6 クラスチェンジ
「初代ギルドマスターってのは?」
なんとなく予想はしているけど、あの巨大な鎧のことなのだろうな。
エルサさんの紫色の瞳が俺を射抜く、相当なやり手だ、この人。目が怖い。髪はミディアムでちょうど肩に触るぐらいの長さだ。そして髪も紫色。この人のイメージカラーは紫なんだろうな。この人には逆らわないようにしよう。
「あの鎧をまとった方です。私も話は聞いていましたが、実際に動いているのを見るのは初めてですね。普段はああしてギルドの象徴として各地にいらっしゃるのですが、何かあった時はああして動いて私達にギルドの威光を示してくれると伝えられています。様々な支配者がこの冒険者ギルドを利用しようとしてきましたが、その度にギルドマスターが動き対処してくださったといいます。全てのギルドを創り上げた方、それがギルドマスターです」
なんか宗教みたいだな。そんなに偉い人なんだあの人。確かに大きいし、強そうだしな。
廊下を通り抜け、たくさんの職員的な人が働いている場所を通り抜けた先にある部屋に俺は通された。ソファは人間2人サイズだが、クマの俺だと狭いぐらいだ。てか、いつ壊れるか不安なんだけど。
それにしても現代日本と変わらないような場所だ。ガラスがあって、綺麗な机に綺麗な服。ボロボロの服、いや服じゃないな。ボロ布だ。それを着ていたあの第一村人とは大きく違う。これが貧富の差というやつなのだろう。
丁寧にお茶まで持ってきてくれたメイド。メガネさんの前にはティーカップ。そして俺の前には鍋だ。来客に鍋をだすとは、なかなか臨機応変なメイドさんだ。
「ハチミツはいかが?」
これも俺にあわせてのことなのだろうか。俺がクマだから砂糖ではなく、ハチミツ? と思ったがメガネさんも同じくハチミツをいれている。確かにハチミツもお茶も何の変わりもなさそうだしな。
「たくさんお願いします」
俺にはその小さなハチミツスプーンは持てない。と思ったらツボをひっくり返して俺の鍋に入れやがった。顔に似合わずにワイルドなんだな。
「では自己紹介から始めましょう。私の名前はエルサ=カヴァン。エルサとお呼びください」
「あー、っと俺の名前は大辻琢磨です。よろしく」
異世界のお茶が紅茶かどうかなんて俺にはわからないが、色的には紅茶だ。
横でメイドさんがサラサラと俺の名前を書いたのが何か気になるが、それを言い出せる俺ではない。ここは密室。金髪のメイドさんにエルサさん。少し緊張しているのは、確かだ。
死に直面したさっきよりも緊張している。
俺は美少女には慣れている。なんたって後輩が美少女だからな。だけど年上のお姉さんには慣れていないんだ。そして胸部装甲の破壊力がな。うん、これ以上は何も言わないようにしよう。
「初代ギルドマスターから言われているのは、冒険者登録とクラスの変更ですね」
「そこからがまずよくわかりません」
クラス。俺のクラスがモンスターってのはわかるが、そもそもクラスってなんだ。地球にはこんなのはなかった。いや、俺のクラスが見えていなかっただけで学生だったのかもしれないが、それは俺が学生であるということを表しているだけで特に何があるわけでもない。
わざわざこのように書いてある訳とは。
「では、基本的なステータスの説明からしましょうか」
ステータス……。
「ステータスシステム。冒険者ギルドに登録すると与えられる恩恵です。簡単に言うと……冒険者ギルド所属の人だけに与えられる特別な加護、魔法です」
魔法なのか……なるほど。確かに魔法なら納得だ。
「クラスの説明に行きましょうか」
俺がうんうんと頷いているのを見て説明が進む。
「クラスというのは職業のことです。この職業によって習得できるスキルが変化したり、ステータスの隠し数値の補正が変わったりします。初めての方にもわかりやすく説明すると。スキルというものは魔法のことです」
「魔法」
「発声により発動するアクションスキル。これは魔法で火を出すのと同じようなものですね。そして常時発動しているパッシブスキル。これは魔法によって自分の身体が常に強化されているのと同じです。ステータスの隠し数値とは、この世界での相対的な戦闘力の高さを表す数値で、かつては可視化されていましたが、現在では表示されなくなっています。相対評価では数値が低すぎてモチベーションが下がり、絶対評価では段階をつける段階で戦争が起きかけたという話で、相対評価がありますがマスクデータとなっているそうです。ここまではわかりましたか?」
流れるような説明で素晴らしい。
スキルは使ったことがあるからよくわかる。つまり魔法なんだろう。
ステータスの隠し数値。そもそも戦闘力をどうやって計測するのかとか、相対的評価ってどうやって情報を集めるのとかも気になるが、魔法だったらできるんだろう。
魔法ってすごい。魔法バンザイ!
