながら将烈は欠伸をするが、傷口が開くのか、少しだけ顔を歪めた。

 そんな将烈を見て、間ノ宮が問いかける。

 「どうしてお前がそんなことまで知っているんだ。お前にはもう、味方など一人もいなかったはずだ」

 「そうだな。確かに、俺の周りには誰もいなくなったよ。だから、お前は俺にしか注意してなかっただろ?」

 「何・・・?」

 「お前が俺の部屋に盗聴器つけてたこと、知らねえと思ってたのか?めでてぇ野郎だな」

 「!!」

 将烈の部屋には、色んな人物が出入りする。

 それに、出入りするのは同じような仕事をしている仲間ばかり。

 普通なら、疑う事など無い。

 「切り札の使い方が下手なんだよ」

 「・・・!!!」

 「じゃなかったら、俺がこんなストレス解消的なことに付き合うはずねぇだろ」

 間ノ宮は、将烈を陥れるべく、金で裏切らせた黒田に盗聴器をつけさせた。

 黒田はとても真面目なのだが、その分貪欲で、上に行くためなら手段は選ばないところがある。

 「火鷹とくだらねぇことで喧嘩したのも、波幸と確執を作ったのも、全部この日の為だったってわけだ」

 盗聴器がつけられていることに気付いた将烈は、まず誰がつけたのかを調べた上で、今回のことを考えた。

 とはいえ、火鷹にしても波幸にしても、将烈から信頼されている二人を突き放すことは容易ではない。

 間ノ宮たちがなんとかして将烈から二人を引き離すかと思ったのだが、それよりも先にこちらから距離を置いてしまった方が良いと判断した。

 「火鷹には、素澤、お前のいる部隊に潜入してもらった。気付いてなかっただろ」

 「潜入・・・!?そんな馬鹿な話があるか!俺はこう見えて、部下の顔は全員覚えてる!!火鷹の顔だって知ってる!!」

 思わず大声を荒げたのは、素澤だ。

 確かに、部下といえども人数的にはとても多いのだが、その素澤はその全員を覚えていた。

 だからこそ、部下一人一人がどういう行動をしているか、どういう好みなのか、癖などまで把握することが出来、もし不審な動きが身受けられれば、すぐに調べられる。

 「火鷹、お前馬鹿にされてるぞ」

 将烈がそう言うと、素澤たちと同じ格好をした男たちの中の一人が、顔を覆っているマスクを取りはらった。

 そこには紛れもなく火鷹がいた。

 それを見て、素澤は唖然とする。

 開いた口がふさがらないというのは、まさしく素澤のためにある言葉だ。

 「こいつ、一見馬鹿そうに見えるが、人を観察することに長けてるんだ。それを真似することもな。お前、自分の部下が一人すり替わっていたことにも気付かなかったんだよ。いつもくちゃくちゃガムなんか噛んで、競馬なんか聞いてるからだよ」

 「将さん、俺ってば良い仕事した!」

 「そういうことはてめぇで言うもんじゃねえからな」

 まさか火鷹にそんな特技があったなんて、きっと波幸さえ知らないだろう。

 何しろ、ひょこっと顔を出して自然に将烈に近づいてきた波幸でさえ、その表情筋を引き攣らせていたのだから。

 波幸を見つけると、火鷹は手をあげてハイタッチしようとするが、してもらえずに落ち込んでいた。

 「んで、波幸にはお前等の行動を見張っててもらったってわけだ。そんなすぐには尻尾出さねえと思って、とにかく周りから固めるように言ってたがな。要するに、こいつらのファインプレーもあって、お前等を捕まえることが出来るってわけだ」

