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1話
椅子のキャスターをからからと鳴らして、山上は再び颯介の隣に並んだ。そして、メークをするむつを興味深そうに見ていた。
眉はブラウン系にし、ピンク系のアイシャドウを塗り、付け睫までつけている。意外にも慣れた様子で睫毛をつけると、マスカラで馴染ませていた。涙袋の部分にハイライトを入れ、下睫毛は下地マスカラで長さを出している。
鏡を持ち上げて念入りに左右のバランスを確認すると、珍しくポニーテールにしていた髪をほどいた。床に届きそうな髪を真ん中で分け温めていたコテでくるくると巻いていく。
「見てて面白い?」
「面白いって言うか…手慣れてるのに、びっくりしてる。いつも化粧薄いし、三つ編み姿だから」
颯介が思った事をそのまま言うと、むつは鏡を見ながら苦笑いを浮かべていた。
「そりゃ仕事でこんなにメークしてたら、変じゃない?」
「変ではないだろ。女の子だし」
山上が感心したように、むつの長く艶のある黒髪が巻かれていくのを見ている。
量と長さのある髪の毛を巻き終えたむつは、手櫛でさっとほぐすと、型崩れしないようにスプレーをふった。