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暗紫色  作者: うちょん
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寸善尺魔



 第三章【寸善尺魔】














 「ここなら安全だろう」

 「すっげ。ここ教会か?」

 定室が、隠れるにはうってつけだろうと言ってみんなを連れて来たのは、古びた教会だった。

 以前、仕事の関係でここの近くを通りかかったとき見つけたらしく、こういう場所には物騒な男たちは近寄らないだろうということだった。

 ステンドグラスは綺麗に輝いているし、教会の奥にあるパイプオルガンもまだ美しい音色を奏でそうだ。

 「ここの教会を管理している、神父デイジーとシスターベルガモットだ」

 「ようこそ」

 定室に紹介されたのは、デイジーという茶髪の神父と、ベルガモットという前髪が綺麗に揃えられている黒髪のシスターだ。

 二人はサラムたちを受け入れ、食事と寝床を与えた。

 食事と言ってもとても質素なものだが、ここのところ野宿ばっかりだったサラムたちにとって、暖かい寝床は有り難いものだった。

 教会には祭壇のようなものもあり、その後ろには羊の頭に黒い角、背中には黒い翼と思われるものが描かれた絵画が飾られている。

 正直、教会に飾る様な絵画では無いと思ったものの、人それぞれというか教会それぞれなのだろうと思い、特に何も言わなかった。

 マリア様やイエス様のものが何一つないというのが気になったものの、それも教会それぞれなのだろうか。

 ゆっくり休む時間が無かったため、すぐに寝てしまうかと思ったが、なかなか寝られなかった。

 大我は寝床とは別の部屋を徘徊していると、黒田がやってきた。

 「おう、お前も寝られないのか?」

 「・・・お前に聞きたい事があってな」

 「?聞きたい事?」

 ただでさえ強面の黒田に睨まれた?いや、ただ見ているだけかもしれないが、それでも睨まれていると思ってしまうほどの目つきで、大我は口角をいつもよりあげて笑った。

 黒田は大我の前を通り過ぎると、そこに飾られている、先程のものとは違う山羊の絵を眺めながら口を開く。

 「お前、昨日誰かと話してたよな?」

 「え?何のことだ?」

 「聞いたんだよ。お前、誰かと連絡取ってんのか?もしかしてお前」

 「何言ってんだよ!俺は誰とも話なんかしてないし、そもそも、どうやって連絡なんて取るんだよ?黒田の勘違い勘違い!」

 にへら、と笑いながらそういう大我を、黒田は表情を変えずに見ている。

 そんな黒田の視線が思っていた以上にトゲトゲしていたのか、大我は笑みを崩さぬまま否定を続ける。

 「俺、独りごととか結構ぶつぶつ言うタイプだからさー。おかしい奴だなーと思っても温かい目で見守ってくれよ」

 「・・・わかった」

 まだ納得していなさそうだが、とりあえずは大我の前から姿を消した。

 そのまま寝床に向かうと、目を瞑っているサラムの横に身体を寝かせる。

 「あの大我って男、どう言う奴なんだ?」

 「知らない。逃げてる途中で会っただけだ」

 まだ寝ていなかったらしく、サラムは黒田の問いかけに対し、目を瞑ったまま答えた。

 その後しばらくしてから寝てしまったようだが、大我が寝床に戻ってきてから寝静まるまで、黒田が眠ることはなかった。

 翌日、サラムが起きるとすでに起きていた清涼は、教会に寝泊まりしている子供たちと遊んでいた。

 穏やかな表情をしているからか、懐かれているようだ。

 サラムはそれを特に気にすることもなく、顔を洗いに向かう。




 「ケン坊」

 「はいはい、ちゃんと仕事してますよ。このクマ見てくれると助かりますね。どうしてこんなに俺のところに仕事が回ってくるんですかね。こういうのをブラック企業って言うんですかね」