 そう話しながらも一本吸い終わってしまった将烈は、ポケットを漁ってみるが新しい煙草は入っていなかった。

 すると波幸が新しい煙草を差し出してきた。

 「お前いつから吸う様になったんだ?身体に良くねえから吸うなって言っただろ」

 「ヘビースモーカーが言う台詞ではありませんし、私は吸いません。将烈さん、煙草を買いに行く時間なかっただろうと思って買って来たんです」

 「ありがとな」

 フィルターを外して中の銀紙もちぎると、新しい煙草の味を満喫する。

 拷問されている時間が長かったせいが、煙草の味が五臓六腑に沁み渡るそうだ。

 すると、間ノ宮が鼻で笑いながら言う。

 「お前に何の権限がある?お前はすでに罪人だ。権力も行使されないはずだろう」

 将烈が吸っているからか、遠野も吸いたくなってしまったらしく、将烈に一本吸わせてくれと頼んでいた。

 一本だけ出して渡すと、まるでこれまた美味しそうに吸い始める。

 「俺の?ああ、あれか」

 「執行猶予もつかないぞ。何十年入ることになるんだろうな・・・。ハハハハ!!!」

 「あれは無効ですので、将烈さんの権限は以前として確立されております」

 「は・・・?」

 冷静に答えた波幸に、間ノ宮は口を開けたまま。

 どういうことだと詰めよれば、将烈を陥れるためだけに用意したそれらの証拠品はねつ造されたもので、そもそも、部下への暴力暴言などに関しての証言も証拠も何もないことが分かっている。

 他の証拠に関しても、詳しく調べてみればまったくの事実無根であることが証明されたのだ。

 「秘密警察、なんて呼ばれてたのはちょいと昔のことで、今は公安として、監察員として、警察組織とは別の組織内にある。秘密警察時代の仕事は当然続けてるけどな。まあ、その呼び方も昔のことで、今は“鼇頭”なんて言うらしいが・・・。ま、お前等みたいな奴を取り締まるためなら、なんでもしていいってのが俺達の仕事ってわけだ」

