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20/21

大好き

 私はフェオとリアトリス様の元を離れると、少し離れたところに見えた、緑髪の少女の元へ歩いて行った

 彼女の方へ近寄っていくと、誰かと話していることがわかる。相手は茶髪に黒の衣装を着た男性で、よく見たことのある背格好をしている


ーーあの方はもしかしなくとも…


「ごきげんようマーシャ。…と、レイ。お話中失礼します」


「あら、ごきげんようエミリア。殿下と離れてしまわれたの?」


「こんばんは。さっきは聖女様とフェオドール様の仲介役でもしてたのか?」


「…殿下は他の方との相手もありますから。ああ、ちなみにもう今はそれくらいで拗ねたりしていませんわ。リアトリス様とフェオのことに関しては特に何もしておりません、少し用があっただけです」


 それぞれ別の質問をしてくるので、本当の理由とは違うが嘘ではない程度の返事をする

 それより、私が今すごく気になるのが、2人がいつのまにか仲良くなっていたことだ。もしかしたらこのパーティーで仲良くなっただけかもしれないが、遠くから2人の会話の様子を見ていればそういうわけでもなさそうに見えた

 私がレイと仲良くなってから数ヶ月の間か、それより以前からの知り合いか。だがどちらにしろ2人の間に繋がりがあったという話はどちらからも聞いていないし、2人が話している姿を見たこともない


ーーそういえば3週間前、目が覚めてからレイと話をした時『バラデュール嬢が心配していた』というようなことを言っていたけれど、あの時には既に知り合いだったということ?


 そこそこのショックを受けつつ、やはり気になるので本人たちに聞いてみることにした


「あの、先程から気になっていたのですが…お2人はいつからお知り合いに?」


「あれ、エミリア知らなかった?」


「はい、どちらからも聞かされていませんわ」


「そういえばまだお話していなかったわね。私たち産まれたばかりの頃からの友人なのよ。お父様同士が学生の頃からの友人で産まれたばかりのときからよく会っていた、とお母様がおっしゃっいたわ」


「そうだったのね…」


 かなり仲は良いと思っていた2人が、実は産まれたばかりのころからの友人だった。という事実を数ヶ月もの間知らされていなかったのだ。ショックはかなり大きい

 とりあえず先程からお話ばかりしていたから喉が渇いた、と近くを通った方からアルコールの入っていない飲み物をもらうと一口飲む。別に拗ねているわけではない。何も教えてもらえなかったことが少し悲しかっただけだ

 急に黙り込んでしまった私に、気をつかったマーシャが謝る


「ごめんなさい。特に話すようなことでもなかったから言わなくて良いと思っていたのよ」


「俺はマー…バラデュール嬢が話してると思ってたから言わなくて良いと思ってたんだ」


「いえ、特に気にしていないので気になさらないでください。…レイは間違えるくらいならいつも通りの呼び方にしたら良いのではないですか?」


「人前ではやめといた方が良いかと思ってね」


 はあ、とため息をつくと手に持っている飲み物をぐいっと飲み干す。この話を続けてもショックが大きくなるだけだ、話題を変えようと思ったところでまだお礼を直接言えていなかったことを思い出す

 学園に通えなかったために、2人とはこの3週間ずっと会っていなかったのだ。だがマーシャとは文通をしていたので手紙でお礼を言っていた


「話題が変わるのですが、私が倒れてしまったときお二人にご心配をおかけしました。マーシャには手紙ではお伝えしましたが直接言えていませんでしたし、レイにはお会いしたときに言うことができなかったので今更となりますが…」


「ああ、そのことね。気にしないで。元気になってくれてよかったわ」


「俺はお礼を言われるようなことは何もしてないけどな」


「いえ、レイが部屋から出る直前『信じたいものを信じればいい』と言ってくださったでしょう?あの言葉で色々とはっとして迷わなくなりました。なのでとても感謝しているのです」


