8 パーティー結成
気づいたら床で寝ていた。
俺はもしかしたらベッドはいらないのかもしれない。人間だった頃は床の硬さが気になっていたのだが、今の俺は毛皮と脂肪の柔らかさしか感じない。
「便利な身体になったもんだ」
そういえば昨日は何も食べてないな。
「おはよー」
なんで当たり前みたいな顔して俺の部屋にいるんだこいつ。
銀髪ショートカットロリハーフエルフのシーブ。フレンチレストランのメニューに乗っていても不思議ではない単語だな。シーブはどこからか持ってきた椅子の上で逆立ちをしている。
はっ、見たことがある訓練だ。映画とかでアメリカ兵が逆立ちになっていた気がする。ここまでブレずに逆立ちを続けられるのはしっかりとした体幹がないとできない芸当だろう。
「パチパチパチパチ」
俺の手じゃ拍手なんてできないので、口と床を叩くことで拍手を表現してみる。シーブはこっちを見てニヤッと笑うと腕を曲げると跳び、華麗に地面に着地してみせた。椅子は反動で壁にぶつかって酷い音を立てた。
「まっ、訓練も冒険者の務めってわけ。ソロで潜ってるのに、D級なのはそれなりの実力あってのものだからね」
シーブは意外に強かったみたいだ。
「ところで昨日から気になってたけど、精霊使いってなんだ?」
「ステータス見る?」
名前:シーブ
種族:ハーフエルフ
クラス:精霊使い レベル10
スキル:
武術適性
【片手武器適性】
【爪術】
【短剣術】
【投擲術】
魔術適性
【召喚魔術】
【精霊魔装】
肉体補助
【軽業】
├[平衡]
└[立体機動]
【単独戦闘】
├[単独時戦闘ステータス上昇補正]
└[共同戦闘時ステータス下降補正]
感覚補助
【超直感】
├[探索]
├[見切り]
└[危険察知]
特異体質
【エルフの血1/2】
└[精霊契約]
アクションスキル
【タイガークロー】【ダブルスクラッチ】
【ラピッドアタック】
【精霊契約】
「アクションスキルはあまり使わないタイプ。初代ギルドマスターの言葉にこんなのがあるの知ってる? スキルはお前らの物じゃないってね。強い人はみんな言ってる。ステータスなど見るな。自分の腕を磨け! ってね」
一体どういうことなのだろう。
「私の特異体質のエルフの血で、私は精霊契約ができる。できるけど、それはあくまでもステータスに支えられたものだから、もしもステータスがなくなったら簡単にその契約はなくなっちゃう」
見ているとシーブの影が変な動き方をしている。まるで生き物のように……。
「大丈夫だってシェイド。私達はずっと一緒」
強い光で照らされたかのような影がシーブの身体に巻き付いている。何だこれは。何も影ができるようなものはない。紙みたいな薄っぺらい生き物だと言われたほうがまだ信じられる。
「これが私の契約精霊、シェイド。ちょっと人見知りだけど。仲良くしてあげてー」
「は、はははは」
影がペコリをお辞儀をした。俺が何を見たのかわからない。笑うしかない。なんだこの世界は。いや、考えるのはやめよう。こんな生物がいるのがこの世界なんだ。
魔法だ。これも魔法なんだな。魔法生物万歳。
「その精霊ってのは魔法の産物なのか?」
「魔法……魔法といえば魔法かなー。精霊に関しては神力って言った方が良いかな?」
またわからない単語がでてきた。
「神力ってなんですか?」
あー、そこからか。と笑われてしまう。
「じゃあ、今日は迷宮に潜って勉強でもしましょうか。その前に朝ごはんを。食べよう!」
朝ごはんはギルド内の食堂。人はそこまでいなかったが、やっぱり見られた。
「じゃあ、まずステータスの説明ね。そこからわかんないでしょ?」
トマトのスープとパン。そして芋だ。味はよくわからんが、不味くはない。質素! って感じの食事だがシーブはもぐもぐ食べている。見た目が見た目なので可愛い。世話を焼きたくなる。
俺は一瞬で全てを口の中に放り込んでおしまいだ。こんなんでカロリー取れるのかどうかはわからないが、あまり腹が減っていない謎。