 「お前!!上に金でも渡してるのか!?取り入ってもらってるんだろう!?誰にだ!?」

 「そういう考え方してるうちは、お前に俺は越えられねえよ」

 「なんだと・・・!?」

 「どんだけ偉い奴でも、権力持っていようが金があろうが地位があろうが、俺らの網からは抜けられねえんだよ。じゃ、話も終わったことだし、連れて行け」

 将烈の言葉で、周りの男たちは間ノ宮たちを立たせて扉の方に歩かせる。

 金で将烈たちを裏切った黒田も当然連行されることとなったが、将烈は一瞥することもなかった。

 黒田は男たちに両腕を拘束され連れて行かれる時、タレ目の男とすれ違った。

 「・・・!?」

 思わず振り返ったが、その男は部屋に入ってしまったため、ちゃんと顔を確認することは出来なかった。

 間ノ宮を連れて行こうとしたとき、将烈がストップをかけた。

 さすがに同じ歳ということで、何か最後に優しい声をかけるのかと思っていたが、波幸と火鷹がすぐさま反応した。

 「将烈さん、落ち着いてください」

 「将さんってばこういうところあるからな」

 「てめぇらどけ。こう見えて俺は今結構腹が立ってる。こいつをボコボコにしないと気が済まねえ」

 いきなり間ノ宮に殴りかかろうとした将烈だったが、間ノ宮が自分を守ろうとする前に、将烈にただならぬ何かを感じ取った波幸と火鷹が止めに入ったのだ。

 わかったとは言ったものの、将烈は未だ間ノ宮に殴りかかりそうな空気を、これでもかというくらいに醸し出している。

 「大丈夫だ、八割殺しにしておく」

 「ダメですよ。八割はほぼ死んでます」

 「あ?こっちはろっ骨もあばらも折れてんだけど?その他もろもろ込みで全治三カ月なんだけど?」

 「将さん、普通はそれよりもっとかかるんすよ」

 「そろそろこの国に、『少しならやり返しても良いですよ制度』作らねえ?」

 「出来ないでしょうし、少しの度合いが人によって曖昧なので、定義が難しいでしょうね」

 「ちっ」

 将烈がシッシッ、と手を外に向けて動かすと、間ノ宮を押さえていた男たちはようやく部屋から出て行った。

 怪我をしていたサラムのもとには、一人の男が近づいていた。

 「お前・・・どうして・・・」

 白魔女の力なのかは分からないが、サラムの怪我はすっかり傷口がふさがり、かさぶたが出来ていた。

 男に向かってサラムがそう口にすると、将烈が腹のあたりを押さえながら言う。

 「そいつは俺が雇った野郎だ。正真正銘、お前を守るためにな。大我、ご苦労だったな」

 「いいんですよ。将烈さんのお陰で、防弾チョッキと血糊も用意してもらえましたし」

 にへら、と笑いながらそういう大我に、サラムは椅子から立ち上がって礼を言う。

 気にするなと言われたサラムは、大我を真っ直ぐ見てこう言った。

 「俺の本当の名は、セレイドだ」

 「セレイド?サラムって言うのは?」

 「字みたいなものだ。名は体を表す。自分の名をそうそう他人には教えないものだ。そのための名が、サラム」

 サラムこと本名セレイドは、目元を何かいじったかと思うと、カラコンを外したようだ。

 まるで将烈のようだと思った者もいるが、セレイドの本当の目の色は紫色で、傍から見れば綺麗と思えるものだった。

 「もともと、白魔女の血を引く者は、銀髪に青い目だった」

 その白魔女の名は、サブリナ=ジュノドワ―レといい、『最後の白魔女』と呼ばれた女性だった。

 純潔を守り抜いたサブリナは、自分で白魔女を終わらせようとしていたのだが、ある日水浴びをしていると、大蛇が現れたという。

 彼女の猛り狂う様は、まるで悪魔に取り憑かれたようだったとも言われている。

 その大蛇によって、サブリナには男女の双子が生まれた。

 時を経て、再び『最後の白魔女』と呼ばれるようになったのが、サブワロールという女性だ。

 彼女はこれまでの白魔女の血を受け継いだにも関わらず、赤い目を持って産まれて来た。

 それは新しい魔女の誕生でもあり、悪魔と血を交えた結果だとも言われているが、真意の程は確かではない。

 「俺の母が白魔女で、やっぱり赤い目だったのを覚えてる。母は人間の男を好きになり、身ごもった」

 「それがお前ってことか」

 「いや、母は流産したんだ」

 「流産・・・」

 お腹から子供が消えてしまったことに落ち込んでいた母親だったが、それからすぐ、母親のお腹には再び子が宿った。

 しかし、それはその人間の男との交じりなど一切ない時のことで、人間の男は怒り嫉妬したという。

 さらに、そのお腹は数カ月で膨れてしまい、人間の男は母親を家から追い出した。

 恐ろしい、汚らわしい、そんな言葉を毎日のように浴びせられたらしい。

 ようやく産まれたのがセレイドなのだが、生まれた時にはすでに両目は紫色で、母親は酷く驚いた。

 「俺もまた、新しい血で出来ているんだ。白魔女なのかただの魔女なのか、それとも悪魔なのかさえ分からない・・・」

 セレイドが物心ついた頃、病気に倒れた母親に人間の男がいたことを聞いた。

 その男に酷く怒りを持ったセレイドは、男を探しだし、見つけ、そして・・・。

 「俺はその男を、殺した」

 「・・・・・・」

 「それからすぐ、母も身を投げた。俺のせいで、二人が死んだ」

 「・・・お前のせいだとは思わねえし、俺はお前が悪魔だとも思わねえ。ただ愛想が悪いだけだな」

 ケラケラと笑いながら言われたものだから、セレイドは少しぽかんとしてしまった。

 そのまま今度は大我が話す。

 「俺は親に棄てられた身だしよ、ま、お互い親なしってことで仲良くしようや!!」

 「・・・・・・」

 その大我の言葉に、セレイドは小さく笑うしかなかった。

 また新しい煙草を吸い始めた将烈が、腕時計を眺めてこう言った。

 「お、俺達もそろそろ行くぞ」

 「「はい」」

 「おい、そこの自分の人生を悲観してる魔女野郎」

 多分自分のことだろうと察したセレイドが将烈の方を見ると、将烈は出口に向かいながら煙を吐く。

 「魔女は罪人じゃねぇから、とっととここから出て行きな」

 「・・・はい」

 「ま、これからもあいつらみてーな奴らに狙われることになるかもしれねぇけどよ、俺らの仕事には警備ってもんも含まれてる。大我ならいつでも貸してやるから、困ったことがあればすぐに言いな」

