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友人

気がつけばブクマ100件超えてました‼︎ありがとうございます‼︎

私は動揺して踊っている男性の足を踏んでしまう


「あっ、申し訳ありません」


私は慌てて頭を下げる。それと同時にダンスが終わり、もう一度スカートをつまみ頭を下げるとリアトリスの姿が目に入らぬよう、友人のもとへ向かった


私は食事の並べられた机から少し離れた壁際に立っている、淡い緑の髪に薄い空色のドレスを身に纏った少女に声をかける


「御機嫌よう、マーシャ」


「あら、御機嫌ようエミリア。今宵は楽しまれてるかしら」


「ええ、先程踊っていた男性の足は踏んでしまったけれど…」


「ふふっ、エミリアはダンスがあまり得意ではないものね」


「リズム感覚がないのかしら」


「歌は得意だからそういうわけではないとは思うけれど」


そのまましばらく会場の中心を背に向けたまま会話する。

夏の長期休みの間の話をしている時に、マーシャが会場の中心を見つめ少し驚いたような声を出した


「あら、今殿下がお相手しておられる方、見たことないけれどとても美しい方ね」


え?と私は振り返る

その時、気づけたはずだ。ピンクの髪をフワリと揺らしながら殿下と踊り笑っている彼女を、私はよく知っている

気づいて、振りかえなければこんなにも苦しくならずに済んだのに


「…リアトリス=アルテスト」


「あら、エミリアは知っておられるの?」


「…ええ、少しだけれど」


「そう…やっぱり、まだ慣れない?殿下が他の方のお相手をしているところを見るのは」


「そう、ね。まだ慣れないわ」


手を胸の前でギュッと握る。心臓が痛くて、苦しくて。

彼女はいつも殿下が私以外の女性と話したり踊っている姿を見るのを好んでいないのを知っている。

本当は、今はリアトリスといるところだけを見るのが嫌なだけれど

泣きそうになるのを必死でこらえると、私はくるりと振り返り、マーシャの優しい黄緑の瞳を見た


「私、少し夜風に当たって来るわ」


「…そう」


彼女は私の気持ちを察してか、一言だけ返事をして立ち去っていくのを見送ってくれていた






私は会場の中にいるのが嫌で、バルコニーへ出た

私以外誰もいなくて安心する。

1人で立っていると、涙が出てくるのがわかった


ーー見なければよかった。


先程の殿下とリアトリスが笑いあって踊っている姿を思い出し、さらに涙が流れる


ーーわかっていたわ。応援すると決めた。でも、なぜ、どうして…


再び出てくる醜い感情に、涙が止まらなくなる。


どうして私が我慢しなければならない

どうして愛してくれない

どうして彼女なの

どうして、どうしてーー


手すりに手を置きながら涙が止まらず空を眺めていると、カツッと足音が後ろから聞こえてきた

驚いて振り返ると、茶色の髪に橙色の瞳、深い緑の衣装を着た男性が立っていた


ーーとても格好の良い方ね。顔の配置が良くて女性の目を引きそうな顔をしているわ


まあ殿下ほどではないけれど、と思いながら動かないでいると、彼の口が動いた


「…大丈夫ですか?」


そう言って心配そうに私の顔を覗き込み、ハンカチを差し出してくれる


「え、ええ。大丈夫ですわ」


私は少し躊躇った後、ハンカチを受け取る。

多分泣いているから心配してくれているのだろう、と思いハンカチで涙を拭き取り微笑む


「…よければですが、少しお話しても?」


「え、ええと…」


名前も知らない男性と2人きりで話すのは如何なものかと思い少し戸惑っていると、彼の方から慌てて名乗ってきた


「あ、申し訳ありません。私はレイ=ジャーミンと申します」


「いえ。私はエミリア=ヴァンガーですわ」


私はスカートをつまみ礼をする


ーーレイ=ジャーミン…ジャーミン公爵家の3男だったかしら。


「では、ヴァンガー様。少しお話してもよろしいでしょうか?」


にっこり微笑みながらそう言うジャーミン様からは、特に悪意などは感じない。多分やましいことなども考えていないのだろう。


ーーなら、別に良いのでは?


