7 案内人
それで変化した後の俺のステータスがこれだ。
名前:大辻琢磨(オオツジタクマ】
種族:ボグベアー
クラス:魔獣使い レベル1
スキル:
固有魔導
【砂礫陣】【超再生】
魔術適性
【召喚魔術適性】
肉体補助
【手加減】
感覚補助
【意思疎通】
特異体質
【魔獣慣れ】
【魔獣】
アクションスキル
【従魔獣契約】
称号
【調停者】
└[仲裁権]
【異世界人】
└[自動翻訳]
【王都の赤い影のお気に入り】
なにやら、不穏な称号が追加されていますね。お気に入りってなんだよ。
「最初から優秀ですね。それに固有魔導も、残ってよかったですね。武術適性がないのは魔獣使いとしては珍しくありません」
そういえば櫻田さんのステータスには武術適性があったな。
「召喚魔術を持っている者にこちらから指導の依頼をだしましょう。召喚魔術は習得していて損はない便利な魔術です。例えば……」
エルサさんはポケットから一枚の紙をだした。そこには手に書かれていたのよりも複雑な魔導回路が刻まれている。
「私は召喚魔術に通じているわけではないので、このようなものを使うのですが」
魔導回路が静かに光ると紙ごとボロボロ消えた。それと同時に空中から落ちてきた剣をエルサさんが華麗につかみ取り、横に置く。
本当に中空から現れた両手剣。何のためにこれを召喚したのかはわからないが、恐らく舐めたことをいうと切るぞ。という意思表示だろう。ますますこの人に逆らうのが怖くなった。
激痛を感じるとか言ってたのに手に魔導回路を刻んでいるし、別に何を召喚していても良いはずなのに両手剣を召喚したりしている。見た目に似合わず武闘家タイプの人なのかもしれない。
「この剣は私の部屋の寝室から取り寄せました。私は召喚魔術の適性がないので指定されたところから指定されたものを呼び出すことしかできません。召喚魔術はその利便性から生活魔導と呼ばれますが、極めると戦闘魔導にもなりえます。もちろん極めるつもりがなくても便利な魔術ですよ」
なるほど。確かに遠くから物を持ってこられるのは便利かもしれないな。エルサさんはあらかじめ決められたところからしか持ってこれないし、使い捨てみたいだが自由自在に使いこなせるようになれば忘れ物をするだなんてことはなくなるだろう。
というかその両手剣、どうやって家に持って帰るの? 抜き身だけど。
「同じ魔獣使いの元で学んだ方が成長も速いでしょう。それもこちらから依頼をだしておきます」
「そんな色々してもらっていいんですか?」
「初代ギルドマスターの命なので、ギルドは全力でタクマさんを支援します」
頼もしいことだ。
「衣食住はギルド側で保証します。この街についても案内人をつけます。シーブ」
エルサさんが呼ぶと一人の女性が入ってきた。女性? 幼女だな。
「幼女だな」
俺が話したのを見て口が漫画みたいに開いている幼女。銀色のショートカットに腰にはナイフ。ブーツみたいな服に露出ゼロの長袖長ズボン。これはどこからどうみても幼女だろう。
「彼女はD級冒険者のシーブ。クラスは精霊使い。魔獣使いとも共通点があるクラスだから参考にもなるでしょう。ちなみに彼女はハーフエルフなので見た目の年齢と実年齢は違いますよ。彼女は16歳です」
ハーフエルフが何なのかは知らないが、16歳でこの体とは不憫なものだ。そして精霊使いとはまた珍しい。まず精霊ってものがわからないが、案内役なんだったら後々聞く機会もあるだろう。
「く、く、く、クマ!?」
「シーブ。貴方がパーティーメンバーが欲しいと言っていたのですよ? タクマさんは貴方にはもったいないぐらいだというのに……ほら自己紹介しなさい」
急にお母さん感が出てきたな。まさか……いやいやいやいやこのスタイルでってのはないだろう。たぶん面倒を見ているとかそんな感じだろうな。
目を白黒させていた幼女は俺にペコリとお辞儀をした。
「D級のシーブです。クラスは精霊使い……クマ?」
そこで何故首をかしげるのか。まだ俺がクマだということを認識していないのか?
