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2話
「うちの湯野と谷代には言わずに、わたしだけで動くんですか?」
「まぁ出来れば…だから、篠田君、西原君と宮前君を呼んでるんですからね」
「わたしたちに、むつの手助けをしろと、おっしゃるんですね?」
冬四郎の明らかに嫌そうな声が聞こえた。むつは、グラスを弄びながらどうしようかと考えた。
「職務に差し支えない程度で、玉奥さんから何かあれば出来る事をして欲しいと思いますが…玉奥さん。どうでしょう?」
晃に問われたむつは、すぐに返事が出来なかった。颯介や祐斗に黙って、社長である山上の行動を探るのは、なかなかに難しい。それに、そういうこそこそする事はしたくなかった。したくはないが、晃の頼みとなると断りにくい。
「今すぐにお答えするのは…少し考えさせて頂けますか?明日までで良いので」
「分かりました」
晃は、むつの顔を見て頷いた。晃からしても言い出しにくい事だったのだろう。
「わたしは先に失礼します。シャツはそのうち、お会いする事があればお返ししますので」
「えぇ。是非、近いうちにまたお会いしたいですね」