「まずクラスレベル。説明が難しい……ギルドの依頼をこなしたり、素材をギルドに売ったりするとこのレベルが上がって、スキルポイントってのがもらえる。これでもらったスキルポイントを消費してクラスを変えたり、新しいスキルを買ったりできる」
「なるほどなるほど」
「そしてこのレベルには上限があって、自分が踏破したダンジョンまでのレベルしか上がらない」
「ということはシーブは10階までしか行ってないわけだ」
なんか睨まれた。
「こほん。えー、私は10階までしか行っていません。まずは冒険者ランクについて説明しましょう。このランクは昇格試験を受けることによって上がります。昇格試験を受けられるようになるのが、Eランクが5階。Dが10。Cが20。Bが30。Aが50階以上になります。冒険者のほとんどがE、Dに集まっていて、Cになると立派な冒険者。Bに至っては有名人ばっかり。A級は2、3人しかいないとも言われていますね。Eが初級、D、Cが中級、Bが上級って言われてます。そして冒険者は6人で組むのが普通です。そんな中、1人でダンジョンに潜ってD級っていう人も中々いないんじゃないですかね!!」
「はい」
完敗です。何も知らないのに口をだした俺が悪かったです。ここはしょんぼりと下をむいておくに限る。何故わざわざ下をむいて落ち込んでるアピールするかって? 俺がクマだからだよ!!
「となるとパーティーメンバーもだいぶ厳選しなきゃいけないな。俺、A級目指さなきゃいけないんだけど」
「いやぁー、青い青い。A級? 青いなぁ!」
めっちゃ馬鹿にしてくるけど。こいつは一体何者なんだ。
「別に俺もA級に行きたいわけじゃないんだけど、最低限A級はなきゃ話にならなさそうだからな」
「本気で言ってる?」
「もちろん」
だって俺のこの冒険者生活はいわゆるペナルティだ。やらなければいけない。
「1階に1日かかるとしても50日間をダンジョンの中で戦いづくめの日々を送らなきゃいけない。もちろんそれ以上かかる。食料は召喚魔術で何とかなるかもしれないけど。それでも本当に大変ってことわかってる?」
ああ、召喚魔術を使えば食料事情も消耗品事情も解決するのか。この世界って便利だな。兵站に頭を悩ませなくてもいいだなんて。召喚魔術を使える人がどれぐらいいるのかはわからないけど。
「わかってるも何も。やらなきゃいけないんだから目指すしかないだろう」
俺の目をじっと見てるけど、クマの白目がない目を見て何がわかるんだろうとは思うがじっと睨み返してみる。俺には決意はない。A級に上がるということが何を意味しているのかも知らない。だけど、俺はA級に上がらなきゃいけない。これは俺の命を賭してでもやり遂げなければいけない。それが筋ってもんだ。俺がそれを諦めたらあの忍者に殺されても仕方がない。
「わかった。私は貴方についていく。やらなきゃいけないって言うならやってやろうじゃない!」
「おお! その意気だ!」
気づかないうちに声が大きくなっていたのか、俺達は随分と目立っていた。そもそもクマと幼女っていうのが目につく。
「おうおう、シーブ。聞いたぜ? A級目指すって?」
ヤバそうなやつに絡まれた。金色モヒカンに釘バット。片目には眼帯をしている細身の男。そのニヤニヤ笑いは正直不快だ。いや、でもクマの身体が与えるストレス係数も中々のものだろうから俺は何も言えないな。
「何か問題でも?」
おお、シーブさんも中々強気じゃないですか。
「へっ、問題なんかねえよ。お前なら行けるさ」
なんか流れ変わったな。
「ふふん。そりゃ私ですから」
それと共に周りに座っていた冒険者から次々と声援が送られる。頑張れ、とかよく言った、とかそういったものだ。
「すごいな」
「16歳でD級冒険者でソロがいかにすごいのかわかりましたか?」
ドヤ顔をしているが、確かにシーブは俺が思っていたよりもすごいようだ。
「ツイードさんも一緒に行きますか?」