 「将烈さん、俺安売りしすぎですってば」

 「それと・・・」

 セレイドの隣で足を止めると、将烈は声を小さくしてセレイドだけに聞こえるように言う。

 「その目の中の物、盗られねえようにな」

 「・・・!!!」

 そう言って部屋を出て行く将烈と、将烈の後をついていく波幸と火鷹。

 残された大我は首を傾げ、将烈に何か言われたのかと聞いてみたが、なんでもないと答えた。

 そしてまたカラコンを入れ直していると、大我が「あ」と大きな声を出した。

 「俺の師匠、超強ぇから、そこに行ってみればいいんじゃね?」

 「師匠・・・?」

 「ザンギって言うんだけど、とにかく強ぇから!!安心安全!!」

 将烈は、大我にセレイドを安全な場所まで連れて行くよう言われたため、そのザンギという男のもとまで連れて行くことにした。

 長旅になりそうだが、大我は山登りが楽しみだとルンルンしていた。

 「そういやお前、諜報部員がどうとか言われてなかったか?」

 「ああ、あれ?そうそう。もともと将烈さんに雇われてたんだけど、途中であの間ノ宮?とかいう奴に雇われたから。報酬二倍だし♪将烈さんにもOKもらったから、諜報部員ってことになってた。諜報部員の諜報部員・・・??」

 「・・・あの男、何者だ?」

 「将烈さんはよく分かんねえけど、あの人は信頼出来る。野性の勘!!」

 「・・・・・・」




 「それにしても、まさか炉端が作ったセキュリティが破られるとはな・・・」

 「そうですねぇ・・・。びっくりしましたよ。俺が一番驚いてますからね。自信作だったんですけど、やられましたね。向こうには、俺より上手がいたみたいですし、セキュリティの見直しが必要ですね」

 「ああ、頼む。間ノ宮さんがあんなことになってしまって・・・。早くあの将烈を潰さねば」

 上司と話をしていると、健の電話が鳴ったため健はその場から離れた。

 「はい」

 《たけるか》

 「そうだよ。久しぶり、波幸」

 《将烈さんが礼を言っていた。それと、そろそろこっちに来ないかって》

 「律儀だねぇ。お誘いは嬉しいけど、俺はここにいる心算だよ。ずっとね」

 《なんでそこにこだわるんだ?下手したら、お前だって一緒に捕まるぞ》

 「なんでって・・・」

 健はちらっと、自分がいつも過ごしているその部屋を見てから、こう続ける。

 「こっちにいる方が、堂々と情報盗めるだろ?」

 《楽しんでるだろ》

 「分かる?」

 《まあ、将烈さんはいつでもこっちに来ていいって言ってるから、あとはお前次第だ》

 「あいよ。将烈さんには世話になってるし、ここでの立場が危うくなったらお願いするかもな」

 《わかった。まあ、それだけだ。無理はするなよ。そっちには将烈さんの敵が多いんだから》

 「心配すんなって。バレそうになったら、別の奴を身代わりにするよ」

 波幸と電話が終わって自分のデスクまで戻ると、今度は携帯にメールが届いた。

 そこには、“稚夜”と表示されていた。

 「・・・・・・」

 器用に素早くメールを返すと、椅子に凭れかかって伸びをする。

 「さて、仕事するか」




 かつて、白魔女と呼ばれた女性がいた。

 その女性は純潔であるにも関わらず身ごもったことで、自らを呪われた存在だと思った。

 しかし、それは決して呪いなどではない。

 大蛇の正体を知った別の白魔女は、自分たちの血は途切れさせることなど出来ないのだと悟った。

 どれだけ祈っても叶わない夢のように。

 終わることのない輪廻の中で、手を繋いで一緒に堕ちていきましょうと。


 この世で最も穢れているのは、誰か。

 そして、また新たな血が生まれるのを待つ。




 「まだ着かないのか」

 「まだまだああああああ!!!」

 「・・・はあ。選択見誤ったか・・・」


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