「それではクラスの鑑定をしましょうか。冒険者ギルドには必ず1人鑑定人がおり、適性クラスを書き出すことができます」
「書き終わりましたー」
メイドさんが書き出していたのは俺のステータスだったのか。それにしてもなんだこの文字は。
グニャグニャっとした見たことない文字だ。アルファベットに似ているが、なんだこれ。なんだこれ……だけど意味はわかる。うわぁ、気持ち悪い。なんで俺ここに書いてある意味がわかるんだろう。
「彼女は汎用文字を書くことができる文字使い(ワードマスター)です。この文字は読めますか?」
「エルサさーん、彼自動翻訳持ってるからわかると思いますよ? わざわざ私が書かなくても」
そういえばそんなスキルもあったな。
名前:大辻琢磨
種族:ボグベアー
クラス:モンスター
スキル:
固有魔導
【砂礫陣】
【獣心解放】
汎用魔導
【超再生】
称号
【調停者】
└[仲裁権]
【異世界人】
└[自動翻訳]
適性クラス
モンスター
極めて異例なクラス。私も見たことがないので何とも判別しようがありません。ステータス表示が固有魔導と汎用魔導に分かれているのはこれの影響だと考えれます。現在のモンスターのクラスを失った場合固有魔導と汎用魔導が消失する可能性も考えられます。これは特殊性の高いスキルにありがちなことですが、そうではない可能性もあります。しかし初代ギルドマスターによると、このクラスに留まるのは良くないらしいです。
戦士
最も基本的な戦闘を行う人のことを指します。このクラスは幅広くアクションスキルを習得でき、戦士はスキル頼りの戦い方をする傾向にあります。
魔術師
魔術師。魔導回路を刻む技術を持っていないとこのクラスは適性にはならないと思うのですが、元々自然の魔導回路が身体に組み込まれているからでしょうか。魔導回路を使った魔術を行使するクラスです。スキルはパッシブに偏り、パッシブスキルのアシストを受けながら魔術を使った戦い方をする傾向にあります。
狩人
獲物を狩ることに特化したスキルを取得できます。戦闘以外の狩るための補助的なスキルも取得できる便利なクラスです。罠を利用した狩りか、パーティーを組んで補助的な役割をする傾向もありますが、1人で戦う方がいないというわけでもありません。おおよそ万能なクラスです。
軽装歩兵
軍に所属されていたことはありますか? 集団行動で効果を発するようなスキルが多いです。歩兵系は兵同士でパーティーを組むのが一般的ですね。パーティーが決まっていないのならオススメはしません。
浪人
侍だったことはありますか? 侍の上級クラスです。侍が適性がないのに浪人に適性があるのは前代未聞ですが、私がモンスターを視るのも初めてなので何も書けません。刀専用のアクションスキルを持つクラスで、同じ刀用のアクションスキルを持つ侍と比べても攻撃的なスキルが多いです。
山賊
普段は書きませんし、オススメもしませんが貴方は特例なので。隠れる、奪う、交渉することに関係したスキルを習得できます。
魔獣使い
ほとんどが魔獣を操ることに関してのスキルになります。アクションスキルの数は少なく、魔獣を使役して戦うことが多いですね。どんな魔獣を使役するかによって大きく戦い方は変わります。あまり見ないクラスではあります。ね
こんな感じでーす。
