2話
颯介も帰ってしまい、辺りは暗い。そんな時間に誰かが来たとなると、むつは落ち着いていられなかった。
手に汗をかいていた。うなじの辺りの毛が逆立つような感覚と、腕にびっしりと出ている鳥肌で、人ではないと思った。
引き出しから札を出すと、指の間に挟んで待った。だが、エレベータからここのドアまでは大して距離がないの、なかなか入ってくる気配はない。それどころか、近付いてくる気がしなかった。
むつは携帯をポケットに突っ込み、ゆっくり立ち上がった。何かが来るまで待っていられなかったのだ。
この前、西原と一緒に居た時に不審者が来た時のように、音もなくドアの前まで行き深呼吸をするとばんっと大きな音とともにドアを開けた。
「っつ‼」
ドアを開けようとしていたのか、変な位置に手を持ち上げていたのは山上だった。
「あーもぅっ‼」
むつは、ぴりぴりさせていただけに、相手の顔を見て安堵と共に怒りが込み上げてきた。
「何してんのよーっ‼こんな時間まで顔も出さず電話も無視で‼どういうつもりよっ‼」
むつの声が人気のないビルに響き渡り、反響していた。ドアの前で怒られている山上は、へらっと笑っただけだった。だか、何だか様子がおかしい。いつもなら、へらへらと言い訳をするのに今日に限ってそれがなかった。
「とにかく…入る?コーヒーならいれてあげるけど?」
「あぁ、頼もうかな」