「大辻琢磨だ。クラスは魔獣使いだ。冒険者見習いだけどよろしく頼む」
また口をパクパクさせている。なんだこの人。
「く、く、クマが喋りましたよ!」
クマのことを指差すのは失礼だってことを習わなかったのだろうか。
「シーブ。落ち着きなさい。タクマさんを部屋に連れて行ってあげて。タクマさん、何でもわからないことがあればシーブに聞いてください。シーブ、わかっていますね」
「は、は、は、はい。でもクマ」
「色々ありがとうございます」
「いえ、これも仕事ですから」
俺が廊下にでるとシーブも一緒に放り出されてきた。
「シーブ、よろしくな。年も近いし、タメ口でいいぞ」
茫然自失を体現したようなシーブの頭を撫でるとようやく意識を取り戻したようだ。
「な、何者ですか? そんな話すクマだなんて」
「いや、俺に聞かれても」
シーブは何やら深呼吸を繰り返してブツブツ言っている。
「おかしい。絶対におかしい。クマが話す? そんなクマが話すなんて。それにこれモンスターよね。なんで? なんで誰も反応してないの? 私がおかしいの?」
おお、葛藤してる。これが話すクマを見た正しい一般人の反応だろう。なかなか正しい一般人みたいだな。信用はできそうだ。
「細かいことは良いじゃねえか。案内してくれよ」
ヒョイと肩の上に乗せる。シーブは身体が小さいから二足歩行の状態でも肩に乗っかる。俺の身長の半分以下の身長だからな。
「おおおおお、下ろしてください」
「断る」
あんな風に現実を飲み込むまで待っていたら何時間かかるかどうかわからない。ここは俺という存在が危なくない。危害を加えないことをアピールするのが1番だろう。
その俺の超絶完璧な推理通りにシーブは落ち着いてきた。
「すみません。落ち着きました」
「敬語じゃなくていいぞ」
「私はシーブ。黒爪のシーブよ」
なんかやたらカッコいい二つ名をだしてきたな。それなら俺も中学生の時から考えてきた二つ名がある。
「俺はタクマ。地元じゃ両腕に邪竜を封印されし者。邪竜腕のタクマと呼ばれてる。よろしくな」
俺達はがっつりと握手をかわした。少し仲良くなれた気がしたのは俺だけだろうか。
シーブの説明によるとギルドの前のアパートにギルドが部屋を借りてくれたという。今は狭いが、二部屋分を借りたので、その壁をぶち抜いてクマサイズの俺でも不便なくしてくれるらしい。
「二部屋を借りるけど、一部屋になるからちゃんとそのことも伝えてとは言われたけど、まさか新入りがクマだなんて思わないでしょ……」
愚痴を吐くシーブに俺もうんうんと同意する。
「俺もまさか気づいたらクマになってるだなんて思ってもいなかったしな」
「それを笑いながら話せるメンタルの強さって……」
シーブは少し疲れているようだ。確かに話すクマと遭遇してパーティーを組むことが決定していたら疲れるかもしれない。
今のところは案内役のシーブと、ギルド側が雇う召喚術師の人と一緒にダンジョンに潜って冒険者としての基礎を学ぶという。
「そもそも魔獣が魔獣使いって……」
「消去方だから仕方ない」
俺が魔獣なのかは知らないが、それも仕方ない。
ギルドをでて徒歩2分。もうギルドの入り口から見える位置にアパートがある。ギルドから出る時はすごくジロジロと見られたが、そんな視線も気にせずに一瞬でアパートの中だ。
「202号室と203号室。トイレは共有で、中庭には井戸がある。水浴びはそこでできる。よーし、なんかやりたいことある?」
「いや、特に」
「なら、私は疲れたから203号室で寝る。いい? 絶対に一人で外にでないでね? 私が案内役になったのは一人で出ると討伐される可能性もあるってことでだから。いい? わかった?」
「はい。わかりました」
そんな寝たいオーラを出されたらもう何も言えないじゃないか。俺が頷いたのを確認すると満足そうに203号室に入っていった。それにしても寝るの早すぎじゃないか? 確かにもう少しで夕暮れといってもまだ明るいぞ。
アパートだが、廊下も広く天井も俺が立っても大丈夫とどことなく高級感が出ている。そして肝心のお部屋は……うん。普通だな。天井は確かに高いが、普通に狭い。今はベッドしか物はないが、というかベッド以外の物を置いたら俺は動けなくなる。シングルベッドを枕代わりに床に寝転がり、これからのことを考えている間に俺は寝ていた。
ありがとうございました。
次回投稿は明日です。