これで終わりか。だいぶ軽い感じの人みたいだな。メイドさん。メイドさんの方を見ると青い目をこっちに向けて笑顔で手を振ってくれた眩しい。これは眩しいぞ。
メイドといってもフリフリのやつをつけているメイド喫茶にいるようなやつじゃなくて、スカートの上にエプロンをつけていて頭になんかつけてるだけでそう判断しただけだ。よくよく見るとスカートから見えるのはブーツだし、腰の部分はベルトでくびれを強調させているし、メイドではないのかもしれないがメイドに見える。そして可愛い。
万事適当な感じは伝わってきて、今もボーっと立っているように見えるが、その金色のツインテールからは活発な雰囲気が伝わってくる。くびれもあって引っ込んでるところは引っ込んでいて、出ているところは出ている。エルサさんほどではないが、良いものを持っている。
さっきも感じたけど、こんな幸せ空間に俺がいていいのだろうか。という気分にさせられる。
真面目にクラスについて考えるか。
パーティー……ってあのパーティーピーポーのじゃなくてゲームのパーティーか。段々この世界がわかってきたな。櫻田さんと話してた時も思ったけど、これはゲームだな。ゲームだ。
まず言わせてほしい。浪人ってなんだよ。侍がなくて浪人があるって、浪人になる可能性は確かにあったけど。これは間違いなくおふざけだろう。これもあの魔王か忍者かの誰かがおふざけでいれたに違いない。そしてクマの手でどうやって刀を持てと。
武器が必要そうな戦士、浪人は除外。山賊にもなる気はない。軽装歩兵もオススメされていないとなると、残るは魔術師、狩人、魔獣使いだ。
魔術師というのは中々にそそられる。だって、魔術を使えるんだぜ?
その点、狩人はなんか地味だ。狩人って何それ美味しいの? 何やるの? って感じ。
魔獣使いも興味がある。魔獣っていうのがわからないが、自分が戦うんじゃなくて育てるゲームは好きだった。コレクター性もあって、魔獣を集めるようなゲームは好きだ。
魔術師は魔導回路がなんかってややこしそうだから、魔獣使いがいいのかな?
スキルってのはまだわかるけど、スキルを使わないで魔術で戦うってのはよくわからない。
「何か質問はありますか?」
「魔導回路ってなんですか?」
そこが単純な疑問だ。急に回路とか中学生の時に習ったかもしれないな、程度のレベルのものをだしてこられても困る。
「これを見てください」
エルサさんが差し出した手の甲には複雑な入れ墨が入っていた。
「これが魔導陣です。専門の魔導師に入れてもらいます。これに魔力を流すことによって魔術が発動します。肉体に魔導陣を刻むと発動するたびに痛みを感じるので戦闘に使う時は物に刻んだ魔導回路に魔力を流して戦闘を行います。魔術師はこのようにして自分の杖や武器に魔導回路を刻み込んで戦うものを指します」
あー、無理そうだな。ちなみに俺はもう魔導回路は発動させたことがあるので、魔力の扱い方も櫻田さんよりもわかっている。ダンジョンマスターに負けないような強いクマになろう。
「魔獣使いになろうと思います」
「わかりました。魔獣使いで登録しておくので、数分待ってください。まりー、よろしく」
「はーい」
メイドさんがそのまま出ていった。
どこかで俺のクラスを登録するんだろう。
俺は鍋に顔を突っこみ残りのお茶を飲み干した。
だいぶ、ゲームっぽくなってきましたね。
お読みいただきありがとうございました。
次回投稿は本日です。