どうせ殿下も今頃リアトリスと仲良くお話しているのだろう。長期休暇の間に遊びに行ったりもしているはずだ。

ただ普通にお喋りするだけ。別に問題ないじゃないか。

私はそう開き直ると微笑んで返事した


「もちろん大丈夫ですわ」




会話の内容はほとんど家のことだった。

ジャーミン家では、最近新種の宝石が発見されたらしい。まだ名前は付いていないが、アメジストと似たような見た目をしているのだとか。だいたいそのような話だった

話題が一区切りすると、レイが別の話題をふってきた


「ヴァンガー様は休日何をして過ごされているのですか?」


「休日は読書をしていることが多いですわ。本が好きなんです」


「へえ、私もよく読書するんですよ。『ジャックとスザンヌの冒険』って知っていますか?」


私はその名前を聞いた途端、バッと顔を上げ、レイの両手を私の手で握ってしまった


「ジャーミン様も知っておられるのですね⁉︎私、あのお話大好きですの‼︎」


私は嬉しさのあまり、淑女らしからぬ満面の笑みを浮かべてしまう。

言った通り私は本が好きで、特に『ジャックとスザンヌの冒険』は1番好きな冒険物語なのだ


私がレイの両手を取り、満面の笑みを浮かべていると、会場内からざわめきが聞こえてきた

私はそれで正気に戻り、慌てて頭を下げる


「も、申し訳ありません。つい同じ本を読んでいる人がいると知って喜んでしまって」


「いえ、大丈夫ですよ。それより、何かあったのでしょうか?」


「さあ…」


私とレイは会場の中を覗いてみる。すると、ちょうど私たちが立っている場所から見えるところに人が数人集まっていた

真ん中には、金髪の男性と数人の輪の外にピンクの髪の女性が立っており、そのすぐ後に2人は周りの使用人達に会場の外へ連れて行かれた

私の心臓が再び痛み出す


ーー殿下と、リアトリス=アルテスト…


私はその2人を見つけた途端、目線をレイへと向ける


「…殿下に何かあったようですね」


「手に持っているジュースを零されたようですね。…ヴァンガー様はジーク殿下の婚約者でしたよね?行かなくてよろしいのですか?」


私は少し考える。

もちろん私の気持ちとしては、今すぐ駆け出して殿下のところへ行って何があったのか聞きたい

でも、ここは私が出るべき場面ではない

近くにリアトリスがいるということは、あの物語の中で起こる“何か”かもしれない


「…令嬢の私が行っても邪魔になるだけですわ。周りの使用人に任せた方がよろしいでしょう」


「そうですか…」


「それよりジャーミン様。先程の話の続きをしませんか?私、あの物語について語り合える方を探していましたの‼︎」


悲しさと苦しさをごまかすために、私はニッコリ微笑み話題を変える


「そうですね、私もあの物語について色々話してみたかったです」


そのあと殿下のことを忘れるべく、私たちはその物語についてだけでなく普段の生活の話などもした

その間にわかったのだが、ジャーミン様は自分のことを『俺』と言うらしく、口調は令息らしくなくかなりラフな感じだった

最初にボロが出た時は焦って謝っていたが、そちらが話しやすいのならそれで構わないと言った

私も少し砕けた口調で話すようになった


「ねえ、ジャーミン様」


「なに?」


「私の友人になってくださらない?」


「…え、俺もう友達だと思ってたんだけど」


そう言って少し驚いたような顔をされた

どうやらすでに友人だと思っていてくれたらしい


「そうなのですか、それはとても嬉しいです」


私は微笑むと、右手を差し出す


「ではよろしくお願いいたします、ジャーミン様」


そう言うと、彼は苦笑して握り返してくれた


「別にわざわざこんな丁寧なことをしなくても」


「ふふっ。あ、そうだわ。私のことはエミリアとお呼び下さい。」


「わかった、エミリア。俺のことはレイで構わない」


「ではそうお呼びさせていただきますわ、レイ」


ちょうど帰るくらいの時間だと、私たちは会場を後にする。レイは私を寮まで送ってくれるらしい

本当は殿下と帰るべきだが、まだ会場には戻られていなかった。リアトリスもいなかったことから2人がどこかへ行っているだろうと思い、先に帰ることにした。


胸が痛んだことには、気づかないふりをして

読んでくださり、ありがとうございます‼︎


この2話でキャラ4人も出てきちゃったよ

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