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4 魔法忍者現る

「うわぁ! ひ、ひぃ……」

 塔を見上げて凄まじい高さに感心していると、急に怯え声が聞こえた。下を見ると小汚い男が腰を抜かして地面に転がっている。



「第一村人はっけーん」

「あ、助け……喋った?」

 そういや、今の俺はクマなんだった。


「ここらへんに村でもあんのか?」

「へ、へえ」

 めちゃくちゃビビってんな。確かに、いきなり塔が出来たら人が見にくるよな。それで塔を見に来たのがこいつか。村内カーストは低そうだな、服はボロボロだし。


「あ、あのなんでクマが」

「別にクマが喋ったっていいだろ? なんか文句あんのか?」

「ああ、いやぁ……」

 俺はクマの自分に慣れてしまったが、たしかに話すクマを前にしたら挙動不審にもなるだろう。俺がそのまま黙っていると男も落ち着いてきた。


「そ、それでこの棒は何なんだ?」

「んー」

 人に物を聞く態度っていうのがなってないな。格で言えばクマである俺のほうが圧倒的に格上。しかも俺がここで言っていいものかもわからないのではぐらしておくか。


「わからんな。急にできたよな。そしてこれは棒じゃなくて塔だ」

「と、塔?」

 塔が理解できていないようだ。確かに塔なんて日常生活で使わないもんな。農民、しかもこいつは知らなくてもおかしくなさそう。もっと偉い人、話が通じる人と話してみたいもんだ。


 なんか陽射しが急に強くなってきたな。世界にでっかい魔法陣みたいなのが見える。


「なんだあれ?」

「さ、さあ」

 さっきまではなかったよな。光が集まっている気がするし、それに加えて熱くなっている気がする。何なんだろうな。


「あー、もう手を焼かせるなぁ。嫌になっちゃうよ。こんな儀式魔法ぐらいレジストしちゃえばいいのに。あっ、どーもクマくんと村人さん」

「え?」

「誰?」

 いきなり握手を求められたからつい反応で握手しかえしてしまったが、なんなんだこの男は。見た目は忍者。まごうことなく忍者だ。一つ、忍者ではないといえるのはその顔についている仮面。その目の部分を隠すような真っ赤な仮面は明らかに忍者由来ではない。別の何かだ。


「ふふふふ、知りたいか? そうだな……聞いて驚け! 王都の赤い影、忍者仮面とは僕のことさ!」

 名乗りと共に七色の爆発がそいつの後ろで起きる。なんだこいつは。

 村人が腰を抜かしながらもはいずって逃げようとしていたので、ひょいとつまみあげておく。


「君が死ぬことで調停者の心身ともにぐわーってなって何のために呼び出したかわからないような状況になるのを避けるためにね。こうやって僕が救いにきたわけだよ。騎士団の連中、よくわからん建物によく儀式魔法ぶっ放せるよなぁ。倍返しされたらどうするんだろうね」

 俺が死ぬ?

「元王都の人間限定ヒーローである僕が、クマを助けることになるなんてなぁ……。儀式魔法自体を不発にしちゃえばいいじゃんって言ったんだけど、魔法打ち消すのに力使うよりも、お前が儀式魔法発動前に助け出せばいいとか言われてさ。黒に任せようと思ったら説明は俺がしたからお前がいけとか理不尽なんだよなぁー。あっ、これワンペナね? 死ぬのは避けられるけどそれ相応の代償は支払ってもらうから。えーと、なんだっけ?」

「ちょちょ、ちょっと待て。俺が死ぬのか? その儀式魔法ってのは俺が死ぬような」

 助けてもらえるのはありがたいけど、これってそんなに危ない状況なのか?


 それで黒って言ったけど、こいつはあの黒色の魔王の知り合いなのか? 説明したって言ってたし。あの零の魔王が黒ならこいつは赤か? もしかしてもっといるのだろうか。


「ああ、儀式魔法ね。非力なヒトが生み出した最強の魔法よ。いやぁ、やっぱり戦争って数なのかな? わかりやすく例えていうと、一人のヒトが湖を干上がらせて畑にしたいと思っていても何もおきないけど、千人のヒトがそれを思えば堤を作って川を迂回させてそこを干上がらせることができるってわけ。わかる?」

「わかるけど」

 ヒトは一人じゃ弱いけど、集まったら強いってことだろ? それでなんで俺が死ぬようなことが。




「それと同じ儀式魔法っていうのは数をそろえたら何でもできるって魔法。でも今回は小規模だからな。聖騎士レベルが30人? 各地の騎士団に伝令を飛ばして全員で祈ったら小規模のレーザー光線なんて簡単に打てるでしょ。あと何分かしたらここら一体熱線で焼き尽くされるよ。その他儀式魔法は色々面倒なのがあってね。ピンポイントで相手の生命を奪ったり、戦意をなくさせたり、それこそ蘇生術だって。いくらこの世界の運営者気取ってる俺達だってマトモに受ければただではすまない。魔導回路を使った魔術なんかとは比べものにもならない。本物の神秘だ。前まではこんなに多用してなかったんだけど。地球とこの世界の穴を塞いだから魔力がこの世界に停滞してるってのが俺達の結論だね」

 儀式魔法っていうのが何でもできる万能な、いわゆる魔法だっていうのがわかったが。

 ちょっと待て。あと数分?


「櫻田は!」

「大丈夫大丈夫。ここが現実改変されて消し去られるわけでもないし、ただの熱線だよ? システムによって作られたダンジョンがどうにかなるわけない。ダンジョンが魔法そのものだとしたら、このレーザービームは魔法によって起こされた現象だからね。全く、だから調停者にはこの世界についてのレクチャーしたほうがいいって僕いつも言ってるんだけどな。魔法と魔術の違いも何もわからないでしょ?」

「さっぱりわからん」

 呆れた仕草をされたが、これは俺の責任ではないと思う。


「ま、こんなところで立ち話してると君たちが消しとんじゃうから。準備でもしようか。後ちょうど30秒ぐらいかな。大丈夫大丈夫。僕が死なせはしないよ」

 やっぱり俺は馬鹿なのかもしれんな。なんか儀式魔法はすごいけど、こいつが助けてくれるって話しかわからない。


「空間が割れるわけでもないし、魔力を吸い取れるわけでも、不死身なわけでも、体内の原子を操れるわけでも、世界を停滞させるなんてこともできやしない僕だけどさ」

 その忍者は胸の前ですっと印を結ぶ。今見れば子供みたいな身長をしているな。


「人助けならこの赤の忍者におまかせあれ」

 急激に光が強くなってきた。地面が焼けるような暑さ。


「魔導忍法、飛身の術!」

 何かに突き飛ばされたと思ったら俺は草原にいた。本当に遠くに光の柱が見える。どっかの山の上なんだろう。随分と遠くにきたもんだ。

 しかし本当に一瞬で移動できたな。一体どうやったんだろう。これもまた魔法ってやつなのだろうか。


「ああ、うう……」

 あの汚い男も一緒だ。いつ見ても腰を抜かしてるな。こいつ。


「さて、二人とも無事だね? 瞬間移動だなんて中々できない芸当だからね。さすがは僕だ」

 ガッツポーズをしている忍者。もしかしてこれ成功率が低かったのだろうか。


「さーて、無事なのを確認できたところで。ペナルティの時間だ」

 あー、そういえばそんなこと言ってたな。




お読み頂きありがとうございました。

次回投稿は明日の予定です。


次回予告

クマが走るだけ。本当にそれだけ。

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