2話
むつは再び、キーボードを叩き始めたが、神経は後ろに居る山上の方に向いていた。まだ、鳥肌もおさまっていない。
ソファーでコーヒーを飲んでいるのは、本当に山上なのだろうか。それとも何か変な物を持っているのか、触れてきたのか、むつにはそこまで分からなかった。
すぐに帰るのも変かなと思いながら、むつはかたかたとキーボードを叩いて、レシートの数字を打ち込んでいく。
しばらくは、数字を打ち込んだり計算をしたりをしていたが、かぢゃんっと何かが割れる音がして、むつは振り向いた。
「どうしたの?」
パーテーションをどかして、むつが覗き込むと、山上がしゃがんでいた。
「ぼーっとしてて落としちまった。悪いけど雑巾持ってきてくれるか?」
「おっけ、破片危ないから触らないで。掃除機かけちゃうよ」
キッチンから雑巾とビニール袋を持ってきたむつは、大きな破片を拾ってる山上に袋を差し出した。
「悪いな」
「ん、気にしなくていいよ」
ふっと山上の方を見たむつは、少し違和感を感じた。利き手である右手で破片を拾って左手にのせてるなら分かるが、左手で拾い破片を1ヵ所に集めていたし、袋を受け取ったのも左手だった。右手は、だらんと下げられているだけだった。