「いや、俺は弟達の面倒を見なきゃいけないからな。遠慮しとくぜ。はははっはは。良いなぁ。俺もB級目指すか。じゃあな。クマのことも今度紹介してくれよ!」
「はい。ツイードさんもどうかご無事で」
弟だという同じような服装のやつらを連れてツイードは出ていった。人は見かけによらないというか。少なくとも弟達は血は繋がってなさそうだ。
「シーブちゃん。大きく出たのぉ。これで景気付けられて迷宮内の死亡率が上がるのは良いことじゃ」
次に話しかけてきたのはおじさん。だが口調のせいか見た目よりも老けてみえる。そして言っていることは不穏だ。真夏の日の下にでたら死んでしまいそうなほどの全身鎧だ。兜はつけておらず、初代ギルドマスターのよりもシンプルな作りだが、銀色の胸の部分には大きくドクロのマークがついている。
「さっきのはCランク冒険者のツイードさん。私の先輩。良い人なんだけど、ファッションセンスがちょっとね。私も何回かダンジョン内で助けられてる。そしてこのおっさんはCランクソロ冒険者。ダンジョンで冒険者が全滅するところを見るためだけに冒険者になった変態。迷惑行為はしてないから冒険者の身分は剥奪されてないけど……」
とんでもないジジイだなこいつは。
「手厳しいのぉ……儂もA級には興味があるんじゃが……この老いぼれに夢を見させてやってくれんか」
「二つ名はそのまま死神。最近私がどんな風に死ぬのかを見たくて低層で私をストーキングしている危ないやつ」
「やはり若い娘が死ぬところを見るのはなんとも……人間死ぬ前が1番素が出るものじゃからのぉ。シーブちゃんのことは気に入っているのじゃよ」
いや、異常性癖持ちはお断りしたいんですが。
「でも、実力は折り紙つき。C級でソロにいるのはこいつぐらい。後ろから刺される事を考えなければ、良いんじゃない?」
「いや、無理でしょ」
「儂は重装歩兵だから刺すんなら後ろじゃなくて前からじゃな。もちろんそんなことはせんよ。証拠が残らないならともかく、ダンジョン内では死人に口なしなんてことはできないからのぉ。儂もこの仕事辞めたくないし。もちろんソロでやってるのもパーティーを組んでくれる人がいないからじゃな。普通の人じゃよ、儂」
どう考えてもお前は普通の人じゃないぞ。クマでもわかる。
そういえば、ダンジョンでは人は死なないとか言ってたな。なら良いのかもしれない。人の命が軽いからこそ、こんな異常性癖の持ち主でも雇える……いや、でもなぁ。
仕方ないのかもしれない。実力のあってマトモな人がもうパーティーを組んでる。実力があって組んでない人はシーブみたいに若いか、パーティーを組めないような致命的欠点を抱えてるかのいずれか。
可愛い女の子はだいたい彼氏がいるから振られた直後じゃないとチャンスはなくて可愛いのに彼氏がいない女の子は男がアタックできない何らかの理由がある理論と同じだ。
「この人以外にスカウトできそうな人は?」
「私は中級しか知り合いいないけどいないなー」
クソジジイは綺麗に整えた口ひげを撫でながらニコニコ笑っている。
「暫定採用で」
「ありがたい。A級を目指すとなると全滅することもありましょう。いや、こんな若い娘と二人きりのパーティーを組めるとは……」
ロリコンなのかな、この爺さん。業が深い人だ。
「いや、俺がいるぞ」
「クマは人に数えません」
きっぱりとした表情で言われちゃった。シーブはすごく嫌そうな顔をしている。
「タクマ、私が勧めたからこういうのも何だけど、もし変な動きをしていたら容赦なくパーティーから叩き出そうね」
「言われるまでもなくそのつもりだ」
「では、改めて自己紹介を。私が死神のラザレスです。C級でクラスは重戦士。よろしくお願いします」
「俺は大辻琢磨だ。よろしく頼むよ、爺さん。とりあえずダンジョンに一緒に行こうか」
「おお、貴方も冒険者ですか。よろしくお願いします」
この爺さんは何も知らないで俺達のパーティーに入ることを了承したのか。すごいな。
ありがとうございました。次回投稿は今日か明日のいずれかです。