 「そう言うなケン坊。おしるこ買って来てやったから」

 「俺の時給はおしるこじゃ賄いきれませんよ。もらいますけど」

 間ノ宮からおしるこを受け取ると、健はパソコンのとある画面を見せる。

 そこには、今現在、誰かの居場所と思われる印がついており、それを見た間ノ宮はすぐに携帯を取り出して素澤に連絡を入れる。

 仮眠を取っていたのか、電話に出る時少し不機嫌そうな声をしていたが、間ノ宮は気遣う様子もなく話をした。

 「さすがだなケン坊。頼もしいよ」

 「そう言うなら、もっと給金上げてほしいですね。それかボーナス。月にどのくらいの目薬消費してると思います?」

 「ありがとう。本当に助かるよ」

 「俺の話聞いてます?俺の声超音波になってないですよね?聞こえてますよね?」

 「この調子で頼むよ」

 健の肩をぽん、と労う様に叩いて部屋を出ていってしまった間ノ宮に、健はもらったおしるこを両手にもって大人しく飲むしかなかった。

 間ノ宮から連絡を受けた素澤は、すぐに動き出した。

 部下たちを連れて目的地へと向かうと、陽が暮れるのを待った。

 ただじっと気配を消して、その時を。

 ようやく空が暗くなってきても、素澤たちは教会の中から灯りが消えるまでまたじっと待つ。

 「よし、行くぞ」

 それまでずっと耳につけていたイヤホンを取ると、素澤は部下たちに指示を出す。

 教会を取り囲むと、一斉に突入する。

 素澤たちが教会に乗り込んだ時、まだ熟睡していなかったサラム達もまた、起き上がって臨界体制に入っていた。

 「一体なんだ?」

 「分からないが、狙いはサラムだろうな」

 定室と清涼が冷静に話をしている間、黒田はすでに銃を手にしていた。

 奥の部屋で寝ていたデイジーとベルガモットも起きてきて、一体何事かと慌てていた。

 「出口は正面の扉だけですか?」

 「いえ、この奥に隠し扉があります」

 「じゃあ、そこから逃げよう」

 そんなことを言っていると、部屋に武装した男達が銃を持って入ってきた。

 「流れ弾に当たるなよ」

 黒田はそう言うと、いきなり相手に向かって銃を撃ち始めた。

 躊躇なく撃っているところを見ると、日頃から銃の扱いには慣れているのかもしれない。

 装着している分の弾を撃ち終えると、腰に大量にまきつけてある交換用と瞬時に入れ替える。

 銃を持っているのは黒田だけではなく、定室と清涼も応戦する。

 デイジーとベルガモットがサラムと大我を先に避難させようと動き出したその時、男たちが撃った銃弾がベルガモットの心臓を撃ち抜いた。

 「ベルガモット!!」

 まるで真っ赤な薔薇が散るように、ベルガモットの身体からは真っ赤な血が綺麗な曲線を描いていく。

 床に勢いよく倒れてしまったベルガモットのもとへデイジーが向かうが、すでにベルガモットが助かる見込みはなかった。

 「どうして・・・こんなことに!!」

 「おい・・・」

 大我がデイジーに声をかけようとした時、別の銃弾がデイジーの腹を撃ち抜いた。

 そのまま床に伏してしまったデイジーのもとへ大我が駆け寄ろうとしたのだが、あまりにも銃撃戦が激しくなってしまったため、デイジーのもとへ近づけなかった。

 黒田たちの銃弾も減って行き、人数的にも圧倒的に不利なこの状況の中、最初に動き出したのは素澤だった。

 この戦況において、武器も権力もある最も厄介な男。

 一気に清涼のもとに近づくと、手元を狙って銃を弾き飛ばし、そのまま清涼の後ろに回り込んで床に押さえつけた。

 「くっ・・・!!」

 「お遊びはここまでだ」

 背中にどかっと座られてしまったため、清涼は全く動けなくなってしまった。

 腕も背中側で拘束されてしまっているため、抵抗することもままならない。

 素澤はくちゃくちゃとガムを噛みながら髪の毛をかき、それまで持っていた長距離用のライフルから、腰に収めていた黒田達と同じ形の銃に持ちかえる。

 そしてそれを清涼の頭に突きつける。

 「銃を下ろせ。んでもってその銀髪野郎をこっちに寄こしな。じゃなけりゃあ、こいつを殺す」

 素澤の言葉に、定室と黒田は互いの顔を見合わせると、二人同時にこう言った。

 「「断る」」

 「・・・そうか。それは残念だ」

 サラムを引き渡すことを断ると、素澤は銃を発射出来るようにすると、銃口を清涼の太ももに向けて撃つ。

 「っ・・・!!」

 「清涼!!」

 「てめっ!!」

 清涼の足からは赤いものが流れ出てきて、あっという間に赤い水溜まりを作る。

 撃った張本人は表情ひとつ変えずに、確かに銃弾が入っていて、撃つ意思があるということを見せた上で、再び銃口を清涼の頭につける。

 「舐められたもんだな。俺がそんなに優しい男に見えるのか?まあ、優しいっちゃ優しいけどな」

 本気なのか冗談なのか、素澤の声からはどちらとも言い切れない。

 「舐め腐ってんじゃねえぞ。こいつの脳味噌ブチまけたくなかったら、そいつよこせって言ってんだよ」

 「・・・・・・」

 黒田が銃を下ろそうとしたとき、定室が黒田の前に立つ。

 「おい」

 「仕方ねぇだろ。あいつら頼んだぞ」

 その様子をじっと見ている素澤は、ぷう、とガムを膨らませると、パンッ、と弾いてまた噛み続ける。

 定室は自分の腰あたりを触って、あとどのくらい弾が残っているかを確認すると、自分の後ろにいるサラムたちに向かって叫ぶ。

 「早く行け!!」