「へえ、そうだったんだ。たった一言だけど役に立てて良かったよ」


 はい、と言ってにっこり微笑んだ瞬間、背後からたくさんの女性たちの甘えたような声が聞こえてくる。何だろうと後ろに振り返れば目の前には青い衣装の襟元が見えた

 すごく距離が近いなと相手が誰か大体の予想がつき、一歩下がり顔を上げれば少しやつれ気味な整った顔が目に入った


「どうかされたのですか?殿下」


「…少し風にあたらないか?」


 殿下の後ろを少し覗き見れば、ポーッと殿下に見惚れている方や私をきつく睨みつけている方など、20人ほどの女性たちが立っていた


ーー今日は特にアプローチが酷かったようですね…


「わかりましたわ。それではマーシャ、レイ、失礼いたします」


 私は礼をすると殿下に差し出された左手に自分の右手を添えて歩き出す

 バルコニーに出ると、夜風がひんやりしていて丁度良いくらいの涼しさだった。そこから見える庭園にはこの時期に咲く花々が月の光に照らされながら咲き誇っている


 殿下は一度大きくため息をつかれると、柵に体重をかける。今までで一番疲れておられる様子なので少し心配になる。おそらく原因はあの20人ほどの女性たちだろう


「大丈夫ですか?今日はたくさん踊っておられるようでしたからお疲れになられましたか?」


「ああ、ありがとう。今日は彼女たちが今までの中で一番アプローチが激しかったんだ」


「…お疲れ様です」


 何といえばいいか迷い、結局無難な言葉を選ぶ。疲れを滅多にオモテにださない殿下がここまでとはよっぽどだったのだな、と思い少し笑ってしまう

 その様子を見ていた殿下は突然私の方へ手を伸ばしたかと思うと、そのまま腕を引っ張り、あっさりと私は殿下の胸の中へ埋まってしまった

 こうやってハグをするのは3週間前に問題が解決した日以来だ。あの日は嬉しさで恥ずかしがる余裕もなかったが、物語を知る以前は自分から抱きつくことが多かったとはいえ、ハグをされる側というのは照れてしまう


 ドキドキと聞こえてくる心臓の音。それは私のものだと思っていたが、よく聞けば殿下の音でもあった


「…殿下?」


「…ちょっと休憩させて」


 何故抱き締めてきたのか理由はわからないが、とりあえずと、自分の両手を殿下の背中に持っていく

 その体勢のまましばらく動かずにいると殿下の息が首にかかり、恥ずかしくなってくる

 そういえばこんなこと以前もあったなと王宮でのことを思い出していると、首元の赤い跡を思い出す


ーーああ、そういえば何か付いていたわね。その跡の意味、サリーが教えてくれたのだけど、何だったかしら。ええっと確か…


 『愛の証拠』という単語を思い出し、もともと早かった心拍がさらに早くなる

 これ以上抱き締められていると何か変なことを考えてしまうような気がしてきたために、私は両手を押し当てて腕から逃げようと試みる


「あ、あの、殿下。そろそろ…」


「…名前」


「…え?名前、ですか?」


 『離していただけませんか』と言おうとしたところで、突然言われた言葉を理解出来ず反復する。どういうことだろうか、と思い頭を上げればかなりの至近距離で殿下と目が合う

 あまりの近さに恥ずかしくなって視線を下げ、「どういう意味でしょうか」と問うと殿下は答えてくださった


「エミリア、夏の長期休暇明けからずっと僕のこと『殿下』呼びでしょ?もう前みたいに名前で呼んでくれないの?」


「…そういえば、そうでしたね」


 殿下に言われてようやく思い出す。話しかけるときも、心の中で呼ぶ時も"殿下"と呼ぶようにずっと気をつけていたために、いつのまにか定着してしまっていたらしい

 私が返事をした後、殿下が何かを話しそうな気配もなく私も黙り込む


ーー今日の殿下はスキンシップが激しい。殿下が近くにいる間はずっと心臓の音が激しい気がする…少し拗ねていらっしゃるみたいね


 殿下は昔から口数が減る時や、誰かに触れることが多くなるときは怒っているか拗ねているときが多い。そんな時は殿下の気に触れないように気をつけて言葉を発する

 少し照れながら話すと殿下はホッとしたような表情になり、頬から手を離し腕の力を少し緩めた。これならこの体勢から逃れられそうだと思ったのだが、今はそうするべきじゃないと感じ取り、視線を下げ殿下にその身を委ねた


 殿下の腕の中に収まりながら、バルコニーの柵の向こう側に見える庭園を眺めた。月光に照らされて白や赤、黄色や青や紫など色とりどりの花が咲いている

 昔殿下へのプレゼントとして花を渡そうと思い、ちゃんと思いを込めて贈りたかったために花言葉を調べていた時期があった。必要最低限しか覚えなかったために一部しかわからないが、ここから見える範囲の花の花言葉を思い出す