 定室の声が響き渡ると、黒田はサラムたちの方に一気に走りだし、奥にあるという隠し扉まで向かった。

 男たちがサラムたちを追いかけようとするが、定室が立ちはだかる。

 黒田が追手が来るかを確認しながら走っている間にも、後ろからはパンパンと激しい銃声が聞こえてくる。

 清涼の背中に乗っていた素澤が、ライフルに持ちかえて定室を撃つと、定室は意識を失ってしまった。

 清涼の最中から下りると、素澤は清涼を撃った銃を腰に戻し、部下たちに言う。

 「さっさと追え。お前等は入ってきた扉から裏に回れ」

 「はっ」

 サラムたちを追いかけていった部下たちを見届けたあと、素澤は携帯を取り出して電話をかける。

 なぜか留守電になってしまったため、立て続けに何度も何度もかけ直すと、相手も諦めたのかようやく出る。

 「おい炉端、すぐに出ろ」

 《どうせ仕事の話かなーと思ったんですけどねぇ》

 「仕事の話だからさっさと出ろ。今、あの男に逃げられた。逃げた先を調べろ。すぐにな。出来れば30秒以内に」

 《無茶苦茶言うのは間ノ宮さんだけかと思ってましたけど、ここにもいましたね。それより、この前のおしるこの約束はどうなったんですか?まだ持ってきてないですよね?てめぇの約束を守る前にまた仕事の話なんて、人としてどうかと思うんですよね》

 「一々五月蠅ェ奴だな。で?」

 《もうちょっと》

 電話の向こうでパソコンをいじる音が聞こえていたため、健が文句を言いながらも調べていたことを素澤は分かっていた。

 急かしてはいるものの、ガムを噛んでいるその光景はいつも通りで、決して焦ってなどいないだろう。

 素澤は電話をしたまま歩きだし教会を出ると、後ろを振り向く。

 少しだけ顔をあげればそこにある綺麗なステンドグラスが、銃撃戦のせいで割れてしまっている。

 地面に落ちている破片を踏みつけると、素澤は顔を戻してまた少し歩く。

 向こうからの返事が来るのを待っていると、それからすぐに来た。

 《出ましたよ。詳しい場所は・・・》

 「ああ・・・わかった。今度激辛あんこ送るよ」

 健の返事を聞く前に通話を切ると、素澤は健に教えられた場所に向かうため、部下たちを呼び寄せる。

 結局逃げ切られてしまったらしく、部下達は素澤に何度も謝っていた。

 「まあしょうがねえな。炉端には奴らの動きが止まったら連絡寄こすようにも言ってあるし、とにかく言われた方に行ってみるか」

 そう言うと、素澤はイヤホンをつける。

 素澤から謎の物を送ると言われた健は、その頃大きく首を捻っていた。

 隣にいる人に、激辛あんこと言う物を知っているかと聞いてみたが、やはり誰も聞いたことがないらしく、ネットを調べてみたものの、それに該当する物は無かったそうだ。

 デスクの上に置いてあるおしるこを眺めながら、試しに唐辛子を入れて飲んでみたが、美味しくなかった。




 素澤たちが教会からいなくなった頃、微かに動く影があった。

 腕を伸ばして床を這いつくばるようにしながら動いているその影は、血で道しるべを作っている。

 小刻みに手が震えているのは寒さからではなく、意識の問題だろうか。

 「くそっ・・・!!あいつら!!」

 なんとか出る声さえ、ほとんど息を出す状態だ。

 ずるずると床を這いながら、何処かへと向かおうとしていると、目の前に人影が現れる。

 「はあっ・・・はあっ・・・!!?お、お前・・!?あ・・・どうして・・・」

 足元に転がっているその人物を見るや否や、冷たい目つきで見下し、さらには冷たく黒光りしているものを突きつける。

 顔の正面に向けられたそれは、床を這うその人物からしてみれば“死”の象徴そのもの。

 銃口の向こうにいるその人物は、平然とその引き金を引く。

 顔面から床に顔を伏したのをじっと見てから、どこかへと連絡を取ろうとするも、ふと聞こえて来た子供の声に反応する。

 あれだけの銃声、起きてしまったのかもしれないと思ってしばらくそこに留まってみたが、子供たちがこちらに来ることは無かったため、そのままにしておいた。

 いつもは一緒に寝ているベルガモットたちがいないため、ぐずっている子供がいるだけなのだろう。

 携帯をスピーカー状態にして何処かに電話をかけると、相手はすぐに出る。

 「ええ、言われた通りに。子供たちはどうします?」

 話ながら、携帯を横に置き、自分の足を触って何か板のようなものを取り出していた。

 それを取ると楽になったらしく、動きを確認するように、その場で何度かジャンプをしたり屈伸をする。

 《ガキは殺すな。飼い慣らす》

 「ドクロに渡すんですか?」

 太ももを軽く叩いたあと、置いてあった携帯を手に持って話を続ける。

 《ああ。言い値で取引するよう話はつけてある。傷ひとつ付けるなよ。商品価値が下がるからな》

 「わかってますよ。じゃあ、ある程度片付いたらまた連絡します」

 電話を切ると、首をさする。

 先程の銃撃戦であちこち窓が割れてしまっているため、隙間風が入ってきて少し寒い。

 まだ寝ているであろう子供達のもとへ行ってみると、すやすやと寝ている幼い子供たちが大勢いた。

 「これだけ集めるとはねェ。さすがだ」

 子供たちの寝床に入り、適当に見渡しながら歩いていると、一人の子供が起きた。

 声を発する前に頭を撫でてやれば、その子供はまた瞼を下ろして寝始めた。




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