 たくさんの花を眺めていると、ふと一種類の花に目が釘付けになる。白、ピンク、紅紫色の小さな花


ーーあの花は、殿下が作ってくださった花冠の花だわ。名前はなんと言ったかしら。確か…


「…センニチコウ」


「え?」


 私が心の中でその花の名を呼ぶとともに、頭上から同じ言葉が聞こえてきた。驚いて頭をあげてその言葉を発した主の顔を見ると、彼は私を見てニコリと微笑んだ


「今エミリアが見ていたのはセンニチコウだろう、違う?」


「…いえ、その通りですわ。何故お分かりになられたのですか?」


「エミリアがじっと何かを見つめてたから、その目線の先を追っていったらこれかな、と思っただけだよ」


「流石ですね」


 殿下の洞察力に関心したところで、私はふと疑問に思い、それを口にだした


ーー殿下はあの日、センニチコウを使って花冠をお作りになって私に下さったけれど、花言葉を知っててお作りになられたのかしら…私は知らないけれど


「そういえば、センニチコウの花言葉は知っておられるのですか?」


 殿下は少し考えた後、口を開いた


「うん…確か、『不朽』と『色あせぬ愛』かな」


「ロマンチックですわね…?」


「まあ『色あせぬ愛』っていうのは素敵だと思うよ」


 そう言って殿下はバルコニーの向こう側の庭園、おそらくセンニチコウの植えられている場所へ目線を向けると、ぼそりと呟いた


「本当はその話題、僕が出そうかと思ってたんだけどなあ」


 どういうことだろう、と顔を上げ殿下の顔を覗けば、彼は少し困ったように微笑んでいた


「…エミリアは覚えてる?婚約する少し前、花壇の前で君が花冠を作ろうとして上手くできなかった時、僕がそれを見て同じ花で花冠を作ったことを」


 私が当たり前だというように「はい」と言いながら頷けば、彼は安心したように柔らかく微笑む


「僕は、その時君を好きになった。

正直喜ばせようとかそんなことも何も考えず、ただ君が泣きそうだったからご機嫌取りのつもりで作っただけだった。

花冠を作って手渡した時、君はとても嬉しそうに笑ってくれた。いつも僕と話すときは緊張していて笑顔もぎこちなかったけど、その時初めて自然な笑顔をこぼしてくれたんだ。


その時、この笑顔をずっと僕に見せて欲しい。この笑顔を守りたいと思った。絶対手放しはしないとも


そして君の10歳の誕生日のとき、僕はブレスレットとともにセンニチコウの花冠をプレゼントした。

『僕は一生、エミリアのことを愛し続ける』という意味を込めて。

残念ながら本人には気づかれなかったけどね」


 殿下の言葉を聞き終えると、私は腕を殿下の背中にまわし、ぎゅっと抱きしめた

 嬉しい。けれど恥ずかしい

 それが今の私の感情で、何と言えばいいのかわからなくて言葉を発せなかった代わりの行動だった


「こうしてもらえるのは3週間ぶりかな。…それより前は数ヶ月だけど」


ーーああ、そうだ。今私が言えばいい言葉は、もう決まっている


 私は顔を上げると、殿下の顔を見てふふっと笑う


「殿下…いえ、ジーク様。お慕いしております。愛しておりますわ。…以前も言いましたが、私もそれは絶対変わりません。…ジーク様、大好き」


 言ってやったわ、という顔で殿下を見れば、彼は頬を染めて照れておられるようだった


「…このタイミングで名前で呼んでもらえるとは思ってなかった」


「喜んでもらえてよかったですわ」


 満足気に頷いていると、突然視界が殿下のお顔だけでいっぱいになり唇に何か柔らかいものが触れた

 離れていった彼の顔を放心状態で眺めていれば、彼は少し悪戯っぽい笑みを浮かべ言葉を口にする


「僕もエリーのこと、愛してる。大好き」


「…ジーク様もこのタイミングで愛称で呼ぶのですね」


 照れ隠しのためにも軽く睨みながら言えば、ジーク様も満足気に頷いてみせた

読んでくださりありがとうございます‼︎


本編完結しました‼︎今度はそれなりに納得したエンディングをちゃんと書けたので満足です。

後は不定期でいろんな人の後日談的なものを載せる